閑話1
夕也がギルドに登録したり下水道でスライムを狩ったりしてるころ。明良はまだ城に居た。
実家がある特殊な拳法の道場で幼い頃から鍛えていた夕也と違い、明良が剣道をやっていたのは中・高の部活だけであり実戦に大いに不安があった為、、正式に同行する事になったメンバー達との訓練をしていたのである。
国で一、二を争うほどの攻撃魔法の使い手、グレンツェント国王女シルファ。
剣技において右に出る者無しの、王室近衛騎士シルバ。
稀なる光の属性を持ち、治癒魔法を得意とするグレンツェント大神殿所属の、神官ミラ。
この三名が同行者である。
「それにしても。ユウヤさんは何故お一人で先に行ってしまわれたのでしょう?強力な魔族に出くわしでもしたら、一人で出来る事など限られて居ますでしょうに」
訓練の合間の休憩時にシルファが嘆息する。
「あいつは単独行動を好む性格だからな。昔から団体競技とか苦手だったし。他人と時間を掛けて親しくなるより、一人で居る事を選ぶ奴だ。今回も知らない人間と旅をするのが嫌だったんだろう」
明良が夕也の性格の解説をすると、シルバが口を開いた。
「人見知り、といった所ですか」
「まあ、所謂ネコ科とイヌ科の違いだな」
「ネコとイヌ、ですか?」
「ああ、ネコ科の動物は単独での狩りを得意とし、イヌ科の動物は団体での狩りを得意とする。夕也はネコ科なんだよ。しかも普通にペットとして飼われてるタイプじゃなくて、野生のネコ科大型肉食獣。・・・チーターとか豹とかで分かるか?」
と明良が言うと、全員納得した表情になった。
「ちーたーと言うのは分かりませんが、豹なら黒豹と白豹がいます。黒豹は黒い体毛に同系色の斑点、白豹は白い体毛に褐色の斑点を持つネコ科の生き物です。彼らは単独で狩りをし、時には魔物ですら餌とすることも有るとか」
ミラが若干目を輝かせながら、言う。さらに手を顔の下で組み、うっとりしながらこうのたまった。
「あぁ~、お会いしてみたいな~、髪の色は黒だろうから、黒豹か~、いいな~」
そんなミラに、やや引きつつ明良は、シルファに尋ねる。ミラに直接聞かないのは、彼女がトリップしていておそらく聞こえていないだろうと判断した為だ。
「ミラって謁見の間には居なかったっけ?」
「はい。神官はよほどの事が無い限り神殿から出ませんもの。今回の事は国はおろか、世界の存亡にすら関わる問題ですから、城からの神官派遣の要請に大神殿が応え、ミラが派遣されてきたのですわ」
「もしかして、ネコ科の動物が大好き、とか?」
「あの様子ならそうでしょうな。我等もミラ殿とお会いするのは此度が始めてですので、知りませんでしたが。これまで聞こえてくるミラ殿の噂といえば、光の精霊に愛され治癒魔法に優れている、位でしたからな」
腕を組みつつ、こう言ったシルバになるほど、と頷きミラを見ながら、
(・・・夕也と合流した時が大変だな。興奮のまま飛びついて、引っかかれたりしなければいいんだが)
等と考えていた。