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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第六陣 全テノ決着ヲ
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第七十七話 二色のかたち


突然、足元が軽く揺れた。地震ではない、なにかが壊れた音だった。リーダーらしき男が冷静に騒ぎ出す男達を静める。その間、薙と雛丸は無意識に顔を合わせていた。もしかして…?続いて大きな足元と此処に来るまでにいるであろう敵を倒す音が響き渡った。倒された敵は戦意喪失させられているのか、軽く呻き声もする。男が大きく腕を振り、唯一の入り口を防げと命じる。此処には人質が捕らえられている。抵抗させないように人質をさらったのに、解放されてしまっては組織に仇なす革命軍を増やしかねない。だが、扉を杭で固定するよりも早く、扉に近づいた敵達が吹っ飛び、壁に激突して気絶した。扉が勢い良く開け放たれたのだ。そして、望んでいた彼らが二人を見つけた。


「薙ちゃん!」

「雛様!」


紅葉と白桜が片方の扉に手を掛け、同時に押した事で開かれたようだった。息が荒く、肩を上下に動かしているのは急いで来たからだ。壁を使ったのだから当たり前なのだが。二人のあとから群青も入ろうとするが部屋の前で立ち尽くしている二人のせいで中に入れない。群青がー薙と雛丸はもちろん知らないが、組織()は知っているー二人の肩越しに中を覗き込んだ。そして、危険を察知し、後方へ跳躍した。彼を覆い尽くしたのは、紛れもない恐怖だった。目の前に突然現れた革命軍に敵は目を丸くしていた。誰かが来たのは分かっていたが突然で驚愕していたのだ。それは紅葉と白桜も同じだった。茫然とした脳内に酸素が回り、起動を始める。兄弟二人の無事に安心したように微笑む薙と雛丸の様子。羽交い締めにされ、行動を制限されている足枷。武器も手元にない。此処までは理解できる。だって人質として捕まっているのだから。だが、何故、薙はアザだらけなのだ?何故、雛丸の服は破けているのだ?拷問でもされそうだったのか?

自分達の心に渦巻くこの感情。嗚呼、これを自分達は知っている。これは。

二人から陽炎のように怒りのオーラが漂い始める。そのオーラに我に返った敵達の大半は恐怖で後退りした。


「薙ちゃんに、なにしようとしてた?」

「雛様になにをなさったのです?」


低い低い、兄弟の声が響く。紅葉の持つ大鎌に紅い葉が軽く纏い、無数の白い紙に変化する。それは紅葉が使う式神の形だった。白桜の持つ二扇に桜の花弁が舞う。それは共通能力を使用する際、たまに出現するものだった。薙も雛丸も群青も敵も誰もが分かった。嗚呼、怒っている。


「今すぐ、薙ちゃん()を離せっ!」

雛様(主人)からその手を退けなさい!」


ブワッ!と音がした方が早かったか、怒声に近い雄叫びが響いたのが早かったか。紅葉の周りに数枚の式神が浮かび、その姿を一斉に現した。ひとつはあの凛々しい鷲。ひとつは銃剣を手にした人型で顔を仮面で隠している。ひとつは雄々しくも美しい角を持った鹿。ひとつは仲良く手を繋ぎ、もう片方の手に刃物を持った人型で、顔を大きな布で覆っている。ひとつは九の尾を持つ美しき妖艶な狐。そして、紅葉の大鎌には小さな紅い葉が彼の感情を表すかのように舞っていた。白桜の背後に二扇から放たれた花弁があるものを形作る。それは黒い鱗に桜が描かれた龍と同じく桜が描かれた布を頭から被った人型だった。人型は女性なのか空中に浮かび、その両腕に羽衣を巻き付けている。そして、白桜の感情を表すかのように桜の花弁が舞っていた。そこにあるのは、何か。わかる者は限られていた。


