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プロローグ
夕焼けに染まる海岸で、幼いボクと彼女は手を繋いでいた。
今にも離れそうなか弱い力でお互いの体温を感じていた。
夕陽が半分海と交じりあい、溶け合っていた。
いつも見ている光景のはずなのに、今日は一段と綺麗に見える。
「今までありがとう」
ポツン。と彼女がそう言った。
それが別れの言葉なのだということをボクは気づいていた。
気づいていたから、聞きたくなかった。聞こえないふりをした。
彼女はそんなボクの額にそっと口づけた。
「大好きだよ」
それがボクが聞いた彼女の最後の言葉だった。
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リリリリリ………
けたたましく鳴る目覚ましにほだされ重いまぶたをなんとか持ち上げる。
そんないつも通りの朝。
子供の頃の夢を見るのは珍しいことではない。
ましてや、僕が世界一好きな女の子の夢だ。
良い朝を迎えられたと思うことが普通だろう。
だが、その夢は憂鬱な朝をさらに深めただけだった。
あの日、あの時、どうすれば彼女を助けられたのだろう。
そう、僕がこの世で唯一愛した幼馴染は────
あの日死んだのだから。