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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第六陣 全テノ決着ヲ
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第六十五話 はい、逃走!



その人物、少年はツカツカと足音を大きく響かせながら目的地へと向かっていた。その途中で幼馴染に遭遇し、幼馴染も一緒に着いて来ている。幼馴染は少年の機嫌が悪い事に気づいているらしく、少々オロオロとしている。しかし、その表情は長年一緒だった自分ともう一人にしか分からない、小さなものだった。と、幼馴染が遠くから聞こえて来た爆音に振り返った。嗚呼、もうそこまで来てる。そう思ったのが早かったか、それとも呟いたのが早かったか。少年は目的地まで全力疾走することに決めた。幼馴染も慌てた様子で少年を追いかける。目の前に見えて来たのは入り口を黒い布で扉代わりにしている簡易テントだ。黒い布を払い除けながら中に入る。中は、本当に殺風景で一人ポツンと中性的な顔立ちの人物が少年に背を向けた状態で座り込んでいた。何処かに祈りを捧げているのか、片足を立て、両手を組んでいる事が服のシワでわかった。


「アンタが捕まったら()()()()おしまいなんだ。逃げるぞ!」

「あれ、心配してくれるの?」

「べ、別に…ってそうだよ分かれ!」


少年の声に悪戯っ子のように返す人物。声は男女の区別が難しく、高くもあって低くもある。人物が少年を振り返ったちょうどその時、幼馴染がテントの中に駆け込んで来た。来る際に何かあったのか、肩は大きく上下に動き、その手には武器が握り締められている。


「うん、そうだね。()()()逃げよう。()()のため、捕まっちゃあいけない」

「だったら早く!他の連中が抑え込んでるけど、いつまで持つか!」

「わかった。じゃあ、手筈通りに逃げよう。相手も煽るだけ煽ってこちらを挑発し、戦力を奪おうとしている。それにだけは絶対に乗ってはいけない」


シャランと人物の足元で金具が清らかな音を奏でた。少年と幼馴染は頷き合い、人物も力強く頷く。遠くの方でまた爆音が響き、足元を揺らしていた。


…*…


移動して来た紅葉達は地面に足が着いた途端、体の底から響いてくるような揺れに襲われた。反射的に態勢を低くする。揺れが収まり、ゆっくりと辺りを警戒するように見渡す。


「……なんなの此処は?」

「先程の揺れと云い、良い兆候ではなさそうですね」


緊張感が孕んだ声色で雛丸と白桜が言う。一応警戒で武器に手を伸ばす。すると紅葉の視界の隅に黒いものがうつった。それは縦長で空に向かって幾つも伸びていた。改めてそれを視界に入れ、紅葉は息を呑んだ。


「あれ!」


紅葉が指差すその方向には幾つもの黒い煙が空に向かって伸びている光景だった。その光景で何が起こっているのか分からないほど自分達はバカではない。それに良く辺りを見渡すとそこは森の中で所々の木が何故か枯れていた。そして煙が上がる空は先程までいた『創造華』とは比べ物にならないほどに灰色に染まっていた。雲が空を覆っていると云う表現ではなく、灰色の絵の具で塗り潰したと云う感じだった。


「何が起きてるんだ此処は」


薙が重たい声で呟く。とその時、白桜が不思議そうに前方を睨み付けた。だが前方は真っ暗で枯れた木や辛うじて元気な木が微かに見えるだけである。


「?兄さん?」

「……何か、接近しています」

「「「?!」」」


白桜の言葉に全員の体に緊張が走った。白桜の云う何かとは敵か、それとも味方か?全員が真剣な表情で薄暗い前方を睨み付ける。すると声と足音が聞こえて来た。数は一つではない。もっと多い。その事実に神経を集中させる。近づいてくるにつれてその正体は暗がりから姿を現した。正体は、多くの人々だった。人々は悲鳴をあげながら一目散に逃げてくる。背後からなにかが追って来ているのか、数人が背後を振り返っては大声で叫んでいる。このまさかの事態に紅葉達が面食らったのは無理もなかった。自分達の方へ必死な表情で逃げてくる多くの人々。その人々の中には怪我人や子供もいた。彼らは茫然と立ち竦む紅葉達の横を通って駆けて行く。


「な、なんなの!?何事!?」

「さっきの煙と揺れと関係あるのかな?!」

「とりあえず、よk」


紅葉と雛丸が逃げ惑う人々を見渡しながら驚愕の声をあげる。とりあえず、彼らの邪魔にならないところへ移動しようと薙が声を張り上げた時だった。彼女に誰かがすれ違い様にぶつかった。薙にぶつかったのは彼女と同い年くらいの少女で逃げずに立ち止まっている紅葉達を見ると一気にその顔が青ざめた。


「あなたたちなにしてるの!?逃げないと殺されるわよ!」

「殺される…?」


少女は紅葉達も気になるが自分を優先させて走っていく。彼女の言葉に全員が視線を合わせて固まった。まだ人々は逃げてくる。村一つ分と云っても良いほどの大人数だ。紅葉達は逃げ惑う彼らと違い、武器を持っている。だが、此処は紅葉達の地元でも故郷でもない。そして、逃げ惑う人々の緊迫した表情、煙と揺れ。判断はついた。紅葉達はゆっくりと視線を合わせると、彼らと同じように駆け出した。紅葉達の第六感が叫んでいた。「少女の言葉に従い、逃げろ!」と。警報が鳴り響いていた。此処の住人である彼らが逃げろと言っているのだ。郷に行っては郷に従え。見えぬ敵から紅葉達は一目散に逃げた。走り出してすぐに彼らが逃げ惑っているものの正体が判明した。背筋を凍らせるほどの殺気を漂わせた数十体もの化け物と武器を持った明らかに民間人ではない者達だった。



新しい章行きまーす。

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