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5)居酒屋

 眩しい光に包まれてから目を開けると、そこはサークルメンバーがどんちゃん騒ぎをしている居酒屋の中だった。

 隣を見ると、リナが卵焼きをぱくついている。反対側の隣を見ると、ヨシキがぼんやりと座っている。トウヤの姿はなかった。

 スマホの日付は1カ月前のあの日を表示している。時間も戻ってしまったらしい。


「ユウ、」


 呼ばれて顔を向けると、ヨシキが手にしていた評価シートを見せてきた。


「文章、変わってる」

「え?」


【ギターのくせが強すぎる。ヘドバンしながらシャウトしまくっているせいでリズムずれてる】


「お前、シャウトも担当になってるのか」

「らしいな」


【ギターとドラムしかいないのは草。せめてサポートメンバーでいいからベースも入れろってw】


「俺ら、2人だけで演奏決行したのか」

「らしいな」


 お互いに目を見交わして、ふっと頬を緩める。

 帰ってきたんだな、2人だけで。


「あ、そうだリナ、遊園地! 遊園地行こうよ!」


 急に思い出してリナの肩を叩くと、驚かせてしまったのか彼女は卵焼きを喉につまらせてしまった。


「ご、ごめんごめん。ほい、ウーロン茶」

「んぐ……ふう。ゆ、遊園地?」

「一緒に思いっきし派手な被り物して、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらアトラクションに乗りたい」

「いいけど……」

「やったー! いつにするっ?」

「お前、向こうでリナちゃんとどんな約束してきたんや……」


 テンション爆上げの俺に何かを察したらしいヨシキが呆れたふうにつぶやいた。

 リナも困惑している。いったん落ち着こう。


「今度、遊園地行こって」

「ユウはどこにおっても同じようなことをリナちゃんと話してんのな」

「せんぱーい」

「うわ、なんやなんや」


 急に、でろんでろんに酔っ払った後輩の男子が俺とヨシキのあいだに割り込んできた。


「先輩とこ、ベースいないんですよね~、俺正式にメンバーに入れてくれませんかあ~? コミックバンドに実は憧れててえ」

「コミックバンドちゃうわ!」


 話を聞いていないらしい彼は、なおもヨシキに絡む。


「てかあ、すごいっすよねえ。前のベースってあのトウヤだったんでしょお? 国民的アイドルがうちのサークルにいたとかあ、すっげえ」

「入学して半年も経たないうちに大学中退しちゃったし、サークルも辞めちゃったけどね」


 リナが会話に入ってきた。そっか。途中でトウヤだけ抜けたことになってるのか。


「でもでもでも数カ月でもいたんなら、もうそれだけですごいっすよお~」

「お前さてはトウヤのファンやな。オレらとバンド組みたいんやなくて、トウヤがいたバンドに入りたいだけか」

「バレました?」


 隠さない素直さに、腹が立つとかではなくしゃあねえな、という年下を可愛がりたい気分になる。


「じゃあ今度のライブはサポート入ってくれる? ベースいないのはさすがに評価シートでもボロカス言われてるし」

「マジっすか? 感謝感激ユウせんぱ~い!」


 うっわ。今度は俺に抱きついてきた。ヨシキがあからさまに「助かった」という顔をしている。こいつの世話を俺に押し付ける気だ。


「リナー」


 少し離れた席で、リナのバンドメンバーが呼んでいる。


「はあい」


 リナは返事をしながら立ち上がる。皿の卵焼きは綺麗になくなっていた。


「ユウ」

「ん?」


 顔を上げるとリナが俺ににこりと微笑みかける。


「なんとなく、ユウはこっちに戻ってくるような気がしてた」

「……へ?」


 俺が呆気に取られているうちに、リナはさっさとその場から離れていってしまった。

 何だったんだ、今の。


「ヨシキせんぱ~い」

「げっ、結局オレのほうに戻ってくんのかい!」


 後輩の重みが離れていく。それと同時に、ズボンのポケットからかさりと乾いた音がした。

 中に手を突っ込んでみる。

 取り出すと、くしゃくしゃになった魔法のチケットが出てきた。

 「復路」の部分に、しっかりとチェックがされている。

 完全に使用済みとなったそれを、俺は丁寧に折りたたんでもう一度ポケットにしまった。


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