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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第六陣 全テノ決着ヲ
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第八十八話 その終わりは、



シン…と静まり返ったその空間。それでも一本の緊張の糸が張り巡らされていた。その空間の糸が切れたのは、一瞬の事だった。あの大怪我では大量出血で間に合わない。怪我を見て、そう確信したのは薙だった。だが、まだ警戒を解いてはいなかった。しかし、双璧が膝を着いたと云うことはこちらが勝ったと云うことに代わりはなかった。


「……はぁああ」

「!紅葉!」


命を狙われる事がなくなったと云う安心感か、それとも双璧を倒したと云う達成感か。どちらかもしれないし、どちらでもないかもしれない。一瞬で脳が覚めた途端、紅葉の体から力が抜けた。崩れ落ちるのを白桜が間一髪で捕まえると両者の傷に響かないように紅葉を支えた。紅葉と白桜の動きに雛丸はギュッと両手を握り締め、興奮したように叫んだ。


「勝った、勝った!『隻眼の双璧』に勝ったよ!」

「うっ!?雛様、落ち着いてください!」


やった!と雛丸が白桜に抱きつくと紅葉を支えていた彼が彼女を落ち着かせるように云う。薙が近寄り、白桜から紅葉を受け取る。心配そうな表情をする彼からそれくらい大丈夫だと笑い、紅葉を受け取る。自身の首に紅葉の腕を巻き付ける。


「薙ちゃん、大丈夫…」

「大丈夫なわけあるか。みんな満身創痍なんだ、無理はするな」


そう優しく声をかければ、紅葉は照れ臭そうに小さく笑った。そして、軽く立ち上がり、心配そうな彼女に大丈夫と首を傾げてみせる。白桜に抱きついた雛丸は今も嬉しそうに彼に抱きついていた。彼はそんな彼女を優しく、誉めるように頭を撫でた。二人の和む光景を横目で見て、紅葉は倒れている『隻眼の双璧』を見た。倒れているその姿からは、先程の恐怖など微塵も感じさせず、代わりに最強と云う威厳を倒れていながらも感じ取れた。


「二人は、誰に言われたのかな?『勇使』が、生き返るなんていう」

「さあ。群青のいうような悪魔の囁きをした人物が犯人だろうな。それに…」


言葉を詰まらせた薙のその後を紅葉は知っている。そのため、顔を歪ませた。『隻眼の双璧』が「生き返らせる」と言われ従っていたのだとしたら、音信不通の『勇使』の相方も二人のようになっている可能性が高い。そしてそれが異変と関係しているということも。もしかすると二人はその事実を知っていながら、愛しい主を取り戻したいがために目を逸らしていたのかもしれない。まぁ、もうそれは分からないのだが。


「神子さんの伝えたい事を聞けば、何か分かるかな?」

「嗚呼。そうかもしれないな」


「帝に伝えて欲しい」と言った神子。異変の原因を知る彼がもう少しで埋まりそうな残りのピースを持っている。そんな気がしてならない。紅葉は傷だらけの薙や雛丸、白桜、そして二人を見て固有能力を発動させた。傷が治って行くむず痒い感覚が広がる。それを見ていた雛丸が紅葉の顔を覗き込みながら言った。


「『隻眼の双璧(二人)』も治したの?」

「うん……なんでだろ、わかんないけど」


少し寂しそうな、それでいて悲しそうな表情で紅葉が言った。白桜も紅葉と同じ表情をしていた。愛しい人物がいなくなる絶望は、兄弟もよく知っていた。何度生き返ってくれと願い、泣き叫んだ事か。それでも、自分達は諦めなかった。希望を見出だしていた。それはきっとリンとミオも同じだっただろう。けれど、兄弟と双璧の違いは絶望に身を委ねたか否やだった。双璧は悪魔と云う絶望に目を逸らし、兄弟は絶望を捨て希望を手に入れた。誰にでもあり得る出来事、いつでも起こりうる出来事。それはもう一度、彼らに降り注ぐかもしれないのだ。

