第七十八話 作戦成功の仕事
神子提案の作戦は、どちらかと云えば大成功を納めた。革命軍の勝利だった。本部へ乗り込んだ神子と花白を含めた数人は組織の幹部数名を捕縛し、最高幹部と思われる人物をなんとか捕まえる事に成功した。したっぱの幹部数名を逃がしてしまったが追跡部隊をすぐさま編成し、逃亡者を捕獲するために行動している。他の人質も救出され、『ナッシング』は全て討伐された。戦意喪失した男達ー中には女もいたーは隠し通路などがないかどうかを念入りに確認後、牢屋に全員ぶちこまれた。逃げ出さぬようにこちら側の『ナッシング』と数人の見張り付きである。人質達は無事に家族の元に帰って行った。中には罪悪感から組織に加担してしまった者もいたらしく、見張りの革命軍を仲介者として、鉄格子越しの再会となってしまった。組織をほぼ壊滅に至らしめたが革命軍での損害も大きかった。『ナッシング』が化け物同士で相討ち、討伐され大半が消滅。負傷者数十人。そのうち重傷は七割。死者が出なかっただけマシであった。
紅葉達は神子が「話がある」と云うことで拠点の村の、紅葉と白桜が治療で使わせてもらったテントに移動した。紅葉の固有能力で薙と雛丸の怪我を治療した。革命軍の怪我人も固有能力で紅葉は治療したいと申し出たが、それを神子は断った。「これはこちらの事情。巻き込んでしまった貴方たちの手を煩わせるわけにはいかない」と。「それにこれは平和への勲章だから」と。紅葉の行為に怪我人は「その気持ちだけで十分。ありがとう」と笑って言っていた。それに紅葉が泣きそうになったのは内緒である。せめてもの好意で早く治るよう祈っておいた。紅葉の祈祷は良く効く。そんなこんな、テントで神子を待っている彼ら。待っている間、紅葉と白桜は神子から聞いたこの国の現状を伝え、薙と雛丸は捕まっている最中に聞いた『隻眼の双璧』の名前と可能性について伝えた。その両者の事実に驚きを隠せなかった。
「此処の担当ねぇ…可能性はあるよね。名前が広まってたって事は」
紅葉が二人の話を聞いてうーんと唸った。紅葉は敷物が敷かれた地面に、薙はその隣に座っている。簡易ベッドの方には白桜が座り、雛丸がその膝の上にちょこんと可愛らしく座っている。あの出来事があったためか、彼らの絆はさらに強まった。
付けたしだが、薙と雛丸の武器も戻って来ている。
「嗚呼、『勇使』の名前がでなかったから微妙なところだが。それはそれで神子っていう彼に聞くとしよう」
「ていうか、異変知ってるってどういうこと!?」
雛丸が疑問そうにそう叫べば、紅葉が首を傾げた。
「予知ができるそうですから、それで知ったとかでは?」
「それか、『隻眼の双璧』に気づいたか」
白桜の言葉を受け継ぎ、薙が云う。可能性は増えるばかりで真実が見つけ出せない。というか逆に遠ざかっているようにも思えてならない。神子の全員が集まったら言うと云うその「異変の原因」は彼が来るまで後回しということになった。それは必然的に『隻眼の双璧』についても同様だった。嘘の情報を流し、薙と雛丸を拷問させようとした疑いからどうにかこうにか移動してきた可能性はあるが実際に確認したわけではない。それに『隻眼の双璧』が『勇使』ではなく、紅葉達を狙っていることも確定した。まぁ、物証のみなので本当に狙っているかどうかは不明だが。だがしかし、だとすると候補となった大和を襲わなかった理由が見当たらないのでやはり。
話題を変えるように雛丸が白桜を見上げて言った。
「ねぇ白桜、あの時の龍とかって共通能力なの?」
「紅葉も大量に式神召喚してたよな。血筋とかか?」
雛丸の質問に薙も気になっていたらしく 、問う。紅葉は事実を知っているが白桜が言いたいだろうと思い、黙っておいた。
「共通能力ではありません。ん~なんと申しましょうか…感情が昂った時に名前を表す加護を召喚するそうで。それは紅葉も一緒です」
「うえぇ僕にまで来たし!?」
こっちに来るとは思ってもみなかった紅葉がオーバーリアクションを取ると雛丸が続きが気になるらしく、続けてくれと促す。
「二人共って事は、お父さん?」
「うん!加護の召喚自体は父さんの血だって母さん言ってたよ。感情が昂って、ってやつも父さん」
「紅葉は式神召喚と能力付与ですが、私は加護と共にお母様の血筋に伝わる桜龍を召喚できまして」
「へぇ…すごい隠し球を持ってたんだな紅葉も白桜も」
兄弟の説明に薙が感心したように云えば、二人は顔を見合わせて照れたようにはにかんだ。雛丸がニヤァと悪戯っ子のように笑いながら云う。
「感情が昂った時って紅葉いっつもじゃん?」
「違うもん!僕達は怒った時ってことぉー!」
「怒ったー!」
「だからぁー!」
楽しそうに笑う雛丸に抗議するように紅葉が頬を膨らませる。それに薙と白桜が楽しそうに笑うので紅葉も笑った。やっと、いつもの日常が戻ってきた。それがなによりも嬉しかった。と、その時、テントの入り口の布が開き、神子が入って来た。布を押し上げているのは群青のようで良かったなと紅葉に笑いかけていた。神子は簡易ベッドから少し距離が離れたほぼ真っ正面に正座し、彼らに頭を下げた。
「まず初めに。作戦成功のために協力してくれてありがとう。代表して感謝を」
「帝に伝えて欲しい事を聞く前に一ついいか?」
早く本題に入りたいらしい薙が言うと彼はもちろん、と頷いた。
「どうやって帝も妾達も分からなかった原因に気づいた?『隻眼の双璧』が絡んでいるのか?」
「そうとも言えるしそうとも言えない。僕は予知ができる。けれど、その予知である未来を変えるのは僕たちだ。原因は、見たからだよ。そして、知ってしまったから。だから、『勇使』を待っていた」
真剣な、低い声で言う神子。その瞳は軽く伏せられているため、サークレットのビーズが緊迫したこの空間を、空気を示すかのように揺れ動く。紅葉達は混乱していた。見たとは?知ってしまったとは?頭が混乱に陥る中、これだけははっきり言えた。真実が目の前にある、と。唾を飲み込み、雛丸が問う。
「それって…」
神子が深呼吸をし、顔を上げる。この事実をどうか帝に。神子が口を開こうとしたその時、彼の言葉を遮るように聞こえて来たのは大切な幼馴染の絶望の声だった。




