十六話 天ノ川・明の思惑
天音side
風が、頬の横を通り過ぎる。こんな体験ができたことは、ここに来たことの数少ない利点だ。
もう少しアクセル(?)を踏み込んだら、もっと気持ちのいい風が浴びれるだろうか。
「あれ、そっちブレーキじゃね」
「嘘っ!?」
その車は勢いよく止まってしまった。反動で私はハンドルにディープキスする羽目になり、
成神はシートベルトをしていなかった様で、体中を前の座席に叩きつけられたようだ。
「きゃっ!?」 「うげ!」
しかし、明さんだけはシートベルトをしていたため、どこ吹く風と涼しい顔。
「ねぇ、思ったんだけど、明さんってさ」
「はい?」
「あの人たちと面識あるような話し方だったけど。何で?」
「・・・・・」
明さんは、今まで優しく微笑んでいた目を、ほんの少し見開いた。
「何でだと思います?」
「分からないから聞いてんでしょ。」
彼女が口を開こうとした…‥
「!?」
身体が宙に浮いた。
ジャックSide
「ありゃりゃ。こりゃまた手酷くやられたね。手抜くからだよ」
「…‥」
頭は半分消し飛び、腸は体内から飛び出している。〝彼女〟の能力が無ければ
確実に絶命していたことは明白だ。
「やっぱ曲者だよね。髪ぼさぼさの子。まさかいきなり殺しに来るなんて」
「それもそうだが‥‥」
これほどの怪我をしているにも関わらず、全く顔色をかえず立ち上がる。
この人ホントに人なんだろうか。
「あの子は、恐らく戦闘能力は低い部類だ。あの中ではだが。勝てないと分かれば
すぐに戦意を喪失するだろう。それよりも、あのイケメンだ」
「‥‥‥あぁ。彼がどうしたの?」
「俺が敵意を見せた瞬間、容赦なく攻撃してきた。」
「?当然じゃない?」
「まぁ、生と死を綱渡りするような状況なら、相手を殺してもいいと吹っ切れるかもしれないが…
そう簡単に捨てきれるもんじゃない。それなのに間髪入れず砲弾をぶち込まれた。
恐らく、意識して行動したんじゃないと思う」
(意外とみてるなぁ。この人)
「ま、そんなことはどうでもいいか‥‥殺してしまえば」
清道side
「おっと」
すかさず、天音をの足を掴み、車の窓際を掴む。
「ぐえ!」
そのとたん、天音は宙に浮くのをやめ、後部席に叩きつけられた。
だが、その替わりという様に、アイツらが飛んできた。
頭が半分消し飛び、腸がはみ出しているのに平気な顔をしている。
そしてもう一人。オレンジ色の髪の少年。
(あいつ人じゃないだろ!)
「おい、早く車出せ!」
「う、うん」
そうして、運転席に戻ろうとする。
「ったく。この車はガムで造られてんだから、こいつはお前のさじ一つで動かせるだろ」
「ああ、そっか」
そして、この車は急発進した。約時速80キロ。
「きゃっ!?」 「うげ!」
俺たち二人は揃って頭をぶつけた。
天ノ川Side
辺りはすぐに闇に飲まれた。それはそうだろう。トンネルに入ったのだから。
入った直後はまだ明るいが、すぐに真闇となる。
ここで彼らと戦闘をおっぱじめるのはハッキリ言って得策ではない。
だが、まぁ、最悪私が死ななければそれでいい。
(ホントは彼は私の手で決着を着けたかったんですがねぇ)
程なくして、彼らは追いついてきた。
(ある程度は抵抗しますがね)
「殺人未遂罪」
鎌を顕現させ、シートベルトを切り裂いた。