雛丸は紅葉の答えにニッコリと笑うと傍らにいる白桜の腕に両腕を絡めた。まるで両親に甘えるように。そんな彼女を白桜は愛おしいそうに見つめ、頭をもう一度撫でた。薙は複雑な表情を浮かべる紅葉の手を雛丸の真似事で握った。驚いたように彼女を振り返る紅葉に薙はいたずらが成功した子供のように笑った。それに紅葉は少しホッとしたような笑みを浮かべた。

その時だった。逃がした神子達の後を追おうと誰かが言おうとした時。ブォン!と云う濁った音がした。その音と共に突然、紅葉達の足元がなくなった。いや、なくなったと云うよりは大きな穴が空き、宙に浮いていると云った方が正しかった。


「な、なに!?なんなの!?」

「落ち着け!」

「双璧…ではありません!」

「え?じゃあ、だr」


驚愕し、困惑する彼ら。まさか双璧が目を覚ました?生きていた?あの出血量では到底助からないのは目に見えていた。紅葉の固有能力は傷を治したが彼らを生き返らせはしていない。白桜が勢いよくそちらを振り返るとそこには地面に仲良く寄り添うように倒れたままの状態の二人がいた。それを紅葉も薙も雛丸も確認し、呆けた声をあげた。が、声が聞こえた。そんな気がして紅葉はハッと振り返るとそこにいたのは、地面に両膝をつき、両手を地面に押し付けるようにした神子だった。逃げたはずなのに、どうして!?そう紅葉が叫ぼうとしたのも束の間。不思議な力で宙に浮いていた紅葉達はその力の加護を失い、一気に穴の中へと急降下していった。


「きゃああああ」

「う、うそだろおおおお」

「ちょっとぉおおおお」

「うわああああ」


続け様の突然の出来事に紅葉達はついていけず、悲鳴をあげた。このまま奈落の底にでも落ちていくのではないか。そう思ってもしかたがなかった。けれど、紅葉達は知っていた。恐らく、この穴は…

四人が落下してしまう直前、神子は呟くように云った。伝えたかったその事実を、真実を。


「********」


…*…


「あとは…頼んだ…」


ブォン、と電源が切れたような濁った音を立てながら穴が閉じ、元の地面に戻った。神子はホッと一息つくようにそこへ座り込んだ。自分がいる場所は『隻眼の双璧』と戦った爪痕が多く残っていた。地面に刻まれた五芒星の中心に倒れた双璧。二人を荒い息を整えながら眺めていると肩を叩かれた。驚いて振り返るとそこにいたのは逃げたはずの花白だった。


「花白、どうして!?」

「………………群青、が、望ん…だ」

「…え?」


花白の言葉に神子は怪訝そうに首を傾げた。花白はその意味を示すようにある方向を指差した。その方向へ訝しげな表情で振り返る。と、そこにいた人物に目を見開いた。大怪我を負っていたはずの群青が痛みをもろともせずに、いや、怪我なんてしていないと言われれば信じてしまいそうなほどにしっかりとした足取りで双璧に向かって歩いていた。その右手首にはブレスレットが輝いていた。驚愕する神子が声を上げかけ、やめた。そうだ、貴方は。何かに納得したかのように、神子はうん、と頷いた。


群青は、今にも動き出しそうなほどに綺麗な双璧に近づき、ゆっくりと見下ろす。固く繋がれた二人の手に気付き、その傍らに片膝を着いた。固く閉じられた瞳。求めた先は、()()だった。だから、怒りと同じくらい悲しかった。固く繋がれた手に自分の真っ白な手を重ねる。温もりは。ブレスレットが降りて来てカツン、と繋がれた手に当たった。


「……………嘘つき」


ポツリと群青が呟いた。

その手に残ったものは、


遅くなりました!

てかいつの間にか九十過ぎてるしぃ…

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