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エディク王子視点

 十年以上なかった地震が起きた。自然のものかもしれないという考えもあったが、竜聖女が代わったことで何かが起き始めているのでは? という考えもあった。

 グラムヴィント様のお考えを聞きたくて、冬眠から起きていることを期待してあの鳥かごに行くと、そこにはいまだ眠っている黒緋竜グラムヴィント様がおわすだけだった。


「レイラはどこだ?」


 この一角を固めている警備に聞くと、今日はまだ姿を見てないらしい。それどころか、レイラはここ二、三日グラムヴィント様に会ってもいないという。

 これでは、竜聖女の務めを果たしてないも同然だった。昨日も、城の晩餐にはいつも通りに参加をしていたのに!


 急いでウォルシュ伯爵家に行くと、レイラは邸のテラスでお茶を飲んでいた。


「レイラ! なにをやっているんだ!」

「まぁ、エディク王子。私に会いに来て下さったのですね?」


 私の姿を見るなり、お茶を準備しようとする様子は呑気そのもの。その姿に苛立ちが抑えられなかった。


「レイラ。私が何故来たのかわかってないのか?」

「婚約者に会いに来たのでしょう?」

「そうだ。私の婚約者は竜聖女だと決まっているからな。その竜聖女が、こんなところでなにをやっている!? グラムヴィント様から離れるなど……務めを放棄されては困るぞ!」


 叱責すると、いかにも不快感を丸出しにしてツンとするレイラ。


「竜聖女に外出の許可はありますわ。私だって、休みは必要ですのよ。それに、グラムヴィント様は眠っていますし……竜機関は私を助けてくれませんのよ」

「当然だ。グラムヴィント様のお世話は竜聖女でなくてはわからない。グラムヴィント様が、側に置くのは竜聖女だけだ。他の人間が側にいてみろ。グラムヴィント様の怒りを買うだけだ!」


 怒りのままテーブルをガチャンと叩きつけると、お茶のカップがその勢いで倒れる。そのカップは、レイラの向かいのものだった。


「誰か来ているのか?」

「……先ほどまで、友人とお茶を頂いていました」

「では、すぐにグラムヴィント様のところに戻るんだ。友人もいないならお茶会は終わりだ!」

「わかりましたわ……行けばよろしいんでしょう!!」


 感情のままに乱暴に立ち上がり、ずかずかと邸に戻るレイラに淑女らしさはどこにもない。ただ、着飾っている女性にしか見えない。


 そして、数十分後には、ウォルシュ伯爵夫妻が冷や汗をかきながらレイラを玄関へと連れて来た。そのまま、不貞腐れたレイラを馬車に乗せて、グラムヴィント様のおわす城へと連れて帰った。


「レイラ。グラムヴィント様に異変はないのか?」

「ありませんわ。ずっと眠っているだけですわ」


 では、やはり地震は関係ないのか?

 

 グラムヴィント様のおわす籠の檻に連れて来たレイラはふてぶしくそう言う。


「とにかくグラムヴィント様の機嫌をそこなわないためにも、竜聖女の務めはしっかりとやってくれ」

「……今夜の夜会は迎えに来てくださいませね」

「夜会に出るつもりなら、時間までに仕事を終わらせるんだ。夜会までは、私は執務室にいる。行くなら、その時間までに執務室に来てくれ」


 そのまま、機嫌の悪いレイラを置いて騎士団の方へと歩いていると、入り口にはヴィルフリードがリューディアを馬車に乗せているところに出くわした。

 毎日昼食を持って来ていると言っていたから、その帰りなのだろう。


 だが、驚いた。あのリューディアが満面とは言えないでも、朗らかな笑みをヴィルフリードに見せていたのだ。私との時間には、笑顔一つ見せたことなどなかった彼女が……。

 そのリューディアに、ヴィルフリードは愛おしそうに頬へとキスをする。そして、名残惜しそうにヴィルフリードは馬車を見送った。


「……上手くやっているようだな」

「エディク王子。見てたんですか」

「用事があって来たんだが……まさかリューディアのあんな様子を見ることができるとは……」

「リューディアは、返しませんよ。彼女とは結婚すると決めたのですから」

「リューディアにとっては、そのほうがいいだろう。私では無理だ」

「俺でも、まだ無理ですよ。彼女の心にはグラムヴィント様がいる」


 いつもどこか遠くを見ているリューディアに、ヴィルフリードは懸念を抱いたままだった。いつかまた、リューディアが竜聖女になると思っているのだろうか……。


「……もし、またグラムヴィント様がリューディアを竜聖女にと言われても、外出も自由だし、お前とはいられるだろう」

「そういうことではありません。……誰にも渡したくないのですよ」


 これまた、驚いた。ヴィルフリードから、そんなセリフが聞けようとは。


「リューディアのあんな様子は初めて見た。お前を好いているのだろう。私には、結婚すれば妾か第二妃を取るように、と話してきていたからな。私とは、本気で夫婦になる気はなかったのだろう」

「俺にも同じことを言ってきましたよ。妾にしてください……と」


 ため息を吐くヴィルフリードに、何を言っているのか……と言う気になる。


「……ヴィルフリード……全然違うじゃないか」


 驚いたように、歩いて騎士団の棟に向かっていたヴィルフリードの足が止まった。

 

「私に第二妃や妾の話をするということは、そっちで勝手にやってくれということだ。だが、お前とは妾になってでも、一緒にいたいという気持ちがあるのだろう」

「まさか……」


 思いがけない発見だったのか、口元を隠して驚いているヴィルフリード。でも、いつも落ち着き払っているからか、照れているのかどうかもわからない。

 そう思うと、ヴィルフリードもリューディアも似ている。感情が表に出ないのだ。


「まぁ、あれは何を考えているのかわからないから、事実はわからないが……それよりも、なにか異変があればすぐに教えてくれ。それを言いに来たんだ」


 そう言うと、いつもの引き締まった冷たい漆黒将軍の顔に戻る。


「……地震のせいか、近くの山が崩れたことは報告に上がっているはずです。現在、調査中ですが……」

「そうか……他にもなにかあればいつでも教えてくれ」

「わかりました」




 そして、翌日から郊外の森が濃霧に包まれており、それは郊外の街に徐々に伸びて来ていた。












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