5話 ---味方認定---
あまりからかってもナンなので。
「で、あなたのなまえは?」
…彼女は一呼吸するとクールダウンした。プロである。
「私の名前は バーバラーヤです。孤児だったので姓はありません。」
彼女の話によると、孤児は姓を剥奪され、王立孤児院に送られる。そこで一定の教育を受けた後、貴族や商家へ使用人として召し抱えられていく。
姓を名乗ることができるようになるには、姓を持つ者と婚姻や養子縁組した場合のみである。
一見、孤児を差別しているように感じるが、姓がない事は『私はどことも血縁関係はございません』という保証となる。また、それを管理しているのは王家なので、縁故関係が絡んでくる貴族にとっては安心できる使用人となる。
「バーバラーヤは、ボクの専属なの?ずっと世話をしてくれているように思うけど。」
「いえ、今は誰の専属でもございません。ただ、私の主がアルフィーニ様だったので、そのまま坊ちゃまのお世話をさせてもらっているのでございます。」
アルフィーニ様って誰だろう。そういえば母の顔の記憶がない。いや、かろうじてはあるが『母』というより『継母』のイメージがある。
「アルフィーニ様って誰なの?どこにいるの?」
一瞬彼女が言葉に詰まる。そして…
「アルフィーニ様は坊ちゃまの元御母堂様であらせられます。アルフィーニ様は、坊ちゃまをお生みになられてすぐ……」
彼女が涙ぐむ。テンプレ確定だね。
「判ったよ。でもさみしくなんかないよ。だってバーバラーヤが母の代わりにずっと世話してくれてたんでしょ。だったらボクの母上はバ「いけません!」
いきなりセリフがさえぎられた。
「坊ちゃまの御母堂様は、現公爵第一夫人のアマリアーヌ様です。かの方以外を『母上』と呼ぶ事は坊ちゃまには認められていません。」
今、俺の発言を無かった事にすると同時に、重大情報が発表されたぞ。
公爵だって?
それって王家の次にえらいんじゃないか?
で現第一婦人ということは、アルフィーニが亡くなって繰り上がったってこと?
お家騒動。命の危険を感じるぞ。
『僕』はバーバラーヤを慕っているし、彼女の今までの態度から、母親並みの情を感じ取っている。
『俺』にとって最も信用できる相手であろう。
まずは『味方』を確保である。
「バーバラーヤをボクの専属にしたいのだけれども、なってくれる?」
彼女は一瞬、ハッとした顔になり、次に嬉しさをかみしめる様な顔をして。
「ありがたき言葉にございます。」
味方、ゲットだぜ!
と思ったら、急に真顔になって
「しかしそれには御当主様の承認がいります。」