日常?
私立翠鳳中学校の3階の男子トイレ。
広さは長方形の10畳で、入って右側にセンサーで自動に流れる小便器が6つ、左側に個室で置かれた便器が4つ。入り口から入って真っ直ぐ7歩ほど歩けば引き違い窓がある。そして用を足すトイレ内に入った背後に手洗い器。入り口は円の半径をなぞるようにしてトイレ内を見えないように工夫されており、入り口から入って円の半径をなぞるように歩けば右側に手洗い器、左側に用を足すトイレ内の入口がある。
そして女子トイレもおそらくほとんど同じ構造だろう。
そんなこと考えてみれば最近のトイレってかなりプライバシーを守っているなー、っとボソボソと考えながら、僕は3階の男子トイレで用を足し終えて手洗い器で手を洗っていた。
無駄な模様がまったくないトイレ内の白い壁に、白い小便器。個室の外側の壁は青く、中は白くて便器も白い。手洗い器が並ぶところは鏡で一面包まれている。
ふと僕は顔を上げて鏡に写った僕を見た。
フツメン。
かっこよくもなければブサイクでもない。
でも確かにその鏡に写った僕の顔は、真顔でいかにも無愛想って感じで、ところかしこに根気がない。
そんな顔が静けさで包まれている男子トイレの鏡にポツンと佇んでいた。
笑ってもなければ怒ってもないし泣いてもない。
僕は手を洗い終えると左ポケットからくしゃくしゃなハンカチを取り出し、手を拭きながら男子トイレから出た。
するとトイレから出て左側の教室の目の前の窓から、校庭を見るフリをしながらこちらをチラチラと覗く二人組の男子生徒がいた。
(ばればれだっつーの)
僕は適当に脳内ツッコミをしたところでその場をあとにしようとした。
その時だった。
「おい、あれアホトリオのナンバー3じゃないか?」
「本当だ。確か名前は…月原って言ったけ?」
「そうそう、あいつ本当に笑わないし気味悪いよな」
「マジそれな」
「しかもあいつ、他のアホトリオのメンバーの下ネタ王子と中二病娘を取り扱っている飼い主って言う噂もあるんだぜ」
「うわぁ…ちょっとそれはないわー。マジで友達どころか会話もNGだわ俺」
(聞こえてる!聞こえてるっ‼くっきりばっちし聞こえてるんですけど‼てか飼い主ってなんだよ。初耳なんですけどその噂⁉)
僕もその二人組をチラッと見ながら、激しい脳内ツッコミをして頭がキーンっとなるほど響かせた。
その視線に気づいたのか男子生徒二人組は、肩を数ミリビクッと震わせながらその場をあとにした。
「……はぁ」
僕は疲れたのか小さく溜息をする。
「溜息をつくと魔力が逃げるぞ」
その特徴的な喋り口調に軽はずみな言動は右側の女子トイレの出入り口から聞こえた。
僕はその方向に目線を向けた。
サラリとしたショートヘアは肩まで届いていて、ハーフアップで髪が止めてある。それにくっきりと見開いた目は、透き通るような綺麗なブラウンの瞳をしていた。あと理由はよくわからんが、口元がニヤッと何かを企んでる風ににやけている。
「よう、さっきの聞いたか?中二病娘」
「そ、その名で我を呼ぶな!私にはだな……佐志摩 夏目という名前がある!」
そう、こいつの名前は佐志摩 夏目という。学校の3大美女の1人でもある。
まあ、見ての通りこいつは中二病だ。っと言っても重症ってほどでもない。時々たまに素が出て普通の一般人に戻る時があるちょっとおかしい子だ。
「まあまあ、落ち着けって。それで要件を話せよ」
「あ、いや要件とかはなくてだな…その…」
「ん?何だ」
「えっ、いやーその…ただ話したかった……ではだめだろうか?」
僕は思う。女心って本っ当にわからん。
僕は少し視線をそらしそう思った。
「別にいいぞ。それで何話すんだ?今朝何食べたかでも話すか?」
「そのだな…私と次の休日に一緒に遊びに行かないか、と提案を申し込みたいのだが…いいか?」
「その提案乗った!僕も丁度見たい映画があったんだよ」
その言葉を聞くと夏目は、ガチガチに緊張していた様子が和らいでいき、安心感に心が浸かったのか少し頬を赤らめてひっそりと笑った。
「それじゃあ…次の日曜日にしよう!予定は後日決める。それで一旦はいいな?」
「オーケーオーケー」
