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エドガー商会の休日〜家族サービス〜

 エドガー邸、夜。


 今日、ラシャとレニは休日だった。

 つまり、翌日の納品はない。

 つまり、仕入れ&納品チームは明日十一日がお休みということだ。

 十二日は魔嘯の日なので、仕入れはしない。処理しきれない程の量の魔猪が手に入ることは確定なので、むしろ在庫の整理の方が肝心だ。


 それに、ベラの過去の経験を考えるに、ちょいと問題を抱えていることには、もう気付いていた。

 魔素とアスラ病みの問題だ。

 絡めて、駿馬の所有地の問題もある。

 つまり、エドガー商会は、どこからあれだけの食肉を仕入れてくるのか。それはあの魔猪を流用しているのではないか、という疑いをかけられる恐れがある、ということだ。

 …疑いもくそも、事実なので困っている。


 実際のところ、食肉取り扱いを辞めるのも手だったりはする。毛皮と脂でもほどほどに儲かるし、なんなら他の手も色々とある。

 だがまあ、ちょっとやりたいこともあるので、暫くは続けようと思っている駿馬だった。


最高品質の剣(エクストラ・オールド)】について。

 かつて盗んだ金は、まだまだ腐るほどにあるが、悪銭と呼ぶこの金では、不思議なことに全く発動出来ないのだ。

 悪銭を元手に、浄財を稼ぐ。

 マネーロンダリングとは、こういうものだったのか…いや、違うかもしれない。


 使う機会が無ければそれで良し。

 だが先日早速使う羽目になったので、やはり備えはしておいた方がいい。


 駿馬にしては珍しく、命名を賛美された。

 窮地に活を見出す。それがエドガーなのだ。

 どこに活を見出してんだという話ではあるが、鮫の相手も上手くいったので、問題は無い。

 この歳になって、必殺技の命名とか、正直脂汗ものではあるが、まあ、スッと出てきた技名なので、仕方ない。プロレスラーだって、自分の技に名前つけるし…

 なお、エクストラ・オールドとは、最高品質の食品につけられることが多い。

 特級(エクストラ)熟成(オールド)、といった意味で、ブランデーのXOや、中華調味料のXO醤なんかがその例だ。

 あの時、洋酒が身体にぶっかかっていたせいで、酒から連想したのだろう。


 ここ半年、現役を退いてから護身のために整えた、とても金のかかる技だ。

 これがあれば、今なら一矢報いることも…

 いやいやいや。やっぱなし。

 平穏無事が一番ですよ。


 当面の生活がかかっているわけでなし。

 ゆっくり、まったり、のんびりと。

 会社ごっこのつもりで、駿馬はやっていけばいい。

 後進を育成して、働いてもらう。

 今考えると、最善の選択をしたのだろう。

 選択したのか、起きたら選択してたのかという話だが。


 さて。夕餉の時間だ。


 子供達も、大分調理を覚えてきたので、手がかからない。

 パンは近所の《朝焼けパン店》に毎日届けてもらっている。ここではシンプルなパンばかりを作っている。

 菓子パンや調理パンなどはない。

 駿馬はクロワッサンの技法を教えたが、バターは輸入品になるため、中々高級だ。店頭に並ぶことはないだろう。


 ビュッフェスタイルにした。

 スープは駿馬が作った。今日は猪豚足コラーゲンたっぷりの野菜山盛りトマトスープ。

 野菜は子供達に洗わせて、切らせる。

 肉も切らせ、焼かせる。

 魚は最年長の男の子に専属でさばかせ、焼くのは自分で。威吹が鱗の取り方と包丁を教えている。

 味付けは自分の好みで。

 サンドイッチにするもよし。おかずにしてパンを食べるもよし。

 美味いものを食べたければ、(ことわり)(はか)るのだ。

 パンは食べたいだけ食べていい。

 だがおかずのお残しは許さない…!

 炭水化物ばっかり食べていてはいけないのだ。


 六賢老の食事は別だ。駿馬が作る。

 生態が違う生き物が、同じものを食べていてはいけない。


 モーリーは生肉を好む。昔はリスとかを生でパクッといっていたらしい。

 低温熟成が進んだ猪肉を、表面だけ極強火でカリッと焼いて中は生、というのがモーリーの注文だ。

 果物も好きなので、野生のブドウを添える。元の世界では見たことのない、黄色くて勾玉型のブドウだ。味は、まあ普通にブドウで少しつまらない。美味しいからいいのだが。

 酒は呑まず、ほうじ茶をすすっている。

 とても器用だ。



 トラ子ちゃんも生肉系女子だ。新鮮な肝臓は生で食べるのを好む。だが、一番は駿馬のローストポークだとおだててくれる。

 ポークポークというが、多分…ボア?

