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地下世界

 グラムヴィント様は、私を抱きかかえたまま大地の中を飛ぶように潜り進んでいる。私が傷つかないように、私の周りには球体の防壁(シールド)を張って一直線に進んでいるのだ。

 グラムヴィント様が通った後には、巨大なトンネルのような大穴になっている。


「グラムヴィント様。どこに行くのですか?」


 なにも言わないグラムヴィント様の眼は血走っており怒っている。誰が見ても変わらない恐ろしい眼かもしれないけど私にはわかる。私を慈しむ優しい眼ではなかった。


 たどり着いた先には、グラムヴィント様が動いても大丈夫なぐらい巨大な空洞の地下世界のようだった。以前は水もあったのか岩のような鍾乳洞。その中で、グラムヴィント様は座った。


「グラムヴィント様……ここは?」


 地下にこんなところがあるなんて驚いた。


『私が、産まれた場所だ。私は、ここで白き竜として産まれた』


 大地の力が強いグラムヴィント様。こんな地の中から産まれたから大地の力が強いのだろうと納得する。人間では、到底到達できないこの地下世界のような場所を見渡していると、グラムヴィント様が苦しそうに唸る。


「グラムヴィント様。苦しいのですか? すぐに浄化します。お義姉様は、魔素の浄化をしてなかったのですね……どうしてお伝えしなかったのですか?」

『寿命は近い……最後の時まで起きるつもりはなかった』

「でも、白き竜が出現したことはわかってましたよね? 一体どうやって……」


 浄化の魔法を使う。グラムヴィント様の身体の穢れた魔素を浄化しながら聞いた。

 グラムヴィント様は冬眠に入っていたはず。それなのに、白き竜の出現の時に地震を起こしている。本当に寝ていたのか……そう疑問には思う。でも……。


「……会いたかったです」

『そうか……だが、人間の匂いがする』

「……そんなにお鼻は良かったですか? でも、それはきっとフリードさまの匂いです。毎日一緒にいてくださったから……」


 竜だから人間よりも嗅覚は優れているのだろうけど……。不思議に思いながらグラムヴィント様を見上げると、眼はまだ血走っている。


『リューディア……帰りたいか?』


 その言葉に、脈打ってしまう。フリードさまのところに帰りたい気持ちはある。

 でも、もう帰れない。


 寿命がすぐそばまできているグラムヴィント様を置いては行けないし、もしまた荒れ狂ってしまっては……この国を滅ぼしてはいけないと思うと同じくらいに、グラムヴィント様の最後を荒れ狂った竜で終わらせたくないのだ。


「……帰りたいです。フリードさまと生涯を共にしたいという気持ちになりました。でも、グラムヴィント様を置いてはいけません」


 グラムヴィント様にしがみついて、静かにそう言った。彼にうそはつけない。

 その私をグラムヴィント様は抱きしめる。猛々しくなっているのを抑えているのか、いつもの力加減と違い、鋭い爪が背中に刺さる。


「……っ……グラムヴィント様。落ち着いて下さい。もっと浄化をかけますから……」

『リューディア……私の大事な竜聖女。悩むことはない……あの黒い男が来れば、一緒に帰りなさい。来なければ、私と共にここで眠ろう』


 それは、私とグラムヴィント様の最後をフリードさまに選ばせるということに聞こえた。

 フリードさまの選択が私とグラムヴィント様の行く末を決めるのだ。


「……ここは、地下世界ですよ。フリードさまには来られません。私は、グラムヴィント様と最後までいます」


 それに私は、レイラお義姉様とラウル様を殺そうとした。本気で怒って殺そうとしたのだ。それをあの場にいた人たちは見ている。いくら愚か者でも、レイラお義姉様たちは人間なのに。ヴィルフリードさまだってそれを聞いて、私を軽蔑するだろう。


『リューディアが大切なら、必ずあの黒い男は来る……それまでは、眠っていなさい』

「だ、ダメですよ! 今眠ってしまったら、グラムヴィント様の浄化がっ……!!」

『もうよい……』


 眼が血走ったままで、グラムヴィント様の大きな顔がこちらに寄る。その彼と口付けを交わす。硬い唇は、切なく思える。そのまま、意識が遠のいていった。


『リューディア……私の大事な愛しい竜聖女。私は、この結末を知っているのだ……早く来い。ヴィルフリード……私が、また荒れ狂う前に……』













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