第七十一話 神子の守り人
紅葉と白桜が休んでいるテントの外に少年は立っていた。腰元にぶら下げた武器を何気なく取ると鞘から抜き放ち、その切っ先を指先で確かめた。先程、紅葉と白桜を救出する際、明らかに組織側の敵を容赦なく切り刻んだので少しだけ血が付着していた。全て払ったと思っていた少年はブンッと武器を振り、残っていた血を払う。救出の際、敵は倒せるだけ倒したがあれで全部ではないことを少年は理解していた。人質を盾にされ、身動きが取れず、革命軍に全てを託したりする者もいるが、中には組織に従うしかなく狩りに行けと命じられる者も少なくない。そして、同じ被害者を増やす労働に明け暮れ、その罪悪感を漬け込まれる……全員が全員当てはまるわけでは決してないが。化け物である『ナッシング』も組織側に協力するのもいればこちら側もいる。まぁ、両者の敵もいるが。
少年は武器を鞘に戻す。ちょうどその時、見知った人物がこちらへやって来た。ちなみに此処は革命軍が拠点としている村の一つだ。家に入れてもらうにも革命軍は数が多いため全員は収まり切らないため、革命軍の指導者やその付近の上位者はテントを使っている。普通は逆だが、万が一、革命軍を組織が襲って来た場合、指導者等を狙う。つまり囮として家の方で足止めし、その間に逃亡したり作戦が決行される。そういう規則ではないが、一度似たような事とそれに組織が引っ掛かったので設置しているだけである。あわよくば、もう一度引っ掛かってもらいたい。
「お疲れ。見回りはどうだ?」
「……バ……チ、リ……」
「そう。アンタの見回りは信頼できるからな。別に、信頼してないって訳じゃないから」
「しっ……て…る……デレ、あり…がと」
「?!そ、そう云うわけじゃない!」
少年の方へやって来た人物、幼馴染に向かって大きく片手を振りながら彼はそう言う。が、幼馴染は分かってるよと言わんばかりに笑っている。少年ともう一人以外にはその表情の変化は分からないであろうけれども。幼馴染は少年だけが外にいる事に首を傾げ、テントを指差した。
「ただいま神子様が救出した兄弟に作戦を説明してるところ。白い兄は理解が早いけど、紅い弟は微妙だね。分かってる部分はあるみたいだけど、難しいところは苦手ってぽいし。ていうか神子様の説明と作戦が難しいだけか。オレもみんなも一瞬混乱したし」
「名…前…は?」
「兄弟の?花白が助けた方が白桜で、二人で助けた方が紅葉だって」
「……元気、だった?」
幼馴染のその問いかけに少年は一瞬、キョトンとしたが嗚呼、そうかと納得した。そうだ。手当てしたのは花白だった。少年は幼馴染を、青年を安心させるように小さく笑って言う。
「元気だったぜ。今にでも飛び出し行く勢いだった」
「……よ、かった…」
少年の言葉に心の底から安心したように幼馴染は笑った。やっぱり、少年ともう一人から見れば無表情にしか見えないが。
「そ……言え、ば…名…前」
「ん?誰のだ?」
「…神……子」
少年にも分かっていた。先程、幼馴染が言った名前は兄弟二人、紅葉と白桜の名前を聞いたわけではなかった。それを知りながら少年は逃げるように兄弟へ持って行った。少年は何処か遠くを眺めるように視線を向ける。
「アイツは、革命軍の指導者になるって決めた時に名前を捨てたんだ。唯一、知ってるオレらが勝手に呼び回しちゃ可笑しいだろ」
「う……ん……で、も」
「大丈夫。アイツの覚悟だよ」
真剣な表情で二人はテントを見る。そして、自分達の手首にあるブレスレットに目を向けた。三人一緒だった、幼馴染だった。その関係は、今も変わらない。その役目が一人一人違ったとしても。幼馴染は少年に向けて手を差し出した。その意味を知っている少年は幼馴染の手に自分の手を重ね、ハイタッチをかわした。
「オレらはオレらなりに役目を全うするだけ。だろ?花白」
「うん……群青。青、と、白……の…守り、人…」
「そうそう。絶対、成功させて、平和を取り戻すぞ」
「……もちろん」
最後、流れるように出たその言葉の強さを少年、群青は一生忘れる事はないだろう。そう、この二人は神子の付き人であり守り人、護衛でもある。組織は指導者と上位者を狙ってくるため、護衛対象がもっとも信頼する二人組で構成されているのだ。ちなみに彼らは幼馴染でもある。
少年、群青は名前の通りの群青色のショートに群青色の瞳。頭に紺色のヘッドバンドをつけている。右手首に白と金を基調としたブレスレットをしている。リボンタイと水晶のタイピンであろうビーズが特徴の紺色のブレザーと軍服が合わさったような服で、下は膝ちょっと上の同じくズボン。紺色のソックスにローファーを合わせている。両腰には短刀を下げている。
一方幼馴染の青年は花白と云い、クリーム色と白のコントラストのセミロングで右目を髪で隠し、瞳はナイルブルー。左手首に青と金を基調としたブレスレットをしている。シルバーホワイトの袖口が大きく、長いロングコートーちなみに裾がとても長く地面に半分以上ついているーで中には灰色のブレザーと軍服が合わさったような服を着、白いズボンに黒のブーツ、ズボンの裾をブーツに入れている。後ろ腰に脇差を携えている。
二人が確かめ合ったちょうどその時、テントの入り口を担っている布が軽く上げられ、青年が顔を出した。
「群青、それに花白も、入って」
「良い……の…?」
「うん。二人がお礼とか云いたいんだって」
どうぞ、と手招くその無邪気な笑みに群青はお先にと入っていく。花白はちょっと考えた後、テントに入った。
元々、絵に書き起こしていた組であるこの二人。お絵描き中にはほとんど関係性がなかったんですが、同じページにいたのでこうしてみました!




