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竜聖女の解任

 グラムヴィント様が眠り、私は巨大な籠の側にある部屋へと戻る。

 お城に住んでいるのに、私の部屋はお城とは思えない普通の石造りの部屋。調度品などもなく、あるのは木のベッドと一人用の小さな机。ランプすらなく燭台がたたずむように置いてあるだけ。


 私は伯爵令嬢だけども、両親は私の銀髪碧眼の容姿を嫌っていた。一族のだれとも違う容姿だったからだ。

 だから、父は私にお金をかけることはない。

 父は母の不貞を疑い、いつも諍いが絶えなかった。そして、私が竜聖女に選ばれた時は厄介払いができると思ったのか、嬉しそうに私を国に引き渡した。


 その頃は、まだ十にも満たなかった。それでも、私はこの家には必要ないのだと、それくらいはわかっていた。

 その後、母は病死し、父はすぐに後妻を迎え入れた。その後妻と一緒に来た連れ子は、ウォルシュ伯爵家らしいクリーム色の柔らかな髪の可愛い娘だった。


 年に数度会う家族に、いつも着飾っている私のお義姉さまは、愛されているのだといつも思う。いつも同じみすぼらしい洋服の私とは、違いすぎたからだ。


 竜聖女に面会の制限などないのに、父は私にほとんど会いに来ることは無く、今ではもう一年も会ってない。

 以前、年に数度面会していたのは、きっと周りの目が気になっていたからだろう。

 面会制限もないのに、子どもに会わない伯爵家と言われたくなかったのかもしれない。

 それだけでなく、私が竜聖女でこの国の王子であるエディク王子の婚約者だから。竜聖女に選ばれて、そのまま私はこの国の王子との婚約まで決められていたのだった。


 部屋の中で、そっと燭台に火を灯す。暗い部屋が少しだけ薄暗くなる。

 グラムヴィント様が眠りについても、私がすることが無くなるわけでは無い。

 いつものように、グラムヴィント様を拭く大きなモップを準備してから寝ようとしていると部屋にエディク王子の使いがやって来た。

 

 やって来た理由は、エディク王子からの呼び出しだった。

 彼とも、最近はお会いしてない。以前は、義務のようにエディク王子とお茶をしたり、それなりに交流はあったのに……。

 でも、会えないからといって寂しいと思うことはなかった。別に彼が好きだったということは無いからだ。

 むしろ、グラムヴィント様と一緒にお話する方が私には心穏やかだった。


「すぐにお支度をしますので……」

「夜会が始まりますので、どうかお急ぎください」


 早くして、と言わんばかりの使者の態度にほんの少しだけため息が漏れた。

 仕方なく、上に着ていたローブを変えて急いでエディク王子のもとに行くと、彼の執務室の近くの廊下で鉢合わせた。

 彼は、私が遅いからと言って呼び出した私を待たずに夜会に行くところだったのだ。


「リューディア。一体何をやっていたんだ。私をどれだけ待たせるつもりだ」

「すみません……グラムヴィント様のお世話をしておりまして……」

「まったく……それに、夜会に行くのにその格好はなんだ? いつもの私服で来るなどとはどうかしているぞ」

「夜会の話は聞いていません。私は、エディク王子に呼ばれているとお聞きして来たのです」

「夜会でなくとも、私に会うのに少しはお洒落をしようとは思わないのか?」


 そう言われれば、反論ができない。確かに婚約者に会いに行くのにお洒落一つ私は出来てない。私が世間知らずと言われるのはこういうところだろう。

 私はグラムヴィント様の巨大な籠から出ることすらないのだから。


 エディク王子に叱責をされて、私はそのまま彼の執務室に連れて行かれた。彼は、夜会に行く途中だったのに……と不満を垂らしながら歩いていた。


 執務室で、乱暴に座るエディク王子。彼の前に立ったままの私は静かにいつもの無表情で要件を聞いた。


「リューディア、君と婚約破棄をする。竜聖女の任も解任だ」

「私が……竜聖女でなくなるのですか?」

「そうだ。君でなくても黒緋竜グラムヴィントの世話は問題ない。新しい竜聖女が現れたからな」


 そんなことがあるのだろうか。私がなにかグラムヴィント様の気に障ることをしたのだろうか。


 そういえば、グラムヴィント様は私に『遊んできてもかまわぬぞ。そろそろ、リューディアも婚期なのではないのか?』と言っていた。


 私を厄介払いしたかったのか……。

 竜は、気に入らない人間は側には置かない。気まぐれなところもないわけではない。

でも、グラムヴィント様の求める竜聖女は私のような娘だったのではないのだろうか。


「リューディア。私も鬼ではない。お前の行き先もすでに決めてある」

「行き先……?」


 私は実家に帰されるのではないのだろうか。

困惑ばかりの私にエディク王子は、慈悲もあるだろうと言わんばかりに話を続ける。


「我が国の将軍を知っているか? リューディアは世間知らずだから、知らぬかもしれないが、漆黒将軍と呼ばれる男がいるのだ。その漆黒将軍ヴィルフリードと結婚してもらう」

「……それは、決定しているのですね。お父様も……了承しているのですね」


 確認するようにそう聞いた。エディク王子の答えは、迷いなく「そうだ」とハッキリと言う。


 私は、何十年ぶりかの竜聖女だった。だから先代にもお会いしたことは無い。その竜聖女が、私の代でもう一人現れることなどあるのだろうか。


 それでも、私が勝手にグラムヴィント様の側にいることはできず、「わかりました……」と無表情で返事をした。

疑問が頭を巡りながらも、グラムヴィント様と別れるのかと思うと悲しい思いが湧いてくる。そんな思いでエディク王子の執務室をあとにした。


そして、私はこの日竜聖女を解任され、エディク王子との婚約破棄がなされた。









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