第一話『雨と雷』
いつまで続くか新小説ですね。よろしくお願いします。
…人知れず、民家に隠れて営むお店。煉瓦造りの壁には蔦や苔が生え、手入れの行き届いていない庭。
それも奇人町の住宅街を通り、家と家の間を通り、ずーっと行くと住宅街の影すらなく、長閑な田園風景広がる田舎道に出る。そこを真っ直ぐ歩き、三番目の畦道を歩いていくと山道に入る。そこを少し歩くと、その民家へと到着する。
言わずもがな、人すら寄り付かぬその場所は文字通り、なんでもするという青髪の便利屋が住んでいるとのことだった。
「…ここだよね。」
…その家の前に近づく少女。
古びたフランス人形の座る椅子をみて、少し唾を飲むも、恐れず、その扉を2回ノックする。
「…はい。」
低い声が室内から響く。
少女は黒い髪をたなびかせ、その中へと入って行った。
中は少々埃臭いものの、狭い玄関にローファを置いて中へと進む少女。廊下は人二人分の広さで、窓にはいろんな絵画があった。前へと進むと、すりガラスのある扉が見えてきた。
少女はその銀色のノブを捻り、中へと進む。
そこは書斎のようで、沢山の本の入った本棚と本の山、そして、窓際には書斎机。室内には大きな四つ足の机と椅子が四つあった。そこそこ、広い部屋であった。
その奥で背広を着た男性が一人座っていた。
髪は濃い青髪。目から首筋にかけて、蛇のような刺青が入っている。目は真紅のような赤。
「…おや、これはこれは。可愛らしい。…珍客だ。」
ふっと唇を緩め、椅子へと座る店主。
少女はそれに倣い、店主の目の前に座った。手に持っていた手提げバッグを横に置いて、手を膝に置いた。
「…あのっ…。此処ですか。…便利屋…って。」
「ん?まぁ…。誰の紹介だ?それとも、噂か?」
少女は首をゆっくりと縦に振った。
山奥の古民家の便利屋の話は奇人町で各地に噂として回っていた。その為、店主もよく知っていたのだ。
「で?…なにを御所望かね?…金さえ積めば、もの探しから…人殺しまで。なんでもしよう。便利屋だから。」
低い声で笑いながらそう言う店主。
少女は…少しおどおどとしたように、怖がりながら口を開いた。
「…守って欲しいんです。私を…。」
「ボディーガードか。何かあったのかな?差し支えなければ…教えてもらいたい。」
真紅の瞳で少女を見る店主。
少女は少し震えながら、口を開いた。
「…最近、帰り道で視線を感じるんです。足音もついてきて…それで、警察に相談しても動いてくれなくって。」
「へぇ〜。そりゃ、お気の毒で。…警察も動いてくれないってねぇ。まぁ、人は真実を求めるから。」
「…変でしょうか。見ず知らずの方にこのような…。」
「なんだ。君は受けてもらえないと、そう思って此処に依頼しに来たのか?」
「…うっ…それは。」
少女は少したじろぎ、出されたティーカップに手をつけた。薄い橙色に映る自分の顔は少し不安げだった。男は息を吐くと、歯を見せニヤリと笑った。
「わかった。…なんでもする便利屋さんは、深いところまで今は聞かない。…大体、わかるんでね。」
「…。」
男は少女の近くまで行き、少女の手を持つと手の甲へ…そっと唇を落とした。少女は驚いたように口を少し開き、頬をほのかに赤らめた。
「…契約は無期。君が安心して、寝れるまで俺が君を守ろう。…安心して、隠れてな。っと、お互い、名乗りをしてなかった。」
男は思い出したかのようにそう言った。
バタンと両開きの窓ガラスが開き、少し強めの風が吹き荒れる。
「…雷童迅。出生は偶仁町。6の時に両親が死に、12までは奴隷。13から、此処へきて便利屋家業を営んでいる。よろしく頼むよ?」
「うぇ…えと…そ、そんなことまで…申してよろしいのですか…?」
「うん。…君に信用されるまでは俺に俺の情報を隠すメリットはないからね。さ、君も。」
そう言って男…雷童迅は、後ろの背もたれに思いっきりもたれると、ふっと微笑んだ。目の前の少女が少し慌てているのを、ゆったりと待っているのだ。
「…えっと…冴島時雨…です。歳は…18で…えっと、奇人町に住んでます。」
「うん。合格。時雨くんだね。よろしく。」
くるくると足を軸に回転し、胸に手を当て、お辞儀をする迅。その姿にしどろもどろしていた時雨の顔に光がかかる。
…この人は信用しても良い人だ。
心の中でぽうっと光が差した気がした。
「…私は、霊感とかそういうのじゃなくて…よく視線を感じているんです。部屋にいるときも、学校にいるときも…お風呂にいるときだって、感じるんです。」
「…うん。それは、多分…。君が器として、認められたんじゃないかな?」
「う…器?」
軽く首を傾げる時雨。
迅は歯を見せて、ニヤリと笑うと本棚を指差した。
