4話 ---言語習得---
単語は何とか口に出せるようになったので、「絵本」は発音できた。
すると侍女は本棚から重厚そうな本を持ってきて、俺を膝にのせて本を開いた。
4歳児にその本はないだろう、と思うが、中身は挿絵いっぱいのまごうことなき幼児絵本である。
『僕』は気にしていないが、『俺』感覚だと羊皮紙を使った手書きフルカラー絵本など一体いくらするのやら、である。
内容は、「閑村に生まれる」「城に務める」「姫様がさらわれる」「姫様を救い出す」「姫様と結婚する」「めでたしめでたし」といったよくある騎士物語であった。
分からない言葉もあったが、侍女が情緒豊かに読んでくれたせいか、なんとなく理解できた。
ほかにも、「継母に虐められていたが自力でドレスを仕上げ舞踏会に行く話(魔法なしのシンデレラ?)」とか、「川に流されて来た子を育てた老夫婦。実はその子は王子様だった(鬼の出ない桃太郎?)」とか色々読んでもらった。
月の女神の神話もあった。月の女神は覗き魔さんで夜になると空に穴をあけてニマニマ覗いているそうだ。その穴が月なのだそうだ。とんだ変態女神さまだな。
この侍女は『僕』の傍にずっと就いていてくれている。
本来なら記憶に残らない1歳前からくらいだろうか。ただ名前を呼んだ記憶はない。
彼女が名前を呼ばれているシーンは記憶にあるが、上手く聞き取れず『◎ー△様』『〇ー◇様』という記憶になっている。
年のころは20?30前か? 胸はBかC? おまけに美人。体が4歳児でなかったら口説いているところである。
ある程度、言語領域の整理が終了した。
さあレッツトライ。口説き…違った、会話の練習である。
「ねえ、あなたのなまえ、なんていうの?」
彼女はびっくりした顔をしていた。
ん?発音間違えた?
「ぼく、はつおん、まちがってた?」
「………」
少しして彼女が再起動した。
「いいえ。坊ちゃまがあまりにも突然、しっかりした口調で話し始められたので驚いたのです。また上位の貴族様は使用人の名前を訊ねられたりしません。そういったことは、専属雇用する場合に訊ねられる場合位です。また異性にたいしては『お手付き』の場合に…」
いきなり彼女が真っ赤になった。どうやら『お手付き』の意味がアレの事らしい。結構ウブだな。
「じゃあ、ボクにするとあなたが『お手つき』の相手だね。」
なにも知らない4歳児の笑顔で言ってみる。
彼女は茹でダコになった。
口説きの練習をしてどうする!『俺』よ。