第三十六話 お似合いのアー◯ック
常神side
まるで、5月ごろの青々とした草原を歩いているかのようだった。
実際は赤だが。それほどまでに踏み心地のいい高級そうな絨毯。
現在、私は泥まみれの靴でこの数十万しそうな絨毯を踏みつけている。
「こ、これ、クリーニング代とか請求されないよね」
「クリーニング代ぐらい賠償金で払えるだろ。最も、ここから生き残り、尚且つ
犯人が捕まってくれればの話だがな」
(そっか。……そうだよね。生き残らなきゃ)
少し歩くと、曲がり角が見えてきた。丁度その時、リビング・ボムが口を開いた。
「ちょっと思ったんだけど、二人ともなかなかお似合いのアベックだよね」
「「は?」」
「まぁ、確かにちょっとした親子の差だけど年の差結婚って言うのもあるし」
「いや、そうじゃなくて、お前アベックとかいつの時代だよ。今時40~50代でも
使ってるやつ見たことねえぞ」
「えー、使わない?おっさん世代ならナウいと思って使ってそうな雰囲気あるけど」
「ナウいも使わねえよ」
二人が何やら死語の話をしているが、何を言っているかさっぱりわからない。
というか……
お似合いのアー◯ックって何?
「おっさん世代だから使わないんだよ。下手に使おうとすると
流行とズれたことを口走って自滅するからな」
「へえ、じゃあ今日本でもチョベリバとか使わないんだ」
「お前いつの時代だよホント」
(あれれ?お似合いのアー◯ック分からないの私だけ?)
曲がり角にちらりと目を向けると、隅で何かが動いた。
「あ、アー◯ック!」
「「は?」」
首筋に何かがついた。それは、ほんの少し熱を持ち、まるで体の中に入っていたかのような……
手を当てると、ぬるっとした感触が感覚器官から脳に伝わる。
「え?」
振り返りたくなかった。その先に死体があるのではと、思ってしまったから。
しかし、体の拒否反応を振り切り、首を回した。
「クソッ、足持ってかれた!」
リビング・ボムの足が、何かに食いちぎられたかのように消えていた。
食いちぎられた……何に?
明らかに巨大な獣に噛まれた傷だが、そんな生物がいたならば、
いくら感が悪くとも気づくだろう。
まして、ここはサバンナではなく室内である。見通しが悪い上、音が響きやすい。
「こ、これ……」
「気をつけろ。何か、黒いものが下から上に動いたと思ったら、足が……」
(下?)
視線を落としても、そこには血シミが付き、どす黒い赤になった絨毯があるだけである。
それはそれで異常ではあるが、ほかに異常と思しきものはない。
天井にも、特に何かあるということはなさそうだ。
「あの~、僕のけがの心配もしてくれていいんだよ?」
そうだった。止血をしなければ。止血の仕方は……ええと……
学校で習ったんだけど……
私が狼狽えていると、彼は自分の服の裾をちぎり、
傷口から少し上の部分を縛り付けた。
「これで良し」
「いや、良しじゃないだろ」
「だって、仕方ないじゃない?応急手当セットとか無いわけだし」
それよりも、と彼は小さくつぶやいた。
「あの完成品、˝能力˝を持っているのか」




