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暗殺

 静かな足音が響き渡るほど、この地下牢には誰もいない。今は、崩壊した城に国中の混乱に全騎士団が出動している。陛下の親衛隊まで人員をさいて救助に当たっているぐらいだ。


「だ、誰か来てくれたの!? ここから出して!! 私は、あのラウル王子にそそのかされただけなの!!」

「ふざけるな! レイラが強欲だからこんなことになったんだ! 私は王子だぞ!! 早く出してくれ!!」


 響き渡る足音に助けを求めるレイラとラウルは、通路を挟んだ向かい合わせの牢にいる。その向かい合わせのまま、お互いを罵り合い醜いことこの上ない。


「ヴィ、ヴィルフリード様!? 助けてください!! 私は、まだエディク王子の婚約者のはずですわ!!」

「黙れ」


 暗い地下牢で、ロウソクの薄暗い灯りの中。近づいてきた顔を視認したレイラは格子が揺れるほどすがっていた。

 その姿が不愉快でたまらない。こんな愚かな人間二人のために、リューディアが穢れる必要はないはずだ。この二人が生きている限り、リューディアは傷ついたままだ。

 そう思うのは、自分だけではなかった。右眼に鼓動などないのに、不思議とその感情が重なるのがわかった。気がつけば、包帯を外してその緋色の眼を露わにしていた。


「……よくも、『よくも、私の可愛いリューディアを穢そうとしたな』」

「ひいっ……!?」


 緋色の眼に怯えるレイラ。グラムヴィント様に睨まれた時のことが忘れられないのだろう。それ以上に、この緋色の眼は怒りしかない。


「レイラ……? どうし……た? ……っ!? ヴィルフリード!? その眼はなんだ!?」


 レイラの様子に困惑したラウルは、振り向いた俺に怯えた。背後に怒りに満ちたグラムヴィント様を見ているかのような表情。今にも、ひきつけを起こしそうなほど牢の中で腰を抜かしている。


「『リューディアをこれ以上傷つけることは許さない』」


 まるで、グラムヴィント様が声を発しているようだった。


 怯える二人。この二人がいてはリューディアの悲しみは消えない。あの穢れのない彼女に殺意まで持たせたのは許せないことだった。それは、俺だけの考えではなかった。

 




 響くことのないほどの微かな悲鳴は誰にも届かず、人の気配のなくなった地下牢をあとにした。


 __リューディアの初恋は、グラムヴィント様。あなたが羨ましい。

 彼女は、この黒緋竜のために手を汚すこともいとわなかったのだから……。




 それから、数時間後。定期の見張りが二人の様子を確認に来た。今は、崩壊のせいで、この二人にかまっている暇がなく、監視も定期的に来ることになっているのだ。

 その見回りが、牢の中で倒れている二人を発見する。すでに絶命して倒れていた二人は暗殺されたと報告が来た。二人のしたことは、すでに皆に知られている。

 レイラが連れていた使用人たちも、エディク王子に竜聖女の仕事をしてなかったことをすべて証言していた。


 この国は竜の国。その竜の国を守護していたグラムヴィント様は、尊敬と崇拝そして畏怖の念で見られていた。その黒緋竜を愚かな人間のせいで、荒れ狂った竜にしてしまった。そんな二人を暗殺したいと思える人間が出てきても、なんらおかしなことではなかった。実際に、高官たちは怒り狂っている。

 人知れず暗殺をしたのだから、証拠なども残らない。しかも、現在の状況で誰がこの惨状を引き起こした人間二人の無念を晴らそうとするのか。そんな人間は誰もいなかった。だから、誰も暗殺犯にたどり着くことはなかった。














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