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レイラ視点


 グラムヴィント様の世話のために竜聖女の部屋に来れば、何もない殺風景な部屋に思わずハンカチで口を覆った。

 あるのは、木の机とベッド。それに本棚があるだけ。

 ……掃除はしていたのか埃などはないが、とても貴族の住む部屋ではない。伯爵令嬢である私がこんな部屋で寝泊まりすることなどできない。そう思うとこの部屋を睨みつけてしまっている。


 殺風景な部屋の理由も分かっている。お父様は、リューディアに何もしたくなかったのだ。

 愛人だった私の母によく愚痴っていたのは、リューディアは不貞の子だ、ということ。


 事実はわからないが、お父様はリューディアの容姿にウォルシュ伯爵家の特徴を何一つ受け継いでないことを疎んでいた。リューディアの母親は、間違いなくウォルシュ伯爵家の子だといつも訴えていたようだが、お父様はそれさえも嫌っていた。

 それもそのはず。リューディアのような銀髪碧眼の娘など、ウォルシュ伯爵家にはいないのだ。ウォルシュ伯爵家は、クリーム色のような茶色髪に薄茶色の瞳がほとんどだ。金髪さえいなかった。


 そのリューディアに、少ない回数だが昔は定期的に会いに行き洋服や本を買い与えていた。それでも、頻繁に親が会いに来るような関係ではなかった。


 その反面、私はウォルシュ伯爵家の特徴を色濃く受け継いでいた。そのせいか、お父様は私を可愛がった。リューディアの母と違い、私の母がお父様と恋愛関係にあったからかもしれない。


 いい気味だった。いくらお父様が私たちに邸を与えて、私たちのところで過ごしていたとしても、私は私生児として、しかも平民としていたのにリューディアは貴族の令嬢だったのだ。それなのに、リューディアはウォルシュ伯爵家の特徴を受け継いでない。

 そんな出自の怪しいリューディアが大嫌いだった。


 その上、竜聖女として選ばれて将来は王妃になるという。

 不愉快な気分だった。それでも、リューディアがこの部屋で暮らしているところを見ると、私たちの生活よりも遥かに劣っており、それが私を安堵させていた。


 そして、夜会にも出ないリューディア。その婚約者であるエディク王子に近づくことはたやすかった。私は、リューディアの義姉。挨拶する機会などいくらでもあったのだ。

 だから、いつか奪ってやろうと考えていたのだ。


 部屋の側にあるグラムヴィント様の檻を見ると、ただ眠っている巨大な竜がいる。

 リューディアは、知らなかっただろうけど、いつもこの巨大な鳥かごにいる彼女は、社交界では、『カナリア姫』と呼ばれていた。

 社交界に出てはいけない制限も無いのに、いつもこの鳥かごの中で竜と過ごすリューディアは変人そのもの。


 それなのに! それなのに!


「エディク王子! どうしてリューディアとヴィルフリード様が一緒にいるのですか!? 毎日、リューディアがヴィルフリード様に昼食を届けているようではないですか!?」

「なんだ……上手くいっているのか。リューディアは、ヴィルフリードと婚約したんだ。もう竜聖女ではないから、問題はないぞ」

「ヴィ、ヴィルフリード様とーー!?」


 あのヴィルフリード様と婚約など信じられない。ヴィルフリード様は、ずっと独身で誰とも婚約などしなかった。すでに両親のいないヴィルフリード様はオスニエル伯爵を継いでおり、そのうえ将軍という高い地位をお持ちだ。

 30歳になっても、あの端整な容姿は誰もが憧れるもので、色んな家の令嬢が結婚を求めていたのに……!

 

 執務室で本を積み上げた机で書類を片付けているエディク王子。彼は、リューディアがヴィルフリード様と上手くいっていることを微塵にも気にしない様子だ。その証拠に、書類を書いている手は止まらない。


「上手くいっているなら、ヴィルフリードを紹介して良かったな」

「しょ、紹介!? まさか、ヴィルフリード様が、リューディアを迎えに来たのは……!?」

「ヴィルフリードに、リューディアとの結婚を一度は断られたのだがな……行くところがないと知ると、すぐに迎えに行ったみたいだな。先日、レイラが来た時に飛び出して行ったじゃないか? 覚えてないのか? それから、ずっと一緒にいるらしいぞ」


 なにを当然のように話しているのですか!?

