第二十一話 幹部の実力
清道side
「よし、天音。車だ車。とっととここからずらかるぜ」
天音は手の形にしていたガムを透明な床に下ろし車の形を形作る。
「……俺のことはいいのか?」
「別に。ここにいれば俺たちも危険だしな。俺たちの目的は戦うことじゃない」
「……」
顔に怒りが生まれる。お情けで逃がされたことに腹が立っているのだろう。
「逃がすかよ。こっちは相棒ぶっ飛ばされて怒り心頭なんだよ」
「あっそ。勝手にすれば。出せ」
ガムで作られたピンク色のガムに乗り込んだ。ほのかにイチゴのにおいがする。
車は桃色のタイヤを転がし、発進しようとした。
「?どうした?なぜ発進しない?」
「言ってんだろ。逃がさねえってよ!」
タイヤが凍っている。いや、タイヤどころか車全体が凍りつき始めている。
(あのカラスの能力か。めんどくせえな)
車からすぐに下りる。カラスは頭を羽の中に丸め、
「手は貸さねえからな」
「いいよ。逃がさなければな」
(逃がしちゃくれねえか)
「天音」
ガムを口に放り込み、膨らませる。そして手の形を作り、それに叩き込んだ。
まともに食らえば死亡とまではいかなくとも、確実に気絶するだろう。
「!」
手で受け止めていた。プロボクサー並みのスピードのパンチを、見るからに衰弱した
少女が片手で受け取めていた。
それだけではない。直接触れられていない天音の顔が、干し柿のようにやつれ、干からびている。
それとは反対に、彼女の顔は、水を得た魚のように生き生きとして、肌には艶を帯びている。
(まさかこいつ、あのガムをストローみてーにして、あいつの˝何か˝を吸い取ってんのか?)
「チッ、そのガムを吐き出せ」
天音はその巨大なガムをペッと吐き捨てた。ガムをストローにするというのなら、
そのストローがなければ意味がない。
「あ?」
手が干からびている。天音の手ではなく自分の手が。
「無駄なんだよ。んなことしても。てめえらは干し柿になってここで野垂れ死ぬんだよ」
……なるほど、空気をストロー代わりにしてすすってんのか
これなら手で接触する必要ないだろ。確かに接触されるよりは遅いが。
「まぁいいだろう。撃て」
「撃て?いったい何を撃てって……ぶえ!?」
彼女は大きくのけぞった。それはそうだろう。鉄並みの硬度のガムが弾丸並みのスピードで
額にめり込んだんだから。
正確には、前に出していた手のひらを貫通してだが。
断末魔を上げる間もなく死……
いや「ぶえ!?」っつってたな
「?」
倒れない。いや、それどころか頭を再び持ち上げている。
頭からは多量の血が流れだしてはいるが、死んではいない。
「痛ええ。クソが……手にまで穴が……開いてんじゃねえか」
カラン。と血まみれの硬質化した弾丸が透明な床に落ちた。
(固定してるわけじゃないのね)
「お前、なんで死なねえんだよ」
「教えるかよ……バーカ」
まぁ答えが聞きたいってわけじゃないんだけど。脳にダメージを受けて致命傷だし、
もう一発ぶち込めば……
「おい、俺死ぬぞ……フィリップ」
「誰に言って……」
瞬間、天音の肩が床を赤く染めながらボトリと落ちた。透明な床が赤色の床に変わり、
あと数歩後ろに下がれば足を踏み外すということを知った。
だが、またわからなくなってしまった。何故かって?簡単だ。
その血が集結して刃物を形作り、俺を切り裂いたから……
まさか……天音の体内に能力を適用した血を……