 まあ、家畜化すれば豚になる。些細な違いだ。

 駿馬は昔から、チャーシューを作る際に低温調理をやっていたので、ピンク色のレア肉を作るのは得意だ。

 猪肉は赤身が強いので、まあ色々と勝手は違うのだが。

 シメたて新鮮な、まだ体温が残り温かい肉だと、本当に簡単に作れるのだ。みんなも猪を倒した時はやってみてほしい。

 それはそうとして、新鮮な牛の肝臓を手に入れた時は、是非ごま油と塩で食べさせてやりたい。

 にんにく醤油もいい。

 焼酎だ。他は認めない。

 ローストポークは作るのに時間がかかるので、今日はレアステーキで勘弁してもらおう。

 白ワインをチロチロ舐めているが、肉には赤が合うというのが定説だ。

 まあ、それも好み次第だ。本人が満足することが大切だ。


 小太郎は、ベジタリアンではないが、ナマグサが苦手だ。味覚が強すぎるのだろう。

 今日は駿馬特製の玉ねぎソースがあるので、薄切り肉をウェルダンで用意する。

 玉ねぎと大根をおろし金ですり、鍋で火にかける。塩、醤油、砂糖、酢、柑橘の汁を合わせてよく煮込む。

 付け合わせは人参だ、そうだろう?小太郎…駿馬は人参が馬の大好物だということを熟知している。

「うん。なんだろう。どこかに書いとかないと覚えられないのかな?」

 野菜サラダには、葉物野菜とマッシュしたジャガイモをたっぷり。果物も添える。

 パンもちょっといいヤツを用意している。くるみや胡麻を混ぜて焼いてもらったもので、小太郎の好物だ。チーズと蜂蜜で食べる。

 ワインは赤だ。


 ちなみに、今日のベラは子供達と一緒にビュッフェを楽しんでいる。レニ、ラシャ、ディンもだ。

 ラシャとディンとレニは増築が完了次第こちらに引っ越してくる予定だが、まだ宿の方に住んでいる。肉肉しい宿の方の食事より、やはり駿馬はこちらの食事をさせたい。

 ラシャはスープにパンを浸す食べ方が好きなようだ。


 威吹と駿馬は厚切り肉をミディアムレアで。

 山葵醤油と、海塩と、玉ねぎソースにつけつつ、味を変えながらいただく。

 駿馬はサラダにも玉ねぎソースをかける。

 威吹はどうも、駿馬の食べ方を真似するところがある。以前、遠慮せずに好みを言って欲しいと伝えたところ、

「あまり、食を楽しむということがなかったので。お屋形様から学んでいるところですよ。強いて好みというなら、酒は強めが良いですな」

 ふむふむ。そういうことならと、駿馬は己の食道楽を大いに披露することにしたのだ。

 駿馬は冷えた麦酒を。威吹は麦の蒸留酒を食事に当てた。


 ラミ子ちゃんも駿馬と同じものをねだるのだが、駿馬より大分レアに焼いてやる。赤みが多いが、キチンと火を通しているので問題ない。

 基本トラ子ちゃんと同じ味覚と考えてよい。だが、トラ子ちゃんよりラミ子ちゃんの方がしょっぱいものが好きなようだ。

 お酒はまだ早いので、濃いめのほうじ茶に砂糖を入れて飲んでいる。


 みんな身体が大きいので、塩分も人間程度かそれ以上に摂っても問題ないだろう。

 その辺は自分で管理して欲しいので、肉を焼くときにあまり塩を振らず、後から自分で塩分を足すスタイルなのだ。


 空いた食器を片付け、洗い物が始まる。今はもう子供達の役目だ。

 もう大分水が冷たいので難儀するだろうと、調理のかまどで湯を沸かし、それを使うように指示してある。

 熱すぎて火傷しないよう、注意するようにと。

 きっと中にはやらかす者が出てくるだろう。それも多分男の子だ。

 火の周りで何かをする時は、数名で見張りあいながら作業するように指導した。


 子供達用に、毛皮をたっぷり使った高級テントが作られ、今は彼らの寝床となっている。

 雪が降る前には竣工、引っ越しという流れに乗りたいところだ。


 子供達はもう寝静まった。新しいテントはむしろ暑いのか、入り口から脚を出して寝ている者が何人もいる。


 ベラがお土産に買ってきてくれた、いの焼きというお菓子は、月餅に似ていた。

 みんなでお茶を飲みながらそれをいただき、ベラがウトウトするまでくだらない話をして、同じ部屋の中、各々の寝方で眠りについた。


 明日の休日は、どうしようか。








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