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旅する女性と缶コーヒー

作者: 古葉七

空が明るく光る。


『この世界』もダメだった。


私は悟り腰に下げたネジを回す。


その瞬間に私の意識は暗転していく。




夢を見ていた。


この旅が始まる前の夢。


世界が滅びる前の夢。


愛しき人が私に手渡したもの。


それは時を遡り別の次元へと渡れる彼の発明品。


彼は私にそれを渡して言った。


「滅んでいない世界で生きていてほしい」


と。


私は彼と一緒に終わりを迎えたかったけど、彼の最期の願いを承諾した。


その時は2人とも安易に考えていたのだ。


次の世界は平和で滅びなど無い世界だと。




私は目を開ける。


爽やかな風が吹き抜ける。


緑豊かな草原の中に私はいた。


辺り一面に花々が咲き乱れており、こんなに美しい光景は見たことがなかった。


ただ、一つこの光景を台無しにしているのは血のように赤い空。


きっとこの世界も滅びてしまうのだろう。


私はそれでも彼との約束を守る為に旅をする。


もう彼の声も思い出せない。


顔も思い出せない。


唯一思い出せるのは彼の白衣とコーヒーの香り。


そうだ・・・コーヒーを作ろう。


あの日、彼と共に飲んだコーヒーを。


私はネジを回す。



次の世界で私は廃墟の中にいた。


辺りを探索するが何も見つからない。


外から喧騒が聞こえる。


ヘリコプターの音。


戦闘機の音。


銃声もけたたましく鳴り響く。


爆発音も聞こえた。


私は廃墟のガラスなどハマっていない、只の枠になっている窓から外を見る。


そこには私のいる廃墟よりもはるかに大きな生き物が闊歩していた。


それも無数に。


軍隊が攻撃を仕掛けているが全く効いている様子がない。


ヘリや戦闘機は化け物に掴まれて、まるで子供がオモチャで遊ぶように地上にいる兵士に投げられる。


爆発が上がり悲鳴が上がる。


そんな中で化け物の一匹がこちらに向かっているのが見えた。


私はネジを回して次の世界に向かった。




夢を見ていた。


顔の分からない男性が何かを言っている。


声も思い出せないので何を言っているか分からない。


彼と約束をしたはずだ。


何を約束したんだろう?


彼の白衣だけが目について、何故かコーヒーが飲みたくなった。





次の世界は街の中から始まった。


高層ビルが立ち並び、道路には車が行き交う。


だが、すぐに車は渋滞に巻き込まれて怒鳴り声が鳴り響く。


車の中はどれも家族連れで、車の容量を超えるほどの荷物が積み込まれている。


路地を見ると人々が喚き、騒ぎ、泣き咽せている。


誰も彼もがパニック状態だった。


私は近くのスーパーに入る。


何日も放置されたらしい弁当が腐臭を放っている。


棚を漁る。


目的の物は見つからない。


外が騒がしくなる。


私が外から空を見上げると、空は黒い何かで覆われていた。


その黒い何かには瞳が無数についており、その一つ一つが逃げ惑う人々を凝視していた。


時間がない。


私は今までの丁寧な探し方をやめて棚をひっくり返すように探す。


やっとのことで缶コーヒーを見つけた。


私は急いで缶の蓋を開けて中を飲み干す。


その懐かしい苦味に私は涙が溢れていた。


彼の顔は思い出せない。


声も姿も・・・。


でも、白衣の男性が確かにこう言ったんだ。


生きて幸せになってほしいと・・・。


私は顔を上げて涙を拭くとネジを回す。


周囲から悲鳴が聞こえてくるが気にしない。


私は生きて幸せな世界をみつけなければいけないのだから。

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