第10話 それぞれの戦い②~倫~
倫side
風歌を姉に預け、親から受け継いだ会社経営を
『己の代で潰してなるもんか……』
との反骨心で
『若造が……』
と聞こえてくる中傷に
負けるか!
自分寄りな理由で、時に風歌と会える貴重な時間をキャンセルした事もあった
そんな愚かな父なのに
風歌『パパ!』
と、いつも笑顔で俺を……
あの日。風歌が病院のベッドに横たわり眼を瞑る姿を見た時、こんなにも愛しい風歌を失う事があったら……
凄く怖かった
激しく後悔した
風歌の努めていた介護施設の嘘
風歌の所属会社の対応
諸々の様々な理不尽
泣き寝入りなぞするものか! と誓ったんだ
風歌、俺が風歌を守ってやるからな
認知症のお年寄りにとって家から出て一人外歩き回る
施設内の廊下を歩き回るにはきちんと意味がある
一日中歩いているおばあさんは
『子供にご飯を作らなければならない』
おじいさんは
『仕事に行かなければならない』
黄昏時と言われる夕方になれば
『子供を迎えに行かなければならない』
『夕飯を作らなければならない』
『家に帰らなければならない』
その人その人の深い理由があるのだ
しかし残念な事に
車椅子に乗って頂き、車椅子の後ろに紐を付けて廊下の手すりに
いわゆる
『拘束』
という行為だ。お腹にベルトを巻いて……
倫『娘は、この様に自ら見聞きした事を、 記録に詳細に残しています。幾くつも幾つも。アナタ方は身に覚えが無いと?』
『わが施設は、この様な対応をしてはいませんよ』
隠蔽……
倫『あの日、何があったのか……いつの日かアナタ方の嘘を証明してみせる……』
──
主治医以上に親身に対応して下さった冴多先生。風歌の幼なじみで、あの日の事、他の真実も一緒に見て知り尽くしている涼也くんと、従姉の、るなちゃん
彼らの教えてくれた真実を共に。風歌の無念を晴らすんだ
俺の出来る事
【拡散希望】
《介護施設にて娘の受けた仕打ちを、 時系列を追ってお話ししたいと思います》
Twitterに 呟く事から始める事にしたんだ……
【娘の日記】
認知症のお年寄りにとって家から出て一人外歩き回る
施設内の廊下を歩き回るにはきちんと意味がある
一日中歩いているおばあさんは
『子供にご飯を作らなければならない』
おじいさんは
『仕事に行かなければならない』
黄昏時と言われる夕方になれば
『子供を迎えに行かなければならない』
『夕飯を作らなければならない』
『家に帰らなければならない』
その人その人の深い理由があるのだ
しかし残念な事に
車椅子に乗って頂き、車椅子の後ろに紐を付けて廊下の手すりに
いわゆる
『拘束』
という行為だ。お腹にベルトを巻いて…… 車椅子から立ち上がれない様に……
なぜそのような事をされるのか分からないお年寄り達にとって、恐怖でしかないと思う。大声で叫んだり泣いたり
それでも職員の都合というものが優先されるという現実に、私はとてもショックを受け、私はその行為に慣れてはいけないと言い聞かせながら仕事をしていた
夜間はベッドから起きて歩き回る人に対して、両腕に紐を付けてベッドの柵に……
オムツをしていても排泄の感覚がある人は、トイレに行きたいという思いから一晩中ベッドガタガタ揺らし
いえ
外してほしいという当たり前の訴えを、紐を外すという 行為で必死に抵抗していたのだと思う
私は家で仰向けになり、両手を横に開いて 天井をじっと見つめ事がある。私の場合はだんだんと神経が眉間に集まってきてツンという感覚が起きて
とてもじゃないけれど、じっとなんて無理だったのを覚えている
あまり動き回らない、1日の大半を横になって過ごしている人達に対しては 何十人かを大部屋に布団をひいて……
『雑魚寝』という表現が ぴったりな 状態で寝かされていて……
プライバシーも何もあったものではない
仕切りがないからおむつを替える時に 、大勢の人たちの中で……大事なところを晒されながらオムツを変えられるという……
初めに就職した所がたまたま、そういう施設であったと信じたい
大多数の施設がその様な事をしていないと言い聞かせて……
慣れる事……受け入れる事納得が出来なかった……
私は人への優しさを忘れないよう、その様な人間でいようと固く誓って……
介護の仕事にやりがいはある。お年寄りも大好き! しかし人間関係というものは私にとってどうにもこうにも ……克服し難い難問ばかりの課題であった……
よろしくお願いします