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崩壊の始まり


 毎朝フリード様を見送る。忙しい時は、城のお泊りになることもあるけどハンスが言うには、以前よりも帰宅することが多くなったと喜んでいた。

 私は朝早くから、飛竜のブリュンの食事をあげていた。隣には、白き竜が小さな翼で浮いている。


「リューディア。もう仕事に行く」


 今日は、街の外に行かれるようで早めに出勤らしい。

 国に甚大な被害はないけど、少しずつ異変が起きているのか魔物が多々見られるようになっている。グラムヴィント様の寿命が尽きるまでは異変は無いはずなのに。


「白き竜も元気だな……以前よりもよく食べる」

「おもに魔素を吸っていますけどね……フリード様。知っていましたか? 白い竜に出会えば幸運が訪れると、お伽話みたいな言い伝えがあるんですよ」

「そういえば、幼い頃に読んでもらった絵本に書いてあったか……もう何十年も昔で忘れていたな」

「私には幸運が訪れています。フリード様にもきっと幸運が訪れますよ」


 フリード様が竜聖女の秘密を知っても一緒にいてくれることは私にとっての幸運だ。


「俺にも幸運がきている。ずっと見ていたリューディアが一緒にいてくれることが、今でも夢のようだ」


 フリード様がかがんで顔が近くに寄る。そのまま、頬に軽く口付けをされる。


「……行って来るよ」

「はい、いってらっしゃいませ」


 いまだに慣れないこの仕草に照れながら、フリードさまを見送った。

 それでも、彼といると不思議と頬が緩む自分に最近は気付いている。


「……あなたもフリードさまが好きなの? 本当に素敵な方だわ」


 フリードさまといればいるほど毎日彼に惹かれている。このまま、一生共に過ごしたいと思う。そんな期待がありながら、胸の竜紋を抑えている。そんな私と同じように白き竜も、名残惜しそうにフリードさまを見送っていた。


 フリードさまは、お強いから心配はいらないだろうけど、魔物が活発なのは気になる。もしかして、グラムヴィント様の籠の檻が清浄ではないのではないだろうか。お義姉様が、浄化の魔法を使えなくても、浄化の魔法薬を使えばいいし、あの籠の檻に引かれている水路は清浄なものだったはず。それだけでも、問題はないはずだ。

 グラムヴィント様を傷つけることさえしなければいいし、この国にグラムヴィント様を傷つける人間なんかいない。グラムヴィント様と戦えば、絶対に生きては戻れない。


「グラムヴィント様に会いたいわ……あなたのことも可愛がってくれると思うんだけど……」

「キュゥ……」


 数時間もすれば、イレブンシスのお茶の時間になる。フリードさまの邸では、ハンスを筆頭に私によくしてくれており、大事にされているのがわかる。でも、白き竜は見せられずに、ブリュンの寝床と、この小川は使用人たちは来られないようにしている。元々ブリュンを恐れて使用人たちも来なかったから、特に代わり映えのない決まりごと。やってくるのは、ハンスとフリードさまの従者のリックだけ。そのリックがお茶の時間だと呼びに来た。


「リューディア様。イレブンシスの時間です。午後には仕立て屋も来ますから、昼食も少し早くお摂りになりますか?」


 午後から来る仕立て屋は、王家御用達の仕立て屋。そこでフリードさまは私のウェディングドレスを仕立てるつもりだ。

 ウェディングドレスなんて、緊張するなぁ……と思っていると、急に白き竜が「キュッキュッ!?」と騒ぎ出した。


「どうしたの?」

「俺が来たからでしょうか?」

「違うわ。リックのことは味方だと認識していたもの……」


 その瞬間。地面があり得ないほど揺れた。


「……っ!? リューディア様!? 大丈夫ですか!?」


 立っていられないほどの揺れに、私とリックはその場にしゃがみ込んでしまう。

 白き竜は、城を見ながらグルグルと飛び回っている。


「……グラムヴィント様になにかあったのよ……」


 自然の地震とは思えない。こんな荒ぶるような地震に身の毛がよだつ。

 そして、地面が割れそうなほどまた揺れ始める。


「リック! 使用人たちを邸から出さないで! 街の人たちもここに避難させないと……! これは、自然のものじゃないわ!!」

「リューディア様は!? どうなさるんですか!?」

「この邸を守るわ! 防御魔法を展開するから急いで!!」


 街全体に防御魔法を展開できるほどの力はない。でも、邸ぐらいの大きさならいけるはず。

 急いで邸の中心の庭へと走った。フリードさまの邸は大豪邸だ。こんな大きな防御魔法を展開した事なんてない。こんなことは起きたことがなかったからだ。それでも、やらなければならない。


 揺れ続ける地面に足を取られながらも必死で走った。リックも同じように急いで邸に走って行っている。


 この邸の中心になるぐらいの場所で、座り込み両手を地面につける。振動が聞こえそうなほど、身体がビリッとした。


 グラムヴィント様に一体なにがあったのだろうか。

 寿命が近いといってもそれが荒ぶる理由にはならない。


 防御魔法を展開させると、この大豪邸がドーム状に灰色の魔法の膜で覆われて行った。

 そして、この邸の中だけ揺れが止まった。


「リューディア様! これは一体……っ!?」

「ハンス! 急いで街の人たちをここに避難させて! 街全体に防御魔法を展開するのは私一人では無理なの! 大地に飲み込まれたらどうなるか……!!」

「リューディア様はどうなさるのですか!?」

「私は……グラムヴィント様のところに行かないと……」


 飛竜はない。馬が走れるとは思えない。それでも、グラムヴィント様のところに行かないとこの地震は収まらない。


 城の方面を見つめると、耳が割れそうなほどの竜の咆哮がこの邸まで聞こえた。


 私を呼んでいるかのような竜の咆哮は、崩壊の始まりの様だった。








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