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エドガー商会の休日〜女子会INいのいの〜

 戌の月、十の日。本日は休日となった。

 ラシャは、《甘味いのいの》に来ていた。

 ベラとレニも一緒だ。

 三人は、エドガーが買い与えた三級国民にしては気持ち贅沢気味な冬の装いを纏っていた。


 毎月十日がお給料日、ということになったので、満額ではないものの、エドガーから給金を貰ったのだ。

 意外に、エドガーはラシャを頼った。

 エドガーは様々な常識に欠けるところがある。かと思えば信じられない知識を持っている時もある。

 エドガーはそれを自覚しており、ラシャにみんなの給料の金額設定を任せたのだ。


 ちなみに、エドガーが最初にラシャに提示した金額は、月に銀貨八枚だった。


「え、馬鹿なの?」

「…だから、任せたいって言ってるじゃん…」


 一流の職人以上の給金だ。


 駿馬的には、月二十四万円、つまり日給一万円の相場だったのだが、どうやら全然見当違いの金額だったようだ。

 大体、月四日の休日が無い計算だったことに、駿馬も後から気づいた。月給二十万、銀貨七枚弱ならもっとボロクソに言われないで済んだのだろうか…

 こういう、あまり考え無しに大事なことをポロっと決めてしまうのが、《エドガーに二言無かった試し無し》と小太郎に言われる所以だ。


 美人秘書は、美人会計も兼ねることになったので、給料も自分で決めてよくなってしまった。

 ラシャの給料は美人手当をつけろと言われた。

 よく分からない。


 実際、一番の常識人は今日のお出かけメンバーだったりする。六賢老はアスラ人。そもそも誰もお給料を貰ったことがないのだ。


 頼りになるのはベラだ。

 ベラは商家に見習いに行っていた経験がある。

 今日は《甘味いのいの》でお茶会しつつ、金勘定。

 エドガーは、「いいじゃない、女子会…そういうのがいいんだよ。おじさん感無量!存分にタピっておいで…」と言って、お小遣いまでくれた。

 甘やかしすぎだと思うのだが…

 あと、タピってなに?


「まずは、ラシャねえさまのお給料からですね」

「は、はい!お願いします!」

「ズバリ…銀貨五枚と銅貨五十枚!」

「ちょ。高くない!?」

「正社員とはそういうものです。日雇いと同列に考えてはいけません。それに会計役が給金に不満を持つと、いけません。いずれ金庫から抜き出します」

「そんなことしないよう…」

「まあまあ。おとうさまの伴侶候補がお金を多く持つのは、当然です。どうせその内同一家計になるのですから、もっと多くてもいいくらいです。そのお金でもっと美しくなって、おとうさまを喜ばすのがいいと思います」

