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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第六陣 全テノ決着ヲ
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第六十九話 消えた温もり



「…ん……え…?」


紅葉は重い瞼を上げた。そして自分の頭上に見える物に怪訝そうな声を上げた。視界がはっきりしていないだけなのかもしれない。そう思ったが、紅葉の視界がクリアになって行くにつれて頭上ー天井からぶら下がっている物が鮮明に見えた。白い花と青い花がチェーンで二個ずつ繋がれたものが三つぶら下がっている飾りだった。まるで宝石のようにキラキラと光り輝いていた。その飾りに手が届きそうに思えて、紅葉はほぼ無意識のうちにその飾りへ手を伸ばしていた。そこで紅葉は自分の腕に、胸元にツンと響く痛みを感じ、驚愕したように起き上がった。胸元が痛いのでゆっくり、ゆっくりと。そこでようやっと自分の現状を把握した。自分の隣には簡易ベッドに寝かされた白桜がいた。頭に巻かれた布がなんとも痛々しい。紅葉は心配そうに彼を振り返り、穏やかな寝息を立てている事に気付き、ホッと胸を撫で下ろした。辺りを見渡すと此処はテントらしく、入り口であろう箇所には黒い布を垂らしている。


「此処、どこ…?…イッ!」


ごくごく当たり前な疑問を口から吐き出し、紅葉は胸元の痛みに呻いた。思わず痛んだ胸元に手を当てる。と、柔らかい感触に違和感を覚えた。服とは違う感触に自分の体へ視線を向ける。紅葉は上半身が裸で胸の左右のちょうど間のところに包帯がきつく巻き付けられていた。上着は何処だろうと自分が横になっていた辺りに視線を向けると枕元にきちんと畳まれて置かれていた。ベッドの上にいる白桜の上着も畳まれて置かれており、その状況から白桜が頭以外にも傷を負っている事が分かった。誰だがわからないが手当てしてくれたのはなんともありがたい。だが


「薙ちゃんは?雛丸は?何処?無事なの?」


一番の心配はそれだった。薙は自分が庇ったので分かるがその後は不明だし、雛丸もだ。紅葉は混乱する思考を整理するために状況を振り返る事にした。薙や雛丸がよくやっていた方法だ。自分が使うとは思わなかったが。確か、この国ー都の可能性もあるがーに来て、明らかに平和ではない現状に出くわした。その後、此処の住人であろう女性の言葉から彼らのように逃亡することに。自分達の背後には数で圧倒している狂暴な化け物と銃器を持った狩人とでも云うような民間人がいた。その逃亡の最中、雛丸が転んでしまい白桜が彼女を助けるために残った。紅葉と薙は「後で追いかける」と云う言葉を信じて先へ逃げた。その後の二人は分からない。逃げていると敵が迫って来た。喧騒で気配が分からなかったが、紅葉は一瞬、薙へ向けられた殺気に気付き、彼女を庇った。彼女が無事であることに安心し、気を失った。気がついたら此処にいた。


「ん……」

「兄さん!?」


その時、白桜が蠢いた。紅葉が胸元の傷を庇いながら彼を振り返ると苦痛の表情を浮かべながら白桜が目を覚ました。兄が無事である事は分かっていたが、実際に起きた事で安心し、我知らず笑みが漏れる。白桜は視線だけで辺りを見渡すと、紅葉と同じ牡丹色の瞳と目が合う。紅葉を見つけて白桜も安心したようだったが此処にいない相方に気付き、驚愕したように勢いよく起き上がった。


「雛様は?!……っあ…」

「あああ兄さん!大丈夫?兄さんも怪我してるんだから気をつけて!」

「っ、はい、すみません紅葉…」


勢いよく起き上がったために包帯が巻かれた部分が痛んだため、そこを押さえた。白桜の怪我は頭以外にも左肩と脇腹、そして首だった。首の傷は軽傷なのか、大きめな布を貼り付けられていた。紅葉と同じように上半身は裸である。白桜は痛む頭から手を離すと先程の紅葉のように辺りを見渡し、最期に紅葉へ視線を固定させた。そして困惑した表情で紅葉に問う。


「紅葉、薙様は?」

「僕が銃弾から庇ったまでは覚えてるんだけど、気を失っちゃって。あとは兄さんみたいな感じ。兄さんは?」

「ええ、わたくしも雛様を庇って気を失ってしまいまして…雛様、泣きそうになっていました。大丈夫でしょうか…」


不安そうに白桜が自分の上にかかっていた布を両手で握り締める。その手が震えている事に紅葉が気づいていた。それは紅葉も同じだった。守れなかった。いや、守れたが最後までではない。その事実に自分への悔しさが滲む。この国の現状が不明な以上、あの二人の行方は分からない。白桜が寒くなったのか、枕元に置かれていた服を手に取ったが、左肩がまだ痛むようで着るのではなく、羽織った。


「大丈夫、だよ。薙ちゃんと雛丸だもん!」

「ふふ、そうですね」


そう言って、互いに落ち着き安心感を得ようとする。例えそれが偽りの安心だとしても。それに自分達よりも強い二人の事だ。無事である事に間違いはない。


「此処、どこでしょうか?」

「分かんない。誰かが助けてくれたのは分かるんだけどね」


白桜が辺りを見渡しながら言う。彼の視線は紅葉と同じように天井の飾りへ一旦向いた。が次には入り口であろう布に向かっていた。誰かが助けてくれたのは間違いはないのでお礼がしたい。ついでに情報が欲しいと思ったのは焦りだろう。紅葉は逃げる時に自分達に声をかけてくれた人かなと思ったがなんだが違う気がした。

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