第十七話 思考の故障
ジャックSide
「スタッカート」
刀に変形したスフィアは、明さんに切りかかった。
だが、あっさりと受け止めた。
「刑執行の続きですね」
「じゃあ僕は、作曲の続きかな」
彼女は軽々といった様子で創り出した鋼鉄製の鎌を投擲した。本当に女性か?
とっさに反身でかわした。
ベルフェゴールSide
到着。さて‥‥
足元に都合よく先程、とり逃してしまった少女が転がっている。
「え、嘘!?」
「お返しだ」
足を振り上げ、脳天目掛けて振り下ろす。
清道side
「いッ!ってぇなおい!!」
とても人間の蹴りとは思えない足蹴りが、突き飛ばした右腕に強烈な痛みと、骨折という結果を負わせた。
「マジに人間かアンタ」
「人間だよ。残念ながらな」
腕がピクリとも動かない。皮膚が裂けて筋肉や血管があらわになっている。ダラダラと流れ出た血が
血の池を作っている。利き手で突き飛ばすんじゃなかった。
(だがいい。これで一人無力化だ)
「ジ・エラー。〝蹴る〟という機能を消した」
「成程、そういう能力か」
彼はもう一度足を振り上げ、俺の眼前まで振り下ろすが、見えない壁に阻まれるように
足を止めた。
「さて、お二人さん、ついでに明さん。」
「はい?」
「車に乗るときはシートベルトをしっかりしろよ」
「「「!!」」」
ガム製レースカーは、彼らの足元だけガムに戻り、足を飲み込んだ。
「なっ‼」
「足まで捥がないといけないか」
「成神君!どういうつもりですか!!」
「さぁ~、どういうつもりだろうね。つかやったの俺じゃないよ。俺は操れないからな」
茫然自失といったような虚ろな目をした天音を指した。
ジ・エラー。思考能力を消した。
「五十嵐天音。俺と脱出したのち、この車を横転させろ」
~フィリップSide~
「ふんふんふん♪」
「何か楽しそうだな。あまり浮かれるなよ。ゲーム中だ」
後ろにいる相棒が楽しそうに鼻歌を歌っている。
「これが浮かれずにはいられるかっての。大当たりの万馬券が手元にあるんだからな」
「なっ、貴様、まさか俺の預金から‥‥‥」
「お前の預金はもうすっからかんだったからな、渋々自分のから出したよ。
いやー、やっぱ他人の金でするのとじゃあ、運気ってのが違うのかな」
「貴様、散々俺から金を引っ張ってきただろう。というか盗んで来ただろう」
「ん?そうだったか?」
「ここから叩き落すぞ。」
「あーあー、ありましたねそんなことー(棒)。でも済んだことじゃない。許して?」
「ああ許してやるとも。主のもとに貴様を永遠に罪から解放してやろう」
「おお!まじで!」
「ああマジだ。大マジだ。ただし」
俺は、その後ろで相棒が大事そうに抱えている万馬券を指さす。
「それを渡せばな」
「‥‥‥は?」
「いままで貴様は俺から何百万と盗ってきたんだぞ?それを万馬券一枚で許す俺の何と慈悲深い事か」
「は?」
「イエス・キリスト並みの慈悲深さだぞ」
「お前は何を言っているんだ?」
「英語だ。ほら早く、寄越せ」
「イヤだ。ってかお前英語かよ。翻訳機つけてるからずっとロシア語で話してるかと思った」
「イヤだとは何だイヤだとは。寄越せ。ロシア語も話せなくはないがな」
「ふーん…‥‥分かったよ。ホラ。今まで悪かったな」
最初からそうしていればよいのだ。マモンから、約90ドルと同価値の紙切れを頂く。
たったこれだけで許すとは、やはり俺は慈悲深い。自分でいうのもなんだがな。
そのせいで困っていることもあるのだが‥‥‥ん?
「これは‥‥‥貴様がスッたハズレ馬券ではないかあああああ!」
「あ、気付いた?」
「気づかんとでも思っていたのか!このクソマヌケが!!」
「私の上で暴れんじゃねえ!」
おっと、そうだ。ここでバランスを崩したが最期、地面とディープキスして赤いヴァージンロードを敷くことになる。こいつをシメるのは後だな。
「お、あのトンネルが見えてきたってことは第二ステージじゃね」
「話をそらすな。万馬券を寄越せ」
「い~や~だ~!!」