「そこの上から五段目の右から三番目、赤い背の本を取ってみろ。」
時雨は言われるがまま、古い赤い背の本を本棚から抜いた。埃をかぶっていたその本は、表紙に古い紙がかかっており、時雨はそれを退けた。
そこには『魔人闘記』と金の文字で書かれていた。
「魔人?」
「魔人界偶仁町。人間界の裏には、もう一つ、似た世界が広がっている。」
そう言いながら、時雨の背後へ歩いて移動する迅。時雨は、ペラペラと少し古い本をめくっていった。
「これは、どこかの民族寓話か何かですか?」
「うん?まぁ、惜しいかな。…魔人界は実在する。そこには人の形をした特別な力『万象』を持つもの、魔人の住む世界。」
「…ま、魔人?ば、万象?」
「まぁ、すぐに理解する必要はないよ。…それぞれ、奇なる力を持っているってだけさ。…来客みたいだね。」
ガタリと家の扉や窓枠が動く。
刹那、窓ガラスをぶち破り、大量の針のようなものが飛んできた。
「激しいノックだね…ェッ!!」
「キャァァァッ!!」
迅は時雨を左腕に抱えると、そのまま家の入り口へ一足で駆ける。その姿はまさに電光石火。
空中を滑るように入り口まで辿り着くとそのまま入り口を開け、外へと飛び出した。
「あ、あれはなんですかッ!?」
「言ったろ?君は器。魔人からしたら、君が喉から手が出るほどほしくてたまらないのさッ!!」
背後から迫り来る人影に、ニィッと笑いながら迅は右腕から青い電撃を放った。
それが飛んでくる何かとぶつかる。
ぐっと足を止めて、時雨を守りながら背後を振り向く雷童。足元は背丈の長い草が生い茂り、木漏れ日により少し視界が保管されているのみ。
その中をビュービューと微風が吹く。
ズサズサッと音を立てながら、目の前から男がやってきた。男は赤茶色の髪を後ろでまとめ、ギョロリと人相の悪い目つきで迅を睨んだ。
「へいへい。なんで、こんなちっぽけな人間界に魔人が居る?」
「なんでだと思う?」
「まぁ、いいさ。取り敢えず、死んでくれ。…『毒蹂鱗』」
男の筋肉質な二の腕から鱗のようなものが飛び出し、円形に並ぶ。
その後、恐ろしい速度で時雨と迅に迫りくる。
「その鱗は猛毒、掠ったらその傷から毒が回るぜェェ?」
「…だったら叩き落とすまで。」
迫り来る鱗へ迅は左手を銃のような形にして向けた。その腕はバチバチと電撃が纏われており、周りに少し放電していた。
「雷の凶弾」
バンッ!!
大きな音と共に、放電した電撃が銃弾のような形を作り、まるで生き物のように自由に跳弾する。
迫り来る鱗よりも早く。
鱗を破壊しながら、爆発した。
「キャァァァッ!!」
時雨が迅の後ろで耳を押さえて、悲鳴をあげる。男二人。爆風に髪を吹かれながら、ニヤリと笑い、立っていた。
「…。」
「…やるじゃねえか。雷野郎。」
「そりゃどうも。」
「…こりゃちと本気にならなきゃな。」
そう言いながら、左の手の指を鳴らし、歯を見せながら笑った。
「テメェも魔人なら、いつまでもステージ一で居るわきゃねえよなァッ!!…万象武装。」
男は上を向いて咆哮を上げる。
すると男の身体から毒の鱗が一箇所に集まり、棒状に固まる。それを男がガシッと掴むと真紫の棒が現れた。
「…なに…あれ…?」
「魔人の血は特殊なエネルギーが流れている。それが、万象。万象は生命の魔人と呼ばれる一人のものから沢山の魔人へと分けられた力。子どもから使い慣れている力はステージごとに姿を変える。…ステージ二は万象武装。万象のエネルギーを固め、自分の武器に変える。つまりはアイツの棒は一撃喰らえば体に毒が回るもんだってわけさ。」
グルングルンと棒を回し、風を切る男。迅に対してニヤニヤと笑い、クイクイと手を動かして挑発している。
迅は髪を掻き上げ、舌なめずりをして笑った。
「…ヒャッハーッ!!」
ブルンっと音を立て、大きくしなる棒を天高く突き上げ、跳び上がりその勢いのまま振り下ろす男。
それが迅の頭の上まで振り下ろされるが…。
「万象武装。」
迅はそれに対して、右腕に持った何かを上へと上げる。その何かと棒が当たり、火花が散る。
そのまま上へと弾き上げる迅。
男は空中で回転しながら跳び上がり、着地した。
「…アァン?そりゃ、銃か?」
「雷鳴の蛇、俺の愛銃さ。」
木漏れ日に照らされ、銀の銃口が光り輝く。
前へと向けて、引き金を引く迅。
銃口から、電撃の弾丸が放たれるもそれを棒をぐるぐると回転させることでガードした。
「面白え。…アンタ、名前は?」
「…雷童迅。」
「そうか。…俺は毒島喜兵衛太。…テメェを殺す男さッ!!行くぜッ!!野毒棒ッ!!」
ぶるんっと音を立てて構える喜兵衛太。
迅はそれに対して銃口を構えて答えた。