第二十七話 職務放棄は殴られる
清道side
「終わったー……ん?」
月の間には、俺と明さん以外に、二人の少年少女が立っていた。一人は、このクソ暑くなってくる時期に防寒着を羽織っている日本人っぽい男。道民でも今の時期あんな格好はしていないだろう。
もう一人は、中国人か。赤毛の少女。まぁ、特にこれといって特筆すべき点はないように思える。
「ん?」
「おお、新しい人来たアルネ」
成程、口調にこれ見よがしの特徴があった。中国人こんな口調じゃないだろ。
ガチャリと後ろの扉が開いた。その扉は、煙のように掻き消えてしまった。
(どうなってんだよ、この施設)
扉から現れたのは、特攻服を着た、金髪の今の時代では絶滅危惧種の女ヤンキー。
どこかで会ったような気がするが、気のせいか?
「あ」
「あ?」
こちらは全く相手の顔を知らないが、あちらの方は知っているようだ。
俺はあった人の顔は忘れないはずだが……
(ま、こういうときはだな)
「こんにちわ」
「ああ、こんにちわ」
まずはあいさつで切り抜ける。そして、無視する。ヤンキーと│麻薬中毒者には
関わらない。善良な一般市民の鉄則。
しかし、そういったものは、こちらの都合などお構いなしに近づいてくるものだ。
「あんた、あの時のマモンと戦ってた人だろ?」
何故それを知っている?あの場所には置きざりにされた俺たちしかいなかったはずだ。
(……こいつ、あのカラスか?)
生物界に人間からカラスまでの劇的な変化を遂げる生物はもちろん存在しない。
それも自分より大きいカラスに。生長というのならまだわかるが、一度生長した奴が
また元に戻るなんてベニクラゲしか聞いたことはないぞ。
それに、ベニクラゲも元に戻るには二日はかかるし、人間でいうなら赤ん坊に戻る。
生殖した後でな。
さすがに体の構造がそいつらと同じではないだろうが……これがあの花粉の力だというのなら
恐ろしいことだ。
「なんか悪かったな、あの時は」
「え、いえいえ。お気になさらず」
話しかけないでくれないかなぁ。お前に金をせびられても断る自信がない。
最も、この施設ではポイントしか使われていないし、ポイントと品物の贈呈及び
貸し借りは禁止されている。
「ボスとはもう会っただろ?いやぁ、何かのーんびりしてる奴だったよなぁ」
「ええ、そりゃもうのーんびり……」
背筋が凍りついた。ボス?この組織の?嘘だろ?あんな奴が?
威厳も貫禄もカリスマ性も見いだせないような男だったぞ。めちゃくちゃラフに話しちまったぁ~ッ!
「そろってる~?あ~」
いつの間にか、月の間の中央に一人の女性が立っていた。160の俺より少し高い程度。
紫色の毒々しい髪と、焦点のあっていない目は、明らかな人離れした雰囲気を醸し出す。
「おおおおおッ!」
「ぐえっ」
突如として現れたぼさぼさの髪のだらしなくTシャツを着込んだ男が現れた。
それは俺たちを見るなり、いきなり俺を突き飛ばし、その女ヤンキーの頭につかみかかった。
「え、何?」
「君ッ!日本人かね?日本人だろうッ!?金髪だが日本人のはずだ。肌は黄色いし、
こんな格好をしているのは日本人ぐらいだな」
(日本になんてイメージ持ってんだよこいつ)
「珍しい。この目は非常に珍しいッ!真っ黒なんだよ、目が。
日本人は主に茶色が多いんだ。真っ黒な奴なんてほとんどいない。
ちょっと抉らせてもらっていい?もっとよく……」
「ふざけんな!」
彼女から張り手が飛ぶ。今のでどうやら口の中が切れたようだ。つうっと赤い血が流れる。
「……痛いなぁ、何をするんだ」
「殴られるんだよぉ、下らないことってるからぁ」
「下らなくないぞ、好奇心というものはな。好奇心があったからこそ人類はここまで発展してきたのだ。
わかるか?」
「ボスに叱られるよぉ、職務放棄はさぁ」
「ムムム」
「案内人、私たちわぁ。案内するよぉ~、この施設をぉ」




