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飛竜の上で……

 飛竜が風に乗るように飛んでいる。馬車の中で飛竜に乗ってみたいと思ったことが、あっという間に叶うとは思わなかった。


 チラリとヴィルフリードさまを見ると、「寒くないですか?」と労わるように聞いてくる

 

 寒いとは思う。竜聖女の時に着ていた服のままだ。でも、寒いとは言えなかった。

 地上とは温度が違うようで、空の上は体温を取られるように風が吹いていた。

 

「空の上は、地上と違うので……失礼」


 そう言って、ヴィルフリードさまのマントの中に包まれる。マントの中では、彼のハーフプレートが頬に当たりひんやりとした。でも、不愉快ではない。


「……すみません。鎧も冷たいですね」

「大丈夫です。……グラムヴィント様もこんなにひんやりとしてました」


 今朝別れたばかりだけど、グラムヴィント様を思い出すのと同時に、ヴィルフリードさまが不器用な様子で私を気遣うことが不思議と私の緊張を和らげた。


「ふふっ……先ほどと、話し方が違います」

「すみません……地が出るほど慌てていました」


 顔を隠すよう頭を抱えて、みっともないところを見られた、と言いたげに少しだけ耳元が赤くなっていた。


「私に気を遣わないでください。私は、もう竜聖女ではありませんから……それに、もう伯爵家に帰ることもありませんから、私はもう令嬢でもないと思ってください」

「そのことですが……行く場所がないと知らずにあなたを送り出してしまい申し訳なかった。どうか許して欲しい」


 馬車を用意していたのは、エディク王子。実家にとどまることもできなかったのは、嫌われている私のせいなのだから、ヴィルフリードさまが悪いところは何もない。


「ヴィルフリードさまのせいではないので、本当にお気になさらないでください……でも、私がここにいるとよくわかりましたね」

「実は、エディク王子に、その……結婚の断りに行った時に、ちょうどウォルシュ伯爵家のレイラ嬢が来ていて、あなたがブランジス子爵家へと向かったと聞いて急いで来たんです」

「そうだったんですか……」

「まさか、実家に帰れないなど予想もしてなくて……その上、妾に出されるなど思ってもなかった。本当に申し訳ない」

「でも、私などブランジス子爵様は気に入らないと思いますよ。それに、これで私は実家となんの関係もなくなるので、自由になれるところだったのです」


 項垂れながら私に謝罪するヴィルフリードさまに、私は大丈夫です、と伝えたくてそう言った。

 でも、ヴィルフリードさまは、それに眉間にシワを寄せた。


「ブランジス子爵をご存知ないのですか? 彼は、あなたよりも年上で有名なコレクターですよ。珍しいものが好きなのです。とてもあなたを手放すとは……」

「だから、私を引き渡そうとしたのですね……珍しい銀髪だから……」


 私を妾にとるには、理由があった。別に私が好きなのではない。

 この国唯一だった竜聖女で銀髪碧眼。特に銀髪だけは誰とも被らない髪色。

 私は、物のように売られるところだったのだと実感した。


「すみません……あなたを物だと言っているわけでは……」


 考え込む私に落ち込んだと思ったのか、ヴィルフリードさまは、また申し訳なさそうに謝る。


「ヴィルフリードさまがそう思っているわけじゃないとわかってますから……それに、私に丁寧に話す必要はありません」


 そう言うと、ヴィルフリードさまは無言になる。空の上はやはり寒くて、いつもの竜聖女の洋服だけでは心もとない。遠慮がちに私をマントに包んでいたヴィルフリードさまの手に力が入り、さらに密着して頭までマントを被せられた。黒いハーフプレートにコツンと頭が当たる。


 ハーフプレートは冷たいのに、自分の頬が少しだけ温かく感じた。


「……ヴィルフリードさま。私は、近くの森で降ろしてください。遅い時間になりますから、今のうちに寝床を見つけたいのです」

「森……?」

「はい。お金は持ってないので、森で今夜は寝ようと思います。明日は、仕事も探しに行きたいですし……」


 困ったような無表情で、ヴィルフリードさまはマントから顔を出した私を見下ろしている。


「……あなたは、俺の邸に連れて行きます」

「でも……」

「嫌だと言っても連れて行きます」

「ご迷惑に……」

「なりません。あなたがなんと言おうと決して離しません。絶対に邸へお連れいたします!」


 何を言っているのか、困惑してしまう。結婚しないと言われたのに、私が邸に行っていいのだろうか。

 飛竜の上で、しかもヴィルフリードさまの腕の中で逃げ場もないし、どこにも行けないまま、ほんの少し考えていた。

 

「……しばらくご厄介になっても?」

「ずっといてください。あなたは俺が守ります」

「では、お仕事が決まるまでお願いします……でも、ヴィルフリードさまらしく話してください」


 私は、結婚相手ではないのだから気を遣わないで欲しい。

 妾にだされそうになって、行き場所のない私を気にしてくださっただけで十分だ。


「フリードと……呼んでください。長い名前だと呼びにくいでしょう」

「はい。フリードさま。どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく……リューディア」


 騎士さまらしく『守ります』と言ってくれたことに照れてしまう。彼が言うと、本当に守ってくれそうだと安心する。

 そう思うと、彼を見て微笑むようによろしくお願いします、と言えた。

 笑顔を作ることが苦手だったのに、笑顔で言えた自分に少し驚いているのだ。

 

 そんな私に気付くわけもなく、ヴィルフリードさまはまた私の頭までマントを被せていた。












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