第4話
井戸を壁にして見える敵の数は数名といったところだろうか。敵の配置を確認しようとわずかに顔を覗かせたトールに再び矢が襲い掛かり、慌てて井戸を盾にして姿を隠す。放たれた矢が井戸に突き刺さっては消滅していくのを目の当たりして、トールは早々に正攻法での逃走を断念した。
「魔法矢かよ……厄介な」
魔力で生成された矢であれば、物理武器と異なり敵の魔力が尽きない限りは弾数に制限はない。国立猟兵団は国内でも有数の実力部隊で、手数の多さからして人数もそれなりにいるだろう。持久戦に好機を見出せないならば、奇をてらったワンチャンスにすべてを賭ける他はなさそうだ。
体を丸くした少女は目を瞑って震えている。無理もないと思ったトールは右手に魔法を宿して数本の苦無を指に挟んだ。反対側の手にはポケットから取り出した庭球ほどの小さな玉が握られている。
「立てるな?抜けるぞ!」
敵の攻勢が止んだ一瞬を突いてトールは苦無を猟兵団に向けて解き放った。次いで左手に握っていた玉を敵との中間地点に投げるとすぐさま煙が辺り一面を支配する。
「煙幕!?」
「弾幕を緩めるな!逃がさなければ!」
敵が見せた迷いを逃さず、トールは少女を抱えて隣の通りへと走り出した。