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何の思い入れもない伯爵家

 馬車は、ヴィルフリードさまのお邸に向かうはずだったけど、彼と結婚しないのだからもう行けない。御者は、行き先はヴィルフリードさまのお邸だと聞いていたから困ってしまい仕方なく実家のウォルシュ伯爵家へと私を連れて帰ることになった。


 ウォルシュ伯爵邸に着くと、御者は私を気にしながらも私を送り届ける任務が終わったようにして帰って行った。

 私は、邸の前で玄関扉も開けずに、どうしようかと突っ立ったまま悩み中だ。


 正直いえば帰りたくない。でも、私には行くところなどない。

 このまま、どこかに行こうかなぁ……と思うと邸に入ることができずに踵を返した。


「……リューディア様?」


 踵を返したところで、邸の玄関から執事が私の名前を呼びながら顔を出した。馬車が到着したことに気付き、玄関にやって来たのだろう。

 自信なさげに私を呼ぶのは、私のことをもう十年以上見てないからだ。それでも、私がリューディアとわかるのは、この銀髪のせいだ。この銀髪は、誰とも同じではない髪色だから。おそらく、この国で私一人だ。


 執事は私を邸に入れ、お父様たちに伝えに行く。

 邸内に入ると不思議な感じだった。私は十年以上もこの邸に帰って来てないのだ。何の思い入れもないし、懐かしいとも思えなかった。


 執事に案内されて居間に行くとお父様たちがお茶をしており、私を見るとお父様に継母に義姉のレイラが呆れたような笑顔を見せた。その中で、執事はそっと部屋を出ていった。


「まったく……リューディア。お前は何をやっていたんだ。竜聖女をクビになるなど前代未聞だ。我が家の恥だぞ」

「でも、お父様。大丈夫ですよ。私が、本当の竜聖女になりましたから……エディク王子も我が家には何の問題もないとおっしゃって下さってますから、我がウォルシュ伯爵家は安泰ですよ」


 自信満々にそう話す義姉のレイラ。どうやら彼女が新しい竜聖女らしいと、初めて知った。

 でも、本当にそうなのだろうか。義姉のレイラは私と違うのに。


「信じられない? でも、エディク王子が私を竜聖女だと認めてくださったのよ。エディク王子だけじゃないわ。役人も認めたのだから私がこの国唯一の竜聖女よ」


 確かに竜聖女だと認めるのは、エディク王子だけの独断ではできない。グラムヴィント様をお慰めすることはこの国の繁栄には必要なことだから。

 そのグラムヴィント様は冬眠に入られたし、確認はできなかったけど国が決めたことなら私がなにか言う必要はない。そう思うけど……。


「本当にお義姉様が竜聖女なのですね? グラムヴィント様はなんと言っておられたのですか? それに、彼は冬眠から起きたら、」

「やだ、負け惜しみ? リューディアに指示してもらわなくても結構よ。それに私が竜聖女よ。グラムヴィント様も私が気に入るはずよ」

「そんなつもりじゃ……」


 勝ち誇った義姉のレイラは、笑いながらそう話す。お父様も継母も義姉のレイラが竜聖女になり満足気だ。でも、義姉のレイラにグラムヴィント様のお世話ができるのかと不思議に思ってしまう。


「でも、どうしてリューディアはここに帰って来たのだ? エディク王子が行き先を決めたとおっしゃられていたのに……」

「その……お相手の方に結婚はできないと言われまして……」

「やだ……いきなりフラれるなんて。もしかして、この邸にいればエディク王子とやり直すチャンスでもあると思っているのかしら? でも、無理よ。エディク王子は私が好きなんだもの」


 勝ち誇ったように笑う義姉のレイラ。忘れていたけど、竜聖女がエディク王子と結婚するのだから、義姉のレイラが新しい婚約者で間違いない。

 それに、エディク王子のことはどうでもいい。彼を好きだったことは無い。


「それにしても、あなた……リューディアをどうしますの? ここにいればレイラの結婚に差し障るかもしれませんし、もう竜聖女ではないのだから我が家にいる理由はないでしょう」


 継母が困ったように言うけど、それは私を追い出したいのだとわかる。


「私は、すぐに出て行きますからご迷惑はおかけしません……どうぞおかまいなく」

「ならすぐに出て行きなさい。せっかくエディク王子が結婚をご用意されたのにできなかったのは、私たちのせいではないからな……まったく、情けない」


 お父様がそう言うと、義姉のレイラが飲んでいたお茶を置いて、口角を上げる。


「ブランジス子爵のところに行かせればいいではないでしょうか。本当なら、子爵がリューディアを欲しがっていたのですから……」

「そうね……それがいいわ。子爵ならすぐにでもリューディアを受け入れるわ!」


 義姉のレイラが、名案のように言うと、継母が喜んでそう言った。


 話を聞いている限り、私が婚約破棄をされたら、ブランジス子爵の妾に出すつもりだったらしい。でも、エディク王子が義姉のレイラを気遣って私に結婚話を用意したためにブランジス子爵の妾に出せなくなっており、断ったところに私が結婚できずに帰って来たということだった。


 やっぱり帰って来るんじゃなかった。私は、竜聖女をクビになっても籠の鳥なのは変わらない。

 あのエディク王子が準備した馬車などに乗るんじゃなかった。


「では、せめて私が子爵さまに気に入られなかったら、もうこのウォルシュ伯爵家とは関係ないものとしてください。私も、もうこちらに帰ることはないので……」

「好きにしなさい。子爵に追い出されても決して我がウォルシュ伯爵家の名を使うなよ」

「もちろんです」


 帰って来たことを後悔をすると同時に私は、この邸から出ることになった。

 私が、産まれた家。でも、この家で育ったという感じはない。だから、戻って来た時と同じように出て行くのになんの感傷もない。

 それでも、帰って来て数時間でこの邸から出ることになろうとは思ってもなかった。


「もう帰ってこないでね。カナリアちゃん」


 そう言って、義姉のレイラが見下したように笑う。

 私をどうして、カナリアと呼んだのか……。


 そのまま、私は用意された馬車に乗り込んだ。そして、ブランジス子爵のお邸へと向かうために馬車は走り出した。









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