すると夏目はくるりと後ろを向き、リズムよく歩を進めて歩き始めた。
でもこのときの僕は知らなかった。
夏目が歩を進めなながら、顔だけでなく耳まで真っ赤に染めて埋めていたことを…。
夏目嬉しそうだったなーっと思いながら僕もくるりと後ろを向いた。
すると僕の目線は吸い込まれるようにして1人の人物に向いた。
その人の髪は下ネタ王子こと墓羽 杵のように金髪で伸びほうけており、腰にまで届くほど長いロングヘアはさらりとしていて太陽の光で今にも輝きそうだった。しかも左サイドの髪は三編みを作っていて、それをたんぽぽの髪飾りで止めていた。瞳の色は髪と同様、輝かしいほどの金色で癖のないまつげは長かった。顔立ちもよく、整った鼻筋はそれを強調しているようにも見えた。
そんな超絶美女で少し大人びたそいつの名前は一瞬にして頭に浮かんだ。
仁階堂 彩希
たしかそんな名前だった気がする。
だが今の彼女は超絶美女の風格はまったくもってなく、険しい顔で何かを見つめるように目を細めて睨んでいた。
「……あ、あの」
僕はそんな二階堂さんが心配でつい声をかけてしまった。
その途端、僕の頭の中にいろんな妄想が浮かんだ。
ストーカー行為にあっているんじゃないのか。
危険な大人になにかされているんじゃないのか。
DV彼氏がいるのではないか。
妄想が膨らめば膨らむほど、心配になり自分の立場を弁えた上で話しかけた。
だが…………。
返答がない。
と、言うよりかは気付いてなかった。
僕は不思議に思い、二階堂さんが睨んで覗いている方向に目線を向けた。
目線の先には2人の男がこそこそと校門の前で隠れながら、学校の敷地内を見渡すように観察する姿があった。
2人の男の特徴といえば、全身黒色というところだろう。
黒のキャップ帽子。
黒のサングラス。
黒のジャンパー。
黒のジーンズ。
と、悪目立ちするような格好だった。
(いやいや、怪しすぎるだろ………確かにこれは女子中学生なら誰しも皆、仁階堂みたいな目をするわ)
そんな妄想をしていると、仁階堂がピクッと反応してこちらにいつもの健やかだと感じられるような華蓮なスマイルで、何事もなかったかような振る舞いを見せた。
「えっと……月原…くん、だよね?」
話しかけられた。あの高嶺の花の仁階堂に。
「えっ、はい。さっきから校門前の2人組の男を見ていたものでしたので少し心配で声をかけたんですけど……大丈夫ですか?」
「あいつらが見えたの⁉」
「「……………。」」
その叫び声は悲鳴のようにして、一直線の廊下をぶるぶると響かせて、他の生徒の視線がこちらに向く。
そんな悲鳴のような叫び声をした仁階堂は自分が犯した失態に気付き、少し顔が赤くなって慌てていた。
もう二度と目に焼き付けれない光景なんじゃないかと薄々思ってしまった。
すると仁階堂は慌てた素振りを覆い隠すようにして夏目同様くるりと後ろを向いた。
そして歩きだした。
僕は歩きだした仁階堂 彩希を呆然としながら眺めることしかできなかった。
そして僕はまたも知らなかった。
あの仁階堂 彩希が先程の慌てぶりがなかったかのように、ひっそりとにやけていた事に……。
こうして魔女(仮)と黒マッチョに出会う2日のうちの1日目が終わろうとしていた──。
****
僕は春という季節で高校受験を控える生徒となった。
そう、僕は今年度で高校生にならなければならないのだ。
それは考えただけでも険しい道のりだろう。
実はすっごく認めたくないが、僕はこれと言って頭も良くないし、今までの人生というなの経路でこれと言って目立つ出来事もなかった。
周りはよく「浩二はそんなことない」だの「浩二には俺たちついている」だの言っているが、正直言ってそれは僕を追い詰めるだけの不愉快な言葉だった。
結局の所、僕を追い詰めるだけ追い詰めて最後は電車の連結のように綺麗サッパリ切り離すのが落ちなんだ。
そうに決まっている。
周りの人間なんて信用できない。
信用しちゃいけない。
でも僕はそんな人間不振なところが憎くてたまらなかった──。
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