 しかも、どうしてそんな良い縁談を準備するのかしら!!

 エディク王子が、行き先を用意したというから私たちウォルシュ伯爵家は、一度はブランジス子爵を断ったのに……!!

 バカなの!? これではリューディアは、竜聖女をクビになっても誰も追い越せない勝ち組ではないの!? 

 ちょっとは慌てなさい!!


 リューディアが、ブランジス子爵のところに行く時に飛竜が迎えに来たことはあとから聞いた。御者は、腰を抜かしながら帰って来たとお父様たちが言っていた。


 でも、それからずっとヴィルフリード様と一緒なんて聞いてない。

 しかも、エディク王子の言うことを考えれば、リューディアに結婚の断りを入れて来たのは、ヴィルフリード様のはず。それなのに、飛竜で御者を怖がらせてまで迎え来て、そのまま婚約をするなんて!?


「そんなことよりも、グラムヴィント様の様子はどうだ? 冬眠中だが、目が覚めればすぐに教えてくれ。グラムヴィント様のお世話の報告書もまだ提出されてないぞ。冬眠中の様子も記載しておいてくれ」

「私は忙しいのですよ?」

「そうなのか? では、今夜の陛下たちとの晩餐は遠慮しなさい。グラムヴィント様のことが何よりも優先だ。陛下たちにはそう伝える」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「なんだ?」


 なんだ? じゃありませんわ!

 一体何を考えているのかしら、この王子は!?

 リューディアと婚約破棄して、あっさりと私と婚約したから単純王子かと思っていたのに、リューディアと同じでまったくなにを考えているのかわからないわ。

 婚約者が晩餐に一緒に出席するのは、当然ですわよ!?


「陛下たちとの晩餐をお断りするのは失礼ですわ。必ず出席いたしますから……」

「間に合うのか? これからグラムヴィント様のお身体を拭く時間じゃないのか?」

「問題ありませんわ!」


 冬眠に入っている竜を拭いてる場合ではありません。すぐに支度しないと、エディク王子はグラムヴィント様を理由に私を置いて勝手に行ってしまいそうですわ。


 エディク王子の執務室をあとにして、急いで廊下に出ると連れて来た使用人が私を待っていた。三人ほど使用人を連れて来たのは、グラムヴィント様の世話をさせるため。


「あなたたち。急いでグラムヴィント様のお身体を拭きに行ってちょうだい!! 急ぐのよ!!」

「えぇっ!? わ、私たちには無理です!! そんな恐ろしい……」

「どうせ寝ているんだから、適当でいいわよ。誰もあんな鳥かごには来ないから、心配いらないわ!」

「で、でも、私たちだけで、あのグラムヴィント様の側に行くことはできません! もし誰かに聞かれたらどうしていいのか……!」

「私の部屋の掃除に来たとでも言えばいいでしょう?」

「む、無理です……! どうかせめて、ご一緒に……!」


 懇願するように怯える使用人に、なんと情けないことか思う。そして、これが普通の反応だとも思う。あんな大きな竜に、恐れもなく誰がリューディアのように寄り添うことができるのか。


「仕方ないわね……とりあえず、一緒に行くから一人は急いで私のドレスをウォルシュ伯爵家から持って来てちょうだい。今夜は竜聖女の部屋で着替えるわ!」


 今、竜聖女を疑われるわけにはいかない。やっとエディク王子と婚約できたのだから。


 そのまま、急いで眠っているグラムヴィント様のところに行き、使用人たちにグラムヴィント様のお身体を拭かせた。それでも、使用人たちは間近で見る大きな竜に怯え、ほんの数分で音を上げてしまっていた。









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