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第四話 日常の帰り道

「こんなもんでいいかな?」

 商店街で買い物を終えて俺は袋を両手に抱えながら帰路についている。


「しかし、流石に買いすぎたかな?」


 来る人数がわからないので何時もより多めに買ってしまい結構重い。


「ちょっとだけ休憩していくか」


 ちょうど公園に差し掛かったので、俺は公園に設置されているベンチに腰掛ける。

 そろそろ夕方だが、公園で遊んでいる子はまだそれなりにいる。

 鬼ごっこをしているようで、きゃっきゃっとはしゃいでいる声が聞こえる。


「しっかし、あの子はいったいなんなのかねぇ?」


 ポツリとそう呟く。

 商店街で会った亜人種の子は結局あれから会うことはなかった。


「亜人種の知り合いなんてそう多くないし、あんな子は見たことないしなぁ」


 亜人種の知り合いを思い返してみても、さっぱりわからず首をかしげる。


「それよりも、だ」


 店先でいきなりの少女のだきつき。

 奥さんにあらあらまぁまぁと邪推されいろいろ聞かれたり、他の商店の人たちも出てきてあれこれ聞かれたのには疲れた(中には俺をロリコン扱いしてきたやつがいたので、そいつには鉄拳制裁した)。


「「はぁ~」」


 思わず吐いたため息が誰かとハモった。

 ビックリして隣を見るといつの間にいたのか、女の子が俺と同じように驚いた顔をしてこちらを見ていた。


「あっ、そ、その」


 顔を真っ赤にしてあわあわしている女の子は俺と徐々に距離を取る。

 そういう態度は軽く傷つくからできればやめて欲しいのだが。


「あぁっと、なにか?」


 とりあえず怖がらせないよう、彼女とは距離を取ったまま話しかける。

 向こうはまだ警戒心が解けないのか犬耳と尻尾を尖らせている。


(この子も亜人種。しかもまた犬種だ。今日はなんか縁があるなぁ)


 何となくそう考えながら目の前の彼女を見る。

 空のように蒼い瞳と同じ紫に近い青の髪。

 ドレス風の白い服の上にピンクのストールとどこかお嬢様然とした雰囲気がある。

 しかしなによりも身長には不釣り合いな体つきがすごい。

 キュッと体を抱きすくめているから、腕に挟まれるようにその双丘が強調されている。


「っ!?」

「あっ」


 視線をガッツリ下に向けていたからか、訝しんだ彼女が俺の目線をたどり、どこを見ていたのかを察し顔を真っ赤にしてさらに距離をとった。


(しまったな。これじゃ話もままならんな)


 しでかしてしまったことを悔やみ頬を掻いて途方に暮れてしまう。

 彼女は距離をとったまま俺を見ている。


「・・・・・・あっ」


 気まずい空気のなか、小さく声をあげた彼女はさっきまでの警戒モードを緩めてくれたようで、にじり寄るように近づいてきた。


「あ、あの」

「はい、何でござろう?」


 彼女の方から声をかけられ、今度は警戒させないようにと言葉を選んだつもりが、一周回ってなんだか変な受け答えになってしまい、俺は内心やっちゃった感をしてしまった。

 声も若干上ずったし。


(ヤバイ、めっちゃ恥ずいんですけどぉぉぉぉっ!?)


 彼女は一瞬キョトンとしたあと、口に手をあててクスクスと笑いだした。

 恥ずかしい思いはしたが、気まずい空気のままでいるよりましかと思い、あえて笑われようと思う。


「す、すみません。いきなり笑ってしまって」

「いや、別に構わないよ。それで、改めて聞くけど、なにか?」

「あっ、そ、そうですよね。すみません」


 しばらく笑ったあと女の子から謝罪された。

 気にしていない俺はさっき声をかけられたことを聞いてみる。

 恥ずかしさが残っているようで少し顔も赤い彼女は「えっと」と話し始める。


「人を探していて。金色の髪の、私と同じ犬耳獣属の子を知りませんか?」

「金髪の犬種? んー、悪い。今日は会ってないな」

「そう、ですか」


 そう言われて今日を思い返してみるのだが、会っていないと正直に話すと、彼女は分かりやすいくらいに耳も尻尾もへにょりとしてしまった。


「でも、それがどうしたの? 知り合いとか?」

「あっ、はい。私たち姉妹がこの街、というかこっちの世界は初めてなんですけど、こちらでお世話になる方の住所の紙を姉が持っていて」

「ふんふん」

「ですが、その姉が地図を片手に狭い路地や回り道ばかりして道に迷ってしまい」

「あー」

「追っ掛けていったんですが、気付いたらいなくなってて」

「・・・・・・うん」

「さらにもう一人の妹もいなくなってて」

「・・・・・・」


 その時のことを思い出したのか、だんだん涙声になってきて肩を震わせ始めた。

 そりゃ、知らない土地でひとりぼっちにされりゃそうなるわな。


(なんというか、なんて声をかければいいのか分からないな)


 そう思っていると、俺はよく透にやるように無意識のうちに彼女の頭に手を置きよしよしと撫でていた。

 彼女はえっと驚いた顔をしていたが嫌がるそぶりは見せず、むしろもっと撫でてほしそうに下を向き、くすぐったそうに身をよじり尻尾をぶんぶん振っていた。


(本人が嫌がっていないみたいだからいいが、まぁいいか)


 彼女の髪は滑らかかつふわふわとした触り心地で撫でている俺もとても気持ちがよい。

 そう思いながらしばらく撫でているとようやく落ち着いたのか、彼女は俺からゆっくりと離れた。


「えっと、その、たびたびすみません」


 顔を真っ赤にしてうつむいている彼女は俺に謝ってきた。

 俺的にも気持ちよいひとときだったし、構わないんだけどね。


「こっちこそ、いきなり頭撫でたりしてすまない」

「い、いえいえっ、とんでもないです」


 俺も謝ったが、彼女はすごい勢いで首を横に振った。


「それでどうする? 場所がわからないなら俺が交番まで一緒に行くけど」

「え、えっと、コーバンってなんですか?」

「知らないか。交番ってのは、この街のことなら大体は知ってる自警団みたいな感じかな?」

「あぁ、なるほど。えっと、それじゃお願いしますでしょうか?」

「わかった。それじゃついてきてくれ」

「はい。お願いします」


 買い物袋を持って俺が促すと彼女はお礼を言い頭を下げ俺を笑顔で見た。

 その顔には最初会ったときのような警戒心はもうなかった。

 そしてその笑顔があまりにも可愛いものであったため、俺はしばし見惚れてしまった。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。それじゃ行きますか」

「分かりました」


 首をかしげる彼女に背を向けるようにして俺は歩きだし、彼女もそれに従うようにあとを追いかけていった。

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