４話 ---侍女Ｂ談---
侍女Ｂことベーテルーイだ。
どこにも『侍女Ｂ』は出ていないって？
そんなことは気にすんな。
みんなはベティって呼んでいる。
アタイがこんな喋り方なのは、１０までスラムに居たからね。
小さい時に附いた癖はなかなか治らないものさ。
もちろん仕事中はこんな喋り方しないさ。
礼儀作法は孤児院でしっかり叩き込まれたからバッチシだ。
スラム時代は生きるのに地獄の日々だったけど、孤児院は別の意味で地獄だったね。
３食屋根付きで命の危機は無いものの、あの侍女教育。死ぬかと思ったよ。
２年で、一応侍女として食っていけるように、地獄の突貫教育だよ。
まぁ、それに耐えきったんで 侍女としてなんとかやっていけてるよ。
ここに勤めて２年目だ。
最初は別の屋敷にいたんだが、そこ、２年ほどして潰れちまってさ。その後こっちの屋敷に引き取られたってとこ。
前の屋敷の待遇がひどくてよぅ、こっちに移る時も期待はしていなかったんだ。最悪、スラムに帰る事も考えてたさ。
でもここはバーバラーヤ先生の勤めておられる屋敷だった。
先生はアタイの姿を見ると、そっと抱きしめてこう言われたんだ。
「貴方があの屋敷に行ったと聞いて気にしてました。よく今まで頑張りましたね。」
アタイ、柄にもなくわんわん泣いちゃったよ。
［アタイ、一人じゃない。ちゃんと見てくれる人がいる。］
自分では気が付いてなかったけど、結構まいっていたみたいだ。
あの屋敷は結構問題ある御貴族様だったらしい。
バーバラーヤ先生は、そんなところに行ったアタイを気にかけてくれていたんだ。
前の屋敷がつぶれた原因が、使用人の待遇が悪い貴族の粛正があった…とか。
そこにはバーバラーヤ様も関わってた…とか。
あくまでも噂で、本当かどうかわかんないけどね。
この屋敷はバーバラーヤ様がいる。だけじゃなかった。
［どーせ、家族もいないんだから成人祝いなんてだれもしちゃくれない］と思っていたら、成人使用人の合同成人式ときたもんだ。
その日は、上司、先輩方に、お古だけど一等いい服着せられて、教会へ送り出され、帰ったら屋敷の部屋かりてパーティだよ。
上司達のカンパと屋敷の旦那様の計らいだそうだ。
使用人のためにこんな事をしてくれるお屋敷にビックリだよ。
その日は無礼講で、上司とため口で愚痴の言い合いっこ。
ホントなら、喧嘩になりそうなところを、うまく毒気抜きするやつがいてさ、最後はみんな笑っていて、いいパーティだった。
次の日、何事もなかった様にテキパキと仕事をこなす上司には、内心笑うと同時に、感心したね。『さすがプロだ』ってね。
最近の仕事は主にこの屋敷の坊ちゃんの部屋付きだ。
アタイがこの屋敷に移ってすぐ昇格した若いのと、無口と、３人で部屋の掃除や坊ちゃんのお世話だ。
若いのは、アタイの方が年上なんで「先輩、先輩」と慕ってくれる。まんざらでもないな。
無口は……喋らない訳ではないんだが、とにかく口数が少ない。かといってコミュ症ではなく、ちゃんと会話の中には入っている。
孤児で年は一つ下らしい。どおりで孤児院では見なかった顔と思った。
（孤児院はいくつかあってさ、大体は同年代の者が集められていた。アタイんとこは１０歳組と８歳組だった。）
いきなりの専属の話には驚いたね。
別に、この坊ちゃんに気に入られるようなことをした覚えがないんだが。
専属に興味はないが、お給金上がるのはうれしいね。
『貴族様の気まぐれ』ってわけでもなさそうだが、何企んでやがる？
「明日のおやつはプリンです。」
…嘘です。疑ってごめんなさい。アタイも甘いものには弱いんです。
まぁ、バーバラーヤ様が付き従ってるって時点で、ただもんじゃないことは確かだね。
