第七十二話 作戦会議
何処かの頂上付近。ネオンがピカピカと点滅し、目がチカチカとする。そんな事、本当はどうでも良いのだがそちらを向くと絶対とでも云うように入って来るので必然的に見てしまう。もう見たくない、と云うように両手を両目に当て、目隠しをする。そこまでして、片目だけで良い事に気付き、片手を外した。よし、コレで良い。チカチカがなんにも見えなくなり、自分に被害がない。
「わかれたのか」
落胆したと云うか、よく分からない気持ちと少しめんどくさいと云う気持ちが複雑に絡み合った低い声が隣で響く。誰がいるのかは分かっているので手は外さないでおく。
「早く殺したいのにネ~ホント、邪魔な、奴ら…」
真っ黒な視界の中、そう呟く。予想以上に自分の声が低く響き、慌てて手を離す。その予想以上に低く響いた時の調子こそいつもの事だったはずなのに。大きくその形を変え、狂ってしまった。嗚呼、それでも、それでも。
「……殺せば」
「また…」
光さえ写らなくなったその瞳に写るのは朧気な生気だけで。きっと何も見ていない。見ているのはきっと、
「********」
…*…
「い、たい痛い!!」
「我慢しろよ。男だろ」
「それと痛みって関係あるのねぇ!?」
痛い痛いと喚きながら紅葉は群青に手伝ってもらいながら、上着を着ようとしていた。白桜も花白に手伝ってもらっているがこちらも痛いらしく、顔を歪めている。そんな彼らの前には正座した神子と云う青年がニコニコと笑いながら見ている。青年は群青や花白が自身の名前を名乗ったのに対し、神子と云う名前を強調していたので諸事情により本名は明かせないと云うことだろうと兄弟二人は読み取った。ちなみに助けてくれた、そして手当てしてくれた彼らには既にお礼を述べている。そして、上着を着る手伝いを頼んでいるのだ。紅葉の固有能力で治療できることを神子にだけ打ち明けると彼は「作戦実行前に完全復活で♪」と笑っていた。作戦からも思ったが容赦ない。それを二人に紅葉が告げ口のように云うと群青は「色々作りが異なってんだよ」と苦笑していた。
「ありがとうございます、花白様」
「…いい、え」
痛がる紅葉と群青チームよりも先に白桜が服を着終わった。帯を締め、その間に武器である扇二つを差し込む。扇はあっという間に見えなくなってしまった。
「……似て、る…名前…」
「ふふ、そうですね。親近感を感じます」
「そう、だ…ね。で…も、白桜……お花…」
「御花…嗚呼、桜の事ですね。こちらではあまり見ないのですか?」
「前……あった…季節、的…に、先……だから……先、取り」
「それはそれは。髪飾りの桜で喜んでもらえたようで私も嬉しい限りです」
簡易ベッドに座った白桜と花白がそう会話し、ほんわかと笑う。群青と神子には周りに花が舞っている幻もセットで見えている。だが花白に至っては表情筋が仕事をしていないので、頑張って着ようとしている紅葉はちんぷんかんぷんである。そして、ようやっと着終わった紅葉が胸元を庇いながら背伸びをし、調子が悪くないか確認する。
「大丈夫そうか?」
「うーん、まぁね!実際に振り回してみないと不安だけど」
「大丈夫だろ。実力見たことないけど紅葉なら」
「あ、群青デレた?」
「ちっがう!」
神子がそう正座のまま、からかうように言えば、群青はそう叫んだ。
神子は黄土色のショートで瞳は緑色。枝のように左右へ伸び、そこから色とりどりのビーズが下がった金色のサークレットをしている。少し豪華な気もするが髪で所々見えないようになっていて控えめになっている。服は薄いオレンジと茶色を組み合わせた狩衣で裸足。両足首には青と白を基調としたアンクレットをしている。
紅葉も群青のその慌てようにケラケラと笑った。群青が軽く睨んでくるか怖くない。それがまるで遊んでいる時の雛丸に見え、紅葉は思わず兄を振り返った。白桜は紅葉の視線に気付き、大丈夫だと軽く笑った。嗚呼、強いなぁ。そう思った。薙も雛丸も大丈夫。彼らの会話に区切りがついたのを見計らって紅葉がそういえばと問う。
「作戦は聞いたけどさ、実行はいつ?僕達はすぐにでも行きたいんd「明日の日没」明日ぁ!?」
まさかの作戦を聞いてすぐさま決行とは思わず、紅葉がすっとんきょうな声をあげた。それは白桜もらしく、驚いたように口元を袖口で隠し、花白に再確認している。花白も群青も苦笑で返答し、即答した神子様に至っては満面の笑みである。いや、すぐに行けるのは嬉しいし、ありがたいがあの作戦を聞いた後だとそんなすぐに準備ができているのかと不安になってしまう。紅葉と白桜の疑問に気づいたのか群青が付け足す。
「一応、アンタらが予知通りやって来ても大丈夫なように念入りに準備はしてある。てか、それも視野に入れてるぞ神子様」
「……そ、ろ、そろ…怖く、な、て……くる」
「いやー」
「誉めてねぇ」
ふへ?と云う間抜けな神子の声が響き、一瞬にして空間は笑いに包まれたが暫くすると全員が真剣な表情になっていた。緊迫した雰囲気に神子はクスリと笑った。その笑みは妖艶であり、自信が詰まっていた。いや、自信しかない。
「決行は明日。明日全てに決着を着ける。その後に、全員が集まった時に、全てを話そう」
低い声で言い放った全員が誰を指すのか、分からない者は此処にはいないだろう。群青と花白が静かに頷いた。その隣で兄弟二人も視線を合わせて力強く頷き合う。その時、紅葉はあの気配を再び感じた。だが、此処には彼らしかいないし、その誰かから漏れた気配だと思い、心の内にし舞い込んだ。そして、気を引き締めた。