紅葉と白桜がバッと腕を振れば、彼らの背後にいた式神達と桜龍おうりゅうと天女(恐らく)が動き出した敵に向かって攻撃を開始する。その動きはまるで兄弟二人のようで、確実に戦意を喪失させ、『ナッシング(化け物)』を抹消する。リーダーらしき男が素早く指示を飛ばすがそれすらも遅い。紅葉と白桜がほぼ同時に跳躍する。と紅葉が薙を捕らえている一人の男の目の前に一気に迫り、片足を首へ振り回した。男が横へすっ飛んで行く。もう片割れが驚いた様子だったが刃物片手に紅葉へ薙を横へ飛ばして迫る。ギロリと鋭い視線が男を襲った。それを感じつつも刃物を振った時には紅葉の大鎌が男の刃物を弾き、その腹を蹴って飛ばしていた。目にも止まらぬ速さだった。そして近づいてきた『ナッシング』を一刀両断し、戦力を削って行く。

一方、白桜も雛丸を捕らえている男達に迫ると何かを取り出す前に舞うように扇を手首に切りつけた。途端、雛丸を離した彼らのうち一人の顔を鷲掴みにすると床に叩きつけた。途端に気絶してしまった敵から目を離し、背後から襲いかかって来た男に後ろ向きのまま回し蹴りを放ち、怯んだ隙に戦力を削る。そして、リーダーらしき男に視線がいった。ユラリと、炎をたたえた瞳が男を捉える。男は果敢にも白桜に挑むが、その動きは隙だらけだった。武器のように振り回していたペンチを扇で弾き飛ばし、腹を殴って前のめりにさせると無防備な背中にもう一発お見舞いし、喪失させた。


それはものの数分で片付いた。それほどまでに二人の感情が大きかったことを表していた。群青がひょっこりと扉から顔だけを出して中の様子を窺う。中は嵐が過ぎ去った後のようだった。


「(………怒らせないでおこ)」


とりあえず、群青はそう誓った。敵は戦意喪失、化け物は抹殺、明らかに全滅となった空間で怒りから解放された兄弟二人がゆっくりと薙と雛丸を振り返った。その瞳には安堵が宿っていた。式神や龍は兄弟の指示があるまで動く気はないようで気絶した敵を見張っていた。武器を仕舞い、二人が彼女達に寄って行く。


「薙ちゃん!」

「雛様」


紅葉が薙に、雛丸が白桜に抱きついた。傷に響かぬよう優しくである。嗚呼、此処にいる。それが実感できた。


「薙ちゃん大丈夫?今、固有能力かけるから…ごめんね、遅くなっちゃって」

「大丈夫だよ紅葉。妾こそごめんな。心配させてごめんな。でも、迎えに来てくれてありがと」

「……薙ちゃん、無事で良かった…!」

「嗚呼、信じてた」


ポロポロと薙の肩で安堵の涙を流す紅葉。そんな彼の頭を軽く掴んで自分の肩に埋めさせる。自分だって、不安だった。何も出来ない、無力さを味わった。でも、お主がいるから強くなれた。だから、妾は。

心配だった、不安だった。もう失いたくはないから、大切な人を。だから、無事で良かった。


「雛様、遅れてしまい申し訳ありません。でも……ご無事で何より…」

「白桜、白桜、遅れてなんかないよ。ちゃんと来てくれたじゃん。ありがと白桜」

「……ありがとうございます。安心、しました、っ」

「うん、大丈夫」


抱きついて来た雛丸の存在を確かめるように抱きしめる白桜。彼の胸元にギュッと顔を埋めながら雛丸は白桜の小さな嗚咽を聞いた。証を奪われそうになった時は正直、死んでしまうと思った。けれど、白桜が意志を貫くのを思い、意志を貫いた。だから、ボクは。

怖かった。壊れてしまうかと思った。大切な人をまた失いたくはなかった。だから、無事で何よりとしか…

再会を喜び合い安堵に包まれる彼らを見て、群青は強い絆を感じた。互いに信頼し合っている。そして、互いを思いあっていて、支え合っている。だからこそ必死になれた。だからこそ背中を預けられた。嗚呼、彼らには自分達にはないものが滲むように表れている。そこには二色の光があった。群青は死屍累々の部屋の中に入ろうとした。すると背後からこの建物の本部を占拠した仲間の一人がやってきた。そしてこの状況を目の当たりにして群青を振り返った。


「これは…」

「お怒りの鉄槌が下ったんだ。組織アイツらも、なにやったんだが」


同情するように群青が云えば、仲間は困惑した表情をした。群青は無意識に右手首のブレスレットに触れていた。


兄弟を怒らせると怖い。ウチが書くキャラって必ずと言っても良いほどに怒らせると怖い子がいる。

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