3話 ---鏡演観劇---
「では『侍従の鏡』始まりでございます。」
支配人の口上で幕が上がる。
舞台は、僕が作らせたものをベースに、若干の手直しを加えている。
侍従役の登場だ。
よく見ても二人の役者には…魔力の繋がりはない。
全くの他人ではあるが、メイクの技術がすごい。客席からは全く気が付かないレベルだ。
他人同士だが、動作のシンクロがすごい。
流石はプロだ。
[何が始まるのかしら]
[ただ侍従が準備しているだけだぞ]
[しかし大きな鏡だな]
客席からは、戸惑いの混じったビミョーな声が洩れてくる。
さて、ここから例のシーンだ。
役者の動きが『ぶれる』
客席が驚きと共に沈黙する。
[なんなのあれ?]
[鏡じゃないの]
という声が漏れ聞こえてくる。
何度か『ぶれた』後、終幕。
[これだけ?]
[でも、侍従と鏡の動きがずれたよな?]
「何なんだあれは?」
客席は戸惑いの最中である。
「今回 演じてくれた俳優をご紹介いたします。」
幕が上がってゆく。
終演後には役者が挨拶するのが習わしらしい。
が、その際に幕が上がる事はないので、観客はさらに戸惑っている。
「侍従:トーマス=ライアン」
侍従部屋(舞台)の扉があき、侍従が入ってくる。
そして舞台の端まで来てお辞儀をする。
もう一人の役者は、ちゃんとシンクロし、舞台奥で反対側へお辞儀をしている。
客席からの拍手に再びお辞儀をする。
「そして、侍従:フレデリック=ノーマン」
舞台奥から、向きを変えてこちらへ歩いてくる。
客席は驚きと共に沈黙する。
鏡[枠]をくぐり、舞台端まで来るとお辞儀をした。
…
…
…
「「「「「「「「「「ワーーーーーーーーーーー!」」」」」」」」」」
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大歓声と共に拍手で劇場は埋め尽くされた。




