11話 ---工房後談---
「ただ今戻りました、親方。これ今日の売り上げです。」
「おう、帰ったか。えらくたくさん売れたじゃねーか。」
「はい、今日は坊ち…ヒロ様が寄ってくださって、たくさん買ってくださいました。」
「おお!聖童様が!なんという幸運か。おい!お前ら!お前らの品を聖童様が買ってくださったそうだ!」
「わぁ!」
「なんと!」
「やったー!」
ランキンの野郎がおっちんで、工房はイプス嬢ちゃんを追い出しちまった。
商売敵ではあったが、飲み友達のあいつの忘れ形見だ。腕は確かだろうからウチの工房に誘ったら嬢ちゃんは断りやがった。
変なとこあいつに似て頑固だな。
それでも背に腹はかえれねえだろうからうちの下請け仕事はどうだいと誘ったら、そっちはOKという事だった。
しばらくしてお貴族様のお抱えになったと聞いた時には驚いたな。
律儀に世話になったからと菓子折りなんぞ持ってきてよう。
まあ、俺としては酒の方がよかったというのはここだけの話だ。
弟子どもが、喜んで食ってたからよしとしておこう。
後で聞いた話、そのお貴族様がルーフィン公爵家だったことにさらに驚いたな。
上位も上位じゃねーか。
昔あいつがあの家から一世一代の大仕事を任されたことを自慢はしていたが、最近は縁は無かったはずだ。
よく聞けば、最近、市で噂の「ヒロ君」が一枚かんでたというじゃねーか。
さらにそのヒロ君。いやヒロ様が本当は公爵子息のフィロルウェイン様ぁ?! 聖童様だってー?!
そういや、お抱え細工師がいるのに何でうちで買ってくださったんだ?
「ヒロ様が言っておられました。『これだけの腕前。値切ったら罰が当たります。』って」
そういえばこいつも、ヒロ様が縁でうちに来たんだったな。
そうか、
ヒロ様は『物品』ではなく弟子たちの『技術』をかってくださったのか。
お抱えられるだけでなく、こうやって他の腕のある職人を陰ながら支援くださってるのか。
そうだな、こんなめでてー日は、
「お前たち!今日は上がりだ。飲み行くぞ!」
「「「ヘイ!親方!」」」
飲みに行くに限る。
「それでは親方。俺は後片付けしておきます。」
「なにを言ってやがる。お前も来るんだよ。」
「でも俺は親方の弟子ではないですし…」
「弟子でなくともおめーはこの工房の一員だ。それにおめーがいなけりゃ、ヒロ様との縁は結べなかったんだ。」
「親方…。」
「お前たちさっさとしねーか。終わった市の連中があの酒場に来る前に酒場の酒飲みつくすぞ!」
「「「「ヘイ!」」」」
今夜は久方ぶりにうめーさけが飲めそうだ。