「え、えへ。そうかな?そうだよね…」

「そうですよ、ラシャかあさま?」

「ほ!ほほほほほ…!そうですわね!よろしくてよ!」


 ラシャからすればその金額は、一年分の収入に近いくらいの感覚だ。

 港で荷積み荷降ろし、検品作業などをすると、銅貨を三枚ほど貰えたが、毎日ある仕事ではない。一月五回ありつければ良い方。

 他にも陸路輸送隊の手伝いが月三回ほど。

 職人達の建材輸送の手伝いが月三回ほど。

 漁師の手伝いが月三回ほど。

 ラシャは月に十三日ほど仕事にありついて、なんやかや銅貨五十枚ほどの収入を得ていた。

 一月銅貨十二枚あれば、一人なら十分食べていける。

 銀貨五枚は銅貨にして五百枚。合わせて銅貨五百五十枚。

 ラシャにとっては物凄い大金なのだ。


 駿馬もその相場をラシャから聞いていた。

 絶句して、己の脳内そろばんで勘定した。

 つまり、若い娘が朝から晩まで肉体作業をして、日給千円くらいの相場で十三日で一万三千円くらい稼ぐ。

 そして一月四千円弱で暮らしていたのだ。それも、恐らくはベラや他の子供達を養いながらなので、貯金など出来てはいなかっただろう。

 確かに、一番安いパンなら銅貨一枚でかなり大きいものが買える。二日は食べられるだろう。食パン一斤くらいの量だ。

 漁師の手伝いをすると、売り物にならないような獲物は貰えたらしい。小魚や、潰れた魚や、他の珍妙な生き物などだ。それらが大分ラシャを助けてきたのだろう。


 この世界において、商人は実はあまり好かれる人種ではない。この人件費の悪辣さがその元凶だろうと駿馬は思ったが、かといって無くなってしまえば貧民はもっと困る。


 成る程、労働基準法とは大切なものだ。

 しかし、最低賃金が上がれど景気が悪いのでは、今度は会社が潰れる。駿馬はそうして会社を潰した過去を持つ。

 結局はバランスだ。


 美人秘書の給料は、日本円にして十六万五千円くらいに落ち着いた。

 税金は駿馬が払うし、住居も食事もつく。

 そう考えれば、現代日本で就職するより貯金は貯まるかもしれない。

 ここにはスマホやゲームなど、毎月の支出を脅かすものは無いのだ。

 これに駿馬は納得し、承諾した。


「次に、レニさんですね」

「は、はい!」

「レニさんは…現在の待遇では、銀貨二枚です!ただし、これは《岩鳥の巣亭》出向時点のものと考えてください!別部署に異動すれば、ラシャねえさまに準じた金額となり得ます!」

「十分です!」


 ありがたやー、とベラを拝むレニ。

 ラシャを妬むような気性の女ではない。レニもまたラシャと同様に、日雇いの仕事で子供達を養っていたのだ。

 なお、悪女として遥か高みにあるリノすら、レニに収入の一部を渡していた。

 リノは悪女だが悪人ではない。身内を守り、敵から搾取する。それだけの、当然のことをしているだけの女だ。


 なお、月六万円というお給料に、後に駿馬は全く納得せず、最低でも銀貨五枚まで上げるよう一人逆春闘を起こすことになるのだが、それはまた別のお話だ。


「で、ベラは?」

「私は六賢老ですので…」

「ので…?」

「おとうさまのお財布が、私のお財布です!」

「ううっ!よくわからないっ!」

「娘、ですから…欲しいものはおとうさまにねだります…」

「うう…なんか、いいなあ…」

「っていうか、ベラが会計でよくない?」

「私は、美少女教師、なので…」

「…美少女教師、美人秘書…あれ、なんか、負けて…る…?」

「しかも、アンタ第二秘書って言ってなかった?」

「私、美しい娘(ベラドンナ)、なので…」

「あ!絶対負けてる!!」

「あたいより全然上だから、ね?元美人局はそこ譲っときなって」

「うう…なんか、最初からずっとベラは扱いが違うよう…あたしもアスラ人になりたいよう…」

「こら!そーゆーこと、言うもんじゃないよラシャ!」

「あ………ごめんなさい、ベラ。そういうつもりじゃなかったの」

「全然!気にしてません!」

「…うそ」

「いえいえ。本当にもう、私だけなんでこんなにって思っていますわ、ラシャねえさま」

「…そっか」

「むふふ。羨ましいでしょ?」

「うーらーやーまーしーいー!!」

「昨夜なんて、みんなでお風呂入ったんですよ?」

「…ちょっとおじさんぶっ飛ばしてくる…」

「おやめ!あたい達の金づる様に失礼するんじゃないよ!」

「金づるじゃなくて、あたしの男だもん!」

「なら早く捕まえな!」

「私が捕まえましょうか?」

「…それ、ホントになりそうで怖いよう…」

「冗談ですよ。おとうさまはそういう人ではありません…」

「…というと?」

「私はもう、娘として、こう…完全に愛されてますので、そういう対象には、きっとなれないんです。…でも、それでもいいんです。ラシャねえさまならおとうさまを幸せにしてくれると信じていますから。私はただ、ずっとお側に…小太郎兄様、威吹おじ様、トラ子、ラミ子ねえさま、モーリーおばあ様。みんなと一緒に、ずっとお側にいたいのです」

「…ラシャ。無理。絶対勝てないよ?」

「助けてよ、レニぃ…これ無理だよう…」


 女子会は駿馬の期待どうり、実に姦しく過ごされていった。


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