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プロローグ 見知らぬ男

 書棚が並べられた部屋で、あたしは名も知らない一人の男性と話している。

 知らぬ間に部屋を訪れた彼は、世界について話が聞きたいのだとソファに座り、あたしの昔話に興味を持ち出したのだ。

 仕方無しにあたしは記憶を甦らせ、好きでもない過ぎ去った日々のことを話し始めた。


 今を大切にしてきたあたしにとって、過去のことを話すといったことはこれまでなかったと思う。

 それなのに、見ず知らずの異性に話していると何故か楽しく感じられた。


「あの頃はあたしも若かったわ」


「へぇ〜、お前にも若い時があったんだ」


「あったわよ!!

 今でも若いし。

 それに、お前って言うな!」


 これでもお姉さんと呼ばれるくらいであって、おばさんと呼ばれた試しなどはない。

 そもそも、そんな単語は口にもさせないけど。


「そんなお前にまさか『憧れの女性』なんてのがいたなんてな。

 全く理解し難い話だな」


 こんな言われようをするから昔話なんてすることはなかった。


「あたしだってね女の子なんだから!

 男の子が英雄や王に憧れるのと同じ。

 あんなに美しく気高い女性を見たらね、誰だって憧れるわよ」


「――の割には気高さなんて微塵もないけどな」


「なんて言った!?」


「いやぁ〜。

 気高さはともかく、美しさなら負けてないなって言っただけだよ」


「なら、どこが美しいのか言って見なさいよ」


 少しの沈黙のあと、何かを探るかのような顔であたしの体をくまなく見ようとしている。

 視線がゆっくりと上半身から顔へと移ると目が合った。


「……全部さ」


「――ばっかじゃないの!!」


 大声で笑っているが、言われたこっちは恥ずかしくてたまったもんじゃない。


「よくそんな恥ずかしいこと平気で言えるわね。

 他の女にも言ってきたから慣れてるってやつ?」


「それはまぁ、確かに否定はしないが。

 ただ一つ間違いがあって、本気で言ったのは今だけさ」


 とことん恥ずかしいヤツだ。

 言われるこっちの身にもなって欲しいもんだ、嬉しくないわけではないが。


「あーはいはい。

 そりゃあ、あたしは可愛いだろうけど、そんなことを言う男はごまんといたからね」


「まぁ、そうだろうな」


 ここは意外にもあっさりしている。

 なんかもっとこう、食い下がったり突っ込んで欲しい気もしていたのに。


「で?

 死人のあんたは何を知りたいんだっけ?」


「だからさ、オレが魔人王に殺されてからの世界を知りたいのさ。

 お前がどんな旅をして、どんな人らに出会ってきたかって。

 オレの知らないことは山ほどあるだろ」


 自分の知らないことを聞く楽しさを有している人だっていなくもないが、あたしの話を聞いて楽しんでもらえてるのかは疑問だ。


「小さな頃から旅に出たからね、色んなことがあったし、変なヤツも沢山いたわね。

 そうね、次はあの時の話でもしようかしら?」


「いつの話だい?」


「旅に出てしばらくしたあと、女王(クイーン)と婚約出来るって話を聞いてね、その祭りに参加してみたわけよ」


「そんな国があるのか?

 なんだか面白そうだな、それは是非聞かせてくれ」


「なら、旅に出るきっかけとかはかいつまんで話すわね」


 幼い頃、あたしの両親は殺された。

 魔法大戦が終わり、どの国も復興と発展に力を注いでいる中、帝国に属する街に住むあたし達へ村の農夫達が反旗を翻したのだ。

 結局は英雄気取りの男による手引きだったのだが、その為に街では罪無き人々が被害を(こうむ)り数名の死者が出る事態となったが、やがては収束に向かい元の生活へと街は戻っていった。


 両親を亡くし、領主に引き取られたあたしを夫妻は我が子のように愛してくれて、生活は何不自由なく暮らすことはできたのだが、いつも心の中にモヤがかかっていた。

 それは今となって分かることだが、領主夫妻のことをあたしが愛していなかったのだと思う。

 

 そんなある日、街に訪れた冒険者の一行とある事件に巻き込まれた。

 事件を解決した冒険者に触発され、あたしは世界を旅する決意をすることとなる。

 それは、自分の中では一大決心でもあった。

 出来ることならもう一度あの冒険者の一行、特に剣士のアリシアお姉様に逢えたらと胸に秘め……。



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