第六十四話 その者達、強者なりて
「さーてと?おれはもう行くからな?あのバカどもを蹴散らしてやるかなっ!」
友人達が移動したのを確認し、燈梨が一番乗りで窓から飛び出した。そしてそのまま頭上から武器を敵に向かって振り回す。横目でそれを確認した鶯が軽くため息をつき、ボキボキと指を鳴らす。アークが窓から少し距離を置いて、勢い良く駆け出した。
「我がいないとダメなくせに」
燈梨に聞こえないようにそう呟いて。そして、燈梨のように頭上から攻撃を仕掛ける。
「まったく!二人共なんでそんなところから行くのかなぁー!」
雨近が怒ってますと言わんばかりの表情で叫ぶとハンマーを手に急いで部屋を出ていった。彼女は階段を使うらしい。鶯が横目で外を見る。燈梨とアークのコンビネーションに自分達を狙っているであろう集団も獣もたじたじで優勢だ。その事実に笑みを隠せず、思わず笑みが溢れる。
「何笑ってんだ?」
「いや。優勢だなぁって」
「でも、油断は禁物だ」
夜弥が二本目のタバコを懐から取り出しつつ、言う。と、何も見ずに片手を振った。その片手が振られた方向へ一直線にいつの間にか出した刃物が飛ぶ。そうして、グサッとこめかみにめり込んだ。刃物の的になったのは下で二人が相手をしている仲間のようで、まさかこちらを見ずに刃物が飛んで来るとは夢にも思っていなかったらしく、目を見開きながら後方へ倒れて行った。夜弥の手さばきに鶯がパチパチと拍手を送った。夜弥は少し照れた様子でタバコを吸う。足元が揺れた。雨近が建物内に侵入してきた敵と交戦を始めたのだろう。じゃないとこの揺れも先程の敵も理由がつかない。
「んじゃあ、僕たちも参戦しに行こう」
「嗚呼」
鶯がトン、と跳躍し、部屋を出る。その後を夜弥がゆっくりと追った。自身の背後にあの不気味な空間を展開させながら。空間からは刃物がこちらへ切っ先を向け、ゆっくりと、静かに進行を始めていた。
「はぁ…こんな事になるなんて…誰かわかったかよ…」
重く低い声を吐き出しながら夜弥が言った。
だが実際、甘く見ていたのは、夜弥達だった。五人で円を作るように背中を合わせ、唸る偽物の神である『神獣』とこちらに刃物を向ける集団を睨む。彼らはぼろぼろ、と云うほどでもなかったが、体力は限界に近かった。特に最年少である雨近。敵である集団は雨近を執拗に狙い、彼女の体力を奪った。そうすれば、仲間である夜弥達が雨近を守るために集結し、行動範囲及び攻撃範囲が狭まると考えたらしい。まさに、その通りに事は進んでしまった。
「…は…ごめん、ね。あたしの、せい、で」
「雨近のせいじゃないから!」
体力の限界で倒れかけている雨近をアークが支える。既に立っていることさえ出来ないのか、生まれたての小鹿のように足が震えている。そんな彼女が見ていらなかったのか、夜弥が雨近を抱き上げると背中におぶった。その衝撃で雨近のハンマーが落ち、コンクリートにめり込んだ。
「どうする?おれとアークの瞬発力使うか?」
「いや、こいつらがそんな簡単に見逃してくれるわけないだろ」
夜弥が燈梨にそう返す。彼女はもう一度、敵を見回して、「そうかも」と納得した。自分達を囲む集団。その後方にはリーダーらしき人物が悠々と立っていた。それが、相手の手中に嵌まったことを実感させてきてイライラする。自分の手元に展開されている固有能力を横目で認め、夜弥は頭を回転させる。これは完全に俺達の落ち度だ。薙達を優先させて、ピンチに陥っているようじゃ、
「…今度顔を合わせた時に、何も言えないんだよ!行け!」
夜弥が怒ったように叫びながら片手を前方に突き出す。展開されていた異空間から次々と刃物が銃弾のように飛び出し、敵を撃ち取って行く。それと同時に鶯や燈梨、アークも飛び出した。鶯は雨近を背負っている夜弥を守るように背中を庇う。
「あとどれくらい持ちそう?」
「さぁあな!ここいらで援軍でも来てくれりゃあ…」
そんな夜弥の弱音に鶯が小さく笑い、片手を突き出してはその風圧で敵を吹っ飛ばして行く。夜弥の背中にいる雨近がやると言って軽く体を動かすが、体力はそれをよしとしない。
「あーはいはい、大人しくしてなさいって、ね?」
「…鶯兄、の…おじいちゃん」
「だからそれやめて」
無理矢理にでも動こうとする雨近を鶯が宥めると彼女は不満げな表情でそう口を滑らせた。それに二人と敵以外が軽く吹き出したのは内緒だ。でも、全員の意志は同じだった。自分達が抵抗出来なかったから起こってしまったこの事実を、現状を、抗う事で変える。と、その時、夜弥が一瞬、薙や雛丸、紅葉や白桜の事を思い出した時だった。燈梨とアークがスピードの隙を突かれて敵に囚われそうになった時だった。美しいまでに晴れ渡った空から光が射し込んだ。その数は眩しさで不明だった。けれど、これだけは言えた。敵ではない。何故か?そう感じたからとしか言えなかった。夜弥達を守るように現れたその光は彼らの傍らで何かを形作る。その、あり得ないまでの光景を目にした敵、集団は恐れ戦きながらも、その光景から目を離せずにいた。
「……やっぱりな…だからさっさと片をつけたかったんだ!予言の通りの、奴らだからっ!」
リーダーらしき人物が怒りに任せて叫び散らす。
「……『神の皮を被った愚かな贄を操りし愚者に立ち向かう五人の意志が重なりし時、彼らの真の能力が解放されたり。その者達、平和をもたらし意志であり。』」
「それって」
鶯がポツリと呟いたその一説は、夜弥達この国の住人が信仰する神が告げたとされる所謂予言だった。だが、その予言はいつまで経っても実現しなかった。故郷が廃墟と化してしまっても。けれど、敵の言葉が本当ならば。敵が自分達を狙っていた理由が予言ならば。この光の正体なんて、わかってしまうのだ。
「なぁ沖田、土方」
「なに」
酷く心が落ち着いている。それは、仲間がいるからだろうか。夜弥には分からない。いや、分かる。
「あいつらに謝んなきゃな」
夜弥の恐ろしいほどまでに冷静な低い声に鶯はなにを謝るのか聞くこともなく、「そうだね」と頷いた。力無く垂れていた雨近の手を光が優しく包み込んだ。それに雨近は、こんな状況にも関わらず、笑みを溢した。全ては必然であり偶然なのかもしれない。
まさかのって云うね…




