街道にて 2
夕也が睨みつけた先には、息絶えた鹿らしき生き物を貪る数頭のウルフがいた。
食事の最中でも見張りを立てており、すでにこちらに気が付いている。
「動物っぽい魔物と戦うのは、始めてだけど…」
夕也は呟くと、前傾姿勢をとり足に力を込め、地面を蹴った。
『ギャンッ!』
瞬く間にウルフ達と距離を詰めた夕也は、まずはご挨拶、とばかりに群れの一番外側に居た個体の顔面を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされ、低く宙を飛び近くの木に激突したウルフの顔は赤く潰れ、原型を留めて居なかった。
(あれ・・・?)
夕也は己の蹴りの威力に一瞬目を見張ったものの、一先ず他のウルフたちに意識を集中させた。
・・・10分後。
そこには、地面に落ちた結晶を拾い集める夕也が居た。
「これが『召喚者特権』+『竜の力』の威力・・・か。意識して制御しないととんでもない事になりそうだな」
『“とんでもない事”って?』
「ツッコミを入れただけで、相手の体を粉砕しちゃうとか、手を付いただけでテーブル真っ二つとか?」
『大丈夫でありますよ。先程のは、マスターがウルフの事をはっきりと“敵”として認識していたからああなっただけで、日常生活において無意識に力が発揮される事はないのであります』
「へぇ、そうなんだ。それなら良いんだけど。さて、これで最後、っと。・・・あ」
そこらに散らばっていたウルフの結晶を拾い終わった夕也が身を起こすと、前方から蜂の群れが向かって来ていた。
『野生ビーであります!』
『どうやらウルフの食べ残しがお目当てみたいっす。お尻の毒針に気を付けて!』
「ん、ちまちまと戦ってたら疲れそうだから、魔法使ってみよう。炎は使えそう?」
『効果範囲をきちんと指定すればスライムの時と同じ呪で大丈夫っす。“渦巻け”の前に“我が敵を囲って”を付ければ範囲の指定になるっすよ』
「わかった」
夕也はビーとの間合いを見計らい呪を唱えた。
「“我が敵を囲い渦巻け”【フォイアー】」
ゴォォッ!
下水道で使った時より大きな炎の渦が野生ビー達を囲み、一気に飲み込んでゆく。
範囲を指定していた為、周りの草木には燃え移らず、スライムと同様に渦が消えた後には、数個の結晶が残されていた。
夕也は結晶を集めつつ、炎牙と氷雨にグチる。
「問題はこの毎度の結晶集めだよね。仕方ないとは言え面倒だな」
『こればっかりはしょうがないっすね。一度に集める方法は無くは無いっすけど、今のマスターにはできないっすから』
「あるの?方法」
『人が時空魔法と呼んでいる属性なら可能でありますよ。空間を操作する事によって広範囲に散らばった物を集めるであります』
「“今の”ってことは出来るようになる可能性があるって事?」
『闇竜か闇の精霊と契約すればマスターにも異空間を操る力が備わるっすけど、闇竜は人嫌いっすから契約するのは難しいと思うっす』
「時空魔法を使うのが闇竜なんだね。魔族の使う闇属性とは違うの?」
『闇竜の使う闇が本来の[闇]っす。魔族が使ってる方は、我等竜族や精霊の間では“邪属性”と呼ばれているっすよ』
「へぇ。そういえばココに呼ばれた時、濃い闇の塊が在ったんだ。んで、触った途端それがいきなり光りだして、気付いたら目の前にエルトさんが居たんだよ。あの闇も時空魔法・・・キミ等が言う所の闇属性が関係してるの?」
『いかにも、「召喚魔法」は闇属性の魔法であります。遠い昔、闇精霊の契約者が少ない魔力で闇の力を使用出来る方陣を作成し、それを元にして作られたと聞いているであります』
「・・・ってことは帰る為にはその闇属性が必要って事だよね?」
『まぁ、可能性が在るのは闇属性だけっすね』
「じゃあ、当面の方針は闇属性の使い手を探すこと、だね。キミ等闇竜の居場所は知らないの?」
『彼は気まぐれで、一定の場所に留まる事はしないのであります。おまけに人嫌いの癖に‘目立たないから’と言う理由で、人間に変化して街の雑踏にまぎれていることが多いので、竜族であっても近づかなければ気付けないであります』
「なるほど。出来る事からして行くしかないね」
と、ここまで言って夕也は辺りを見回す。
「ん、取りこぼしは無いみたいだね。じゃあ、次行こうか」
その後も順調にエンカウントを繰り返し、ニンテスに付く頃には結晶入れと決めた布袋は一杯になっていた。
夕也の持ち物:アイスレガース・フレアグローブ・ナイフ・革袋・布袋(3枚)・傷薬(5個)・毒消し(3個)
所持金:290ゴルト(銀貨2枚 銅貨90枚)