序・おじさんは二度死ぬ
目立たないタイトルと思いますが、見つけてくださりありがとうございます。
物語の途中から書き始めるという、乱暴な始め方をさせていただきますが、最後まで見据えておりますので、決して途中で放棄しないことをお約束させていただきます。
《完全無欠のハッピーエンド》を作りたい。
そう思っております。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
春の柔らかい雨とはいえ、一晩浴びていれば身体も心も衰弱する。
ましておじさんは貧弱だ。身体も心も。
自殺して失敗して、奮起して他殺されて。
ああ、なんでまだ生きているのか、それが不思議だ。
あわれな男を神様はせっかくまた生かしてくれたというのに、このザマだ。
貧乏だった。努力した。挑戦した。失敗した。
特別な力を与えられた。慢心した。調子にのった。敗北した。
どうやら俺は、そういう器では無いようだ。
悪ぃなあ、神様よ…
すまねえなぁ、仲間達よ…
でもまあ、とりあえずまだ、生きている。
もう夢は見ない。
余生を生きようじゃないか。
自分の器に合った、さ。
ヤツの大笑いしている声が、まだ耳に残っている。
恐ろしい存在だ。あれは勝てないや。
よく、見逃してもらえたもんだ。
惨めに縋って、命乞いをして。
はは、なんだ、自殺する前の経験も、役に立つじゃないか。土下座もしておくもんだ。
なるほど、破産経験者ってのも、捨てたもんじゃない。
「みんなー…生きてるかー…」
ややあって。
「おーう…兄貴よりは、みんなマシだよ…」
「そっか…じゃ、良しとしようか…」
「…良しとするのですか、お屋形様…」
「生きてるだけで、丸儲けだよ」
「おとーさん…ウチ、負けたよ…」
「怪我はないか…大きい怪我は…」
「飼い主の方が酷い。右手はまだついているのか」
「…あー、不思議と大して痛くもねえや。動くよ。とりあえずは」
「旦那様、治療いたします。皆も、私に集まってください」
「…うん。頼むよ…」
「坊、簒奪者は…死んだのかい?」
「…まあ、ギリってとこかな」
特別な力の源。《価値の簒奪者》は俺の右手に宿る。
複雑怪奇で、未だに理解できたとは言えない力。
それも、ほぼ奪われてしまったようだ。
「みんな、これからの方針を話す」
俺たちは、初めて訪れる国、亥の国へとやってきた。
一月以上もかけて。
理由は簡単。あわや全滅の憂き目に遭った巳の国から、一番遠いからだ。
逃げたのだ。
「俺は、この国で余生を過ごすことにする。もう、大それた事は何もしない。幸い、悪銭はたんまり残ってる。一生遊んでたってお釣りがくる」
六人の仲間達は、それでも付いてきてくれた。
これなら寂しくない。
「目立たず、ひっそりと。誰の世話にもならず、誰の世話もせず。誰の味方もせず、誰の敵にもならず。いてもいなくても誰も気にしない。毒にも薬にもならない。そういう人生を楽しもうじゃないか」
「まさに《無価値のエドガー》だね」
「ああ、ヤツが付けたアダ名か…意外に的を射てるかもな」
俺よりネーミングセンスがありやがる。
「さて、まずはみんなで住める家でも買って、人並みの生活を整えよう。もうホームレスはたくさんだ」
「ボクらが人並みの生活を?」
「お前はウマナミだよ」
「死んでください兄貴」
こうして、俺は余生を始めた。