第十三話 形勢逆転
ベルフェゴールSide
数十秒、少女は電話をブツッと切った。
「終わったか?」
まぁ、終わらなければ切らないだろうが。
「うぅ…‥」
その時、千切れた右腕に雫が落ちた。
―――沁みてクソ痛い。
「うわあああああああああああああん!!まだ死にだぐないよぉ、、、
助けでお姉ぢゃああああああ!!」
「痛たた、痛だだだ!」
追い打ちとばかりに傷口に噛みつかれた。その隙をつき、彼女は逃げ出した。
「ギャッ!こんのクソアマァ!!」
「〝ね〟が一個抜けてるわよ、傷つきたがりさん!!」
手に隠し持っていたのか、三個の丸いピンクの小さなボール(恐らくガム)を投げた。
それは、手を離れた瞬間、弾丸のような速度で、空中を飛ぶ。
――――ガムの速度まで思いのままか。まんま、フィリップのオマージュだな。
そのガムを躱すのは、さほど難しい事ではなかった。身体を少しひねればいい。
彼女の首が、手に引き寄せられる。
―――俺の能力ってば便利。戦闘向けじゃないがね。
「がッ!」
「形勢逆転。とでも思ったか?片腕でもあれば、お前を窒息死させるぐらいのことは出来る」
―――そんな力のいることはやりたくないがな。そもそも、本当は敵対だってしたくな…‥
「・・・・・俺、あんたに何かしましたかね」
鮮血が宙を舞い、左手がボトリと落ちる。
――――覚悟してない時の腕切りはお断りしたいがな。
「明さーん」
「形勢逆転ですわね。ウフフ」
フィリップSide
「動け!動け!動け!」
押しても引いても、叩いてもうんともすんとも言わない。
まるで隣にいる穀潰しで金にしか興味のないこの女のようだ。
「おい、俺の事なんか言わなかったか?」
「耳までおかしくなったようだな、貴様」
「何だと!」
コレは普通にしていれば、可愛いのだろうがな。いかんせん普通のことをしない。
美しい金髪とくりっとした可愛げのある目は、男勝りな性格のおかげでつぶれてしまっている。
一人称は俺、趣味は他人の金でギャンブル。絶対に自分の金を出さない守銭奴。
「強欲。貴様、何かしただろ」
「何もしてねぇっての!!」
マモンSide
フィリップが一所懸命に車を動かそうとしているが、全く動く気配が無い。
まるで、気が乗らないフィリップを何とか説得しているディザエルさんの様。
(立場が逆転したな。バーカ、バーカ)
「…‥」
(あ、なんか聞こえたぞ。穀潰しとか守銭奴とか聞こえた)
「おい、俺の事なんか言わなかったか?」
「耳までおかしくなったようだな、貴様」
「何だと!」
相変わらず失礼な奴。普通にしてりゃあ、もてるだろうになぁ。
白衣と保護色になる白い肌。黑に染めてはいるが、髪も真っ白。目はコンタクトしてるらしい。
三人称は貴様、趣味は人体解剖、絶対に人に敬語を使わない偉そうな奴。
(そういや、身体の色で苦労したって言ってたが、何でだろ)
「マモン。貴様、何かしただろ」
「何もしてねぇっての!!」
「仕方ない。代わりを買うか」
「勝手にしてろ」
フィリップSide
預金残高…‥0
「おいマモン…‥貴様、俺の金幾らギャンブルにつぎ込んだ」
「ざっと、200万かな」
「ふざけるな貴様ァ!!もう貴様には一切俺の金を使わせん!」
まるで反省の色なし。帰ったらバラバラに引き裂いてやる。
なら、俺の能力で造るしかない‥‥‥か。確か予備があったはず‥‥
「あ」
「?」
(しまった!戦闘用しか持ってきてなかった!)
「おいマモン」
「何?」
「貴様の血を寄越せ」
「誰がやるか!」
だろうな。元より、車を造るのに、人ひとり分じゃ少し足りない。
さゆりSide
「オラァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
ガン!!
という音を立てて、車のバンパーが凹んだ。
「ちょっ!叩き過ぎでござるよ、さゆり氏」
「ちくしょー!動け!」
尚も叩くと、白い煙が出てきた。
フィリップSide
何だろう、あそこのバカからうちのバカと同じ匂いがする。
(最近の女性は皆男勝りなのか?)
「よし、アイツらから献血してもらおうか」