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漆黒将軍は馬車の扉を壊す

 ゴトゴトと走る馬車の中で、私はなんのために子爵のもとへと行くのだろうと思う。

 私など、気に入るわけがない。ヴィルフリードさまと同じように結婚を断るのではないだろうか。

 

 子爵が私を気に入りさえしなければ、私は自由の身だ。そうすれば、どこに行こうが誰もなにも言わないはず。

 行き先がないからといって、実家に帰されることも、もうない。


きっとそうなるはず。


 窓の外を見ると、岩肌が所々にある山が見え、その空を飛び交う飛竜の姿見えた。

 飛竜は自由だ。一度でいいから乗ってみたい。こんな行き場所のない私など、さらにちっぽけに思えるかもしれない。きっとそうだ。


 それに、山の街に行くと竜のお世話ができるのだろうか。


 そう思うと、結婚するよりも私には合っている気がする。

子爵様が私など気に入るとは思えない。誰とも違う銀髪の容姿に、着飾ることすらできない令嬢。しかも、竜聖女をクビになった。いいところなんか、一つもない。


「……子爵様が私を気に入ることなどないでしょうから、今度はすぐに街をでましょう」


 昨日、竜聖女をクビになって、今日にはヴィルフリードさまに結婚を断られた。

 実家に留まることもできず、いきなり子爵様の妾に出されることになっている。


 馬車の中にいるこの時間が一番休めている。そう気付くと眠気がきて欠伸をした。


 昨夜は、グラムヴィント様のことが気になって夜遅くまで朝の準備をしたり、あの巨大な籠の中で眠ったせいだと思う。その上、いつもよりも早起きをして、竜の身体を拭いていたのだ。

 寝不足なのは明白だった。


 ____ウトウトとしながら、窓辺にもたれていると外が騒がしくなっていた。

 

 どうしたのだろうと、ぼやける目をこすりながら開き、身体を起こそうとすると馬車が乱暴に揺れた。

 馬の暴れるような嘶きに魔物でも出たのかしら、と身構えた時に「馬車を止めろ!」と叫ぶ声がした。

 窓の外をよく見てみると、飛竜が何匹も降りてきている。

 

 竜騎士だ……。どうして、竜騎士がここにいるのかしら?

 いや、それよりもどうして竜騎士たちにこの馬車は囲まれているのかわからない。


 困惑したまま、窓の外の竜騎士たちに釘付けになっていると、いきなり馬車の扉がバンッと壊れるほど強く開いた。いや、実際に扉は壊れて、ガタンと音を立てて落ちた。

 馬車の扉に鍵を付けてなかったっけ?

 そう思いながらもそれに、ビクッとしてしまう。


「リューディア……」


 息荒く扉を開けたのは、あの漆黒将軍のヴィルフリードさまだった。


「ヴィルフリードさま……?」

「覚えていてくれたか……」

「きょ、今日の午前中にお会いしましたので……」


 午前中に会った方を忘れるほど、記憶力がないわけではない。しかしながら、そんなことよりもこの状況が理解できない。

 何故、この馬車は竜騎士たちに囲まれており、ヴィルフリードさまは馬車の扉を壊してここにいるのだろうか? 


「すぐに帰ろう! 行き場所がないなど知らなかった! どうか許してくれ!」

「ひゃっ……!?」


 ヴィルフリードさまは、ホッとした表情を見せたかと思えば、いきなり馬車の中で小さくなっている私を抱きかかえて、ギュウッと力いっぱい抱きしめて来る。


「ヴィ、ヴィルフリードさま……っ!? どうしてここに……っ!? っ……!!」


いきなりヴィルフリードさまの腕の中にいることに、落ち着かずバタバタと抜け出そうすると、馬車の出入り口に額がゴンッと音を立てて打ってしまう。


「大丈夫か!? すまない! 俺がデカいせいか!?」


 それもちょっとあるかもしれないけど、私が抜け出そうとしたからだと思う。

 額を撫でながら「大丈夫です」というが、ヴィルフリードさまは、軽くパニックになっている。

 それに、最初にお会いした時の落ち着いた様子ではない。『私』から『俺』に変わっている。最初にお会い時は、私に気を遣っていたのだろう。


 馬車の外に、恥ずかしながらも大人しく抱えられたまま出ると、御者は青ざめて丸くなっている。周りを見ると、この馬車は竜騎士たちに包囲されており、青ざめた御者の様子に納得する。


「……わ、わ、私は、ウォルシュ伯爵に言われた通りにお嬢様をブランジス子爵家へと送り届けていただけです!! どうかお許しを……」


 腰を抜かしている御者は、周りの竜騎士たちに一斉に睨まれて、助けてくれ、と言わんばかりに懇願するようにそう言った。


「あの、御者が何かいたしたのでしょうか? 彼は、私を送り届けようとしていただけで……」


 困惑しながらも、おそるおそる言いながらヴィルフリードさまに抱えられたままの腕の中で彼を見上げる。すると彼と目が合う。眉間のシワは、恐ろしいほど寄っており迫力があり過ぎる。


「……送り届けようとしただけか? 彼とは昔からの馴染みの御者か……いや、それならば、何故君が子爵のもとへ行くのを止めない。せめて、俺に知らせてくれたら……」

「昔馴染みではありません……私は、もう十年以上グラムヴィント様のお側から離れたことはありませんから……ウォルシュ伯爵家のことは何も知らないのですよ。ですから、こちらの御者とは今日が初対面です」


 だから、使用人のことも知らない。執事は、十年以上勤めているから、私のことがわかっただけのことで、どのような人間かも私は知らないのだ。


「竜聖女とはいえ、外出は認められているはず……いや……そういうことなのか……」


 顎に手を添え、考え込むように視線をそらしたヴィルフリードさま。片手で私を抱えているなんてどんな力をしているのか……。


「御者よ。リューディアは、俺がこのまま連れて帰る。そうウォルシュ伯爵家に伝えろ」

「は、はいぃぃ!!」


 バサバサと飛竜が馬車の周りを飛んでいる。竜騎士たちに囲まれて、御者は怯えたまま返事をした。今にも止めを刺しそうな雰囲気の中、御者はさぞかし恐ろしかっただろう。

 そのまま、ヴィルフリードさまが「行け」とハッキリと冷たく言い放つ。御者は、ここから解放されるとわかり、一目散に馬車を走らせていなくなった。


 ……私は、ここからどうするのでしょうか?

 そんな疑問を口にも出さずに思うと、ヴィルフリードさまの周りに竜騎士たちが集まる。


「リューディア。俺と帰りましょう。さぁ……」

「でも……私とは、結婚しないと……」

「無理やり結婚などさせません」


 きっぱりとそう言うと、ヴィルフリードさまの側に寄って来た竜騎士の一人がいつの間にか、私のたった一つのトランクを馬車の中から取り、それを持ってまた飛竜に乗っている。


 ヴィルフリードさまに抱えられていた私の身体は、優しく持ち上げられて頭を下げた飛竜に乗せられた。その後ろにヴィルフリードさまが乗り込んだ。


「帰還するぞ!!」


 ヴィルフリードさまが、そう叫ぶと一斉に飛竜が空高く上昇し、城へ向かって飛行を始めていた。









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