ニンテス 1
遅くなりました。
夕也がニンテスの町に入ったのは若干日も翳った夕暮れ時だった。(ちなみに二匹は姿を消している)
ニンテスは、真ん中に「朱の街道」を抱き込んで造られた町である。
町のメインストリート=「朱の街道」であり、その道沿いには宿屋をはじめ各種ギルドの支部等、「朱の街道」を使用し旅をする者を相手にした施設が立ち並んでいた。
夕也はまず最初にハンターズギルドに立ち寄り、野生ビーとウルフの結晶を換金し、宿屋の紹介をしてもらった。(ちなみにここでも王都支部での様なちょっとした騒ぎが起きたのだが割愛する)
夜が明けた次の日。夕也は魔道師連盟に、足を向けた。
ハンターズギルドの受付譲に、「【箱庭】のニンテス支部には凄腕の「時空魔法使い」が在籍しているので、もし入用なら手持ちの入れ物に術を掛けて貰ったらどうか」と言われたためだ。(ニンテスに始めて来たハンターには必ずこの話をするそうだ)因みに手数料は銀貨10枚らしい。
(円換算で、約1万円・・・。まあ、使い勝手考えたら安い方か)
等と考えつつ、魔道師連盟の紋章[開かれた本と杖]を看板に掲げた建物に入っていった。
ランプ等の人工的な明かりは皆無な上、窓には分厚いカーテンが掛けられているため室内は暗かった。
「暗っ、魔道師って皆暗いのが好きなのかな・・・?」
部屋の中ほどまで来たとき、不意に後ろから声を掛けられた。
「いらっしゃい・・・。何をお求めかしら・・・?」
「!?」
夕也が慌てて後ろを振り向くと、頭からすっぽりと黒いレースのヴェールを被った小柄な(声からして多分)女性が立っていた。
「(びっくりした~。今、気配も何にも無かったんだけど、この人;)あ・・・えと、ハンターズギルドの受付の人から、紹介を受けて来たんですけど、「時空魔法」の使い手の人は居ますか?」
「・・・ああ、それなら・・・私のことね・・・。でも・・・」
ヴェールの向こうからジーッとこちらを凝視する視線を感じた。
「でも?」
「貴方・・・小物に魔法を掛けて貰いに来ただけ・・・では無いのでしょう・・・?何か異質な魔力を感じるわ・・・」
「!」
「・・・何か訳ありのようね・・・?奥で話を聞きましょうか・・・。どうぞ・・・」
そうして通された部屋には、四隅に子供の背丈大程の高さの燭台が置かれ、中央に魔方陣の様な模様が描かれたテーブルが置かれていた。
「どうぞ、座ってちょうだい・・・。紅茶でいいかしら・・・?」
こう言って夕也に椅子を勧め、自身は奥の部屋に行った。
どうやらそこがキッチンの様で、五分ほどで彼女は二人分のお茶を持ってあらわれた。
「ああ、申し遅れたけど・・・私はレイチェル・ハーン・・・と言います・・・。よろしくね・・・?」
「ボクは夕也・如月です」
「もし、良ければ・・・事情を聞かせて頂けない・・・?内容によっては・・・なにか力になれるかも・・・しれないわ・・・」
夕也は考えるフリをしながら、内にいるニ匹に話しかけた。
(どう、思う?話しても大丈夫かな)
『どの道、「闇」属性の使い手か、精霊には会う必要があったっす』
『悪い人には見えないでありますし、良いのでは?』
(そう、だね。丁度良いか)
「・・・お話します。「時空魔法」の使い手の方にはいづれお会いしたいと思ってたので」
こう、前置きをしてから夕也は今までの事を説明し、最後に時空魔法使いに会ったらコレだけは聞こうと思っていたことを口に出した。
「召喚された人間を元の世界に還す「帰還」の魔法は無いと聞いたのですが、本当に無理なんでしょうか?」
この質問を受けレイチェルはしばし考え、話し出した。
「精霊は・・・その存在の強さに寄って・・・上位・中位・下位の階級に分かれるのだけど・・・人間と契約するのは・・・下位の精霊である事が・・・多いの・・・。けれど、下位の精霊達では・・・“世界間転移”は難しいでしょうね・・・」
「上位の精霊なら可能なんですか?」
「上位・・・でも難しいかもしれないわ・・・。私の契約精霊は・・・一応上位に分けられる存在だけれど・・・“世界間転移”を可能にするだけの・・・力は持たないから・・・」
ここで、紅茶を一口飲んでさらに続ける。
「そもそも・・・「時空魔法」・・・精霊たち風に呼ぶなら[闇属性]は・・・消費が激しいことで有名・・・。異世界への道を開く、などと言う・・・大規模な効果を得ようと思えば・・・大きな魔力を持つ魔族や竜族でさえ・・・己の命を引き換えにしかねない程の物・・・。今ある簡易陣は・・・「召喚陣」様に特化したものだから・・・他の術陣には使えない・・・。故に・・・」
一息ついて、
「新しく・・・「帰還陣」様に簡易陣を・・・一から開発する必要があるわ・・・」
と言った。
夕也の持ち物:アイスレガース・フレアグローブ・ナイフ・革袋・布袋(3枚)・傷薬(5個)・毒消し(3個)
所持金:2210ゴルト(銀貨22枚 銅貨10枚)