第三十八話 vsQuadruplets ➀
ジョセフside
「ホラ、とっとと入りなさいよ」
「いやいやいや、何かやばいのいるって!明らかに何かいるって!」
巨大な鉄の扉の先には、広い部屋があった。部屋の奥にはモニターが……
いや、そんなことじゃない。もっと描写しないといけないとこがある。
それは、二足歩行であるということ以外で、自分との類似点を見つけることができなかった。
16の目が赤々と光り、それぞれ4の顔の口からは舌がはみ出している。
手……手は、溶けていた。夏場に買ったことも忘れて放置された悲しいチョコレートのように。
もとから溶けていたのか、何らかの方法で溶かされたのかは不明だが、どちらでもいい。
今のところ、こちらを見てはいるが、何もしてこないのが救いだ。
これは、刺激しないように、ゆっくりと……
「こいつから逃げきれたら帰れるかもよ」
「えぇ、逃げるって、殺されかねないのに」
「ここにいても殺されるのよ」
信じていいものだろうか
これほどまでの大規模誘拐事件を引き起こしておきながら、あっさり帰してくれるとは思えない。
この化け物のことはまだしも、誘拐されたことの詳細を話せば警察に
あっさりヒントをくれてやることになるのに。
「あー、そうそう。ユーカ様はゲームをクリアした人間の望みを何でも叶えて下さるのよ。
もしかしたらあんたの欲しがってた最新式ゲーム機が買えるかも……」
「ジョセフ、行っきまーす!」
扉の先には、先程までいた大広間と変わらない内装が広がっていた。
あの扉を境界に鏡の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚さえ覚える。
この化け物さえいなければ。
「ハ、ハロー」
無反応、というかこちらの方を見ようともしていない。16の目玉は各々別々の方向を
見つめている。これは、今のうちに逃げた方がいいな。襲われるなんてたまったもんじゃない。
少し後ずさりし、逃げようとした……
瞬間。視線と共に激痛が腹部に突き刺さった。
「ぶふッ!」
壁に強かに叩きつけられ、口の中を切ってしまったようだ。口から少量の
血がタラリと流れ出た。
何があったのか。怪物の方へ目を向けると、俺を蹴り飛ばした状態で止まっており、
その足の中に輝く小さなものが見えた。
(ボタン?)
服のボタン……何故?もしかして、俺を攻撃したわけではなくあのボタンを取るため?
だとしても、何のために?
あれには多分理性など無いに等しいだろう。では、あの化け物の習性という奴だろうか。
ボタンで、何か動物の習性に引っかかるもの……
「わわわっ」
4つの顔の一つが牙を剥き出し、飛び掛かってきた。慌てて横に飛びのく。
このボタンが付いているせいか?生物がこのボタンを狙ってくるとしたら、
カラスのように光るものを収集する癖があるのかもしれない。
よく見ると、一つの顔がボタンをバリバリと喰っている。喧嘩をしている様子もない。
他の一つも床を赤い舌で何かを舐めとっているのが窺える。残り二つは何の反応も示していない。
(こいつら、顔によって好みが違うのか?)
顔が四つもある生物に他にあったことはないから知らないが、世の中には
下半身が繋がった双子もいるという。その双子も別に何もかも一緒という訳ではないだろうし
顔それぞれに好みがあったとしても不思議ではない。
そしてこの˝好みの違い˝こそ、この化け物攻略のカギになる!
スマホの電源を入れる。
「はいはい、ユーカちゃん相談所でーす」
「ユーカ、あいつのそれぞれの顔の好みを教えてくれ」
「なぁに?あのキショイの好きにでもなったの?」
「殺しに来なければ好きになるかもしれないけどね。いや、そんなことはいいから
顔の好みを教えてほしいの」
画面の中の案内人は少し考えるそぶりをした後、こう答えた。
「教えない」
「え、何で」
「この屋敷の中に答えがあるから自分で勝手に見つけろ、って伝えろって電波が飛んできたわ」
あれは考え込んだわけではなく、電波を受け取っていただけだったようだ。
この家にヒントがあるのか。答えではないのが少し不安だが、見つけられれば、
逃げることに役立つかもしれない。
例えば!
「ほら、餌だ!」
服のボタンを引きちぎり、自分と真反対の方向へ投げる。照明の光が反射し
金色に輝くボタンが宙を舞い、地面に落ちた。
光り物好きの顔が反応する。地面を舐めていた顔はもう何かを舐めつくしたらしく
大人しく引っ張られていく。
強く地面を蹴り飛ばした。怪物との距離が離れてゆく。これでいい。
何もあんな化け物相手取って戦う必要などないのだ。ここから脱出さえできればそれで。




