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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第五陣 隠れた実力者
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第五十五話 色違いの兄弟、背中合わせの対


一通り自己紹介をし終わり、各々が楽しそうに会話を始める。紅葉はぐっと拳を握り、いまだにアークを抱き締めている燈梨に話しかけた。彼女は夜弥と話していたらしく、彼の言葉に苦笑を返した。


「だからな?髪は女の命とも言っt「でも、短い方が楽だよ」……嗚呼もう良いや、お前にゃあもう言わん。頼んだ永倉」

「だからなんでそうなるの?!」

「齊藤の嫁だから?」

「ちっ、違うってばぁああああ!!」


顔を真っ赤に、耳も首も真っ赤に染めながらアークが燈梨から逃れようと暴れるが体格差が影響しているのか、はたまた機械の体を女性だからと遠慮しているのか逃げることはできなかった。燈梨は真っ赤になったアークを愛おしそうに見ながら小さく笑った。


「あの、燈梨さん」

「ん?なんだい?えーと、紅葉くん」


アークを抱き抱えたまま燈梨が紅葉に訊く。紅葉は意を決して頼んだ。


「僕に稽古をつけてくれませんか?!」


バッと頭を勢い良く下げる。その紅葉の行動にアークが息を呑んだ、気がした。燈梨は瞳を猫のように細め、()()()()()()()()、その理由を問う。あの、夜弥が警戒心が強いからとおこなったと説明した先程の戦闘で燈梨は感じ取っていた。()()の決意にも思いにも。


「何故だい?」

「………強くなりたい」


ポツリと呟いた自分のその声が大きく響いているように錯覚してしまう。薙や雛丸、白桜に聞かれても別に良い。これが自分の決意だ。


「もっと、強くなりたい。大切な人を守れるように。僕は、薙ちゃんや雛丸、兄さんみたいに強くはない。でも、強くなりたいんだ。僕の手は、実力は高くないし大きくもない。零れ落ちるのも、無謀ってのも、強欲だってのも分かってる。けど、自分から進まなきゃ何も出来ない……大切なモノ全部、守れるような力が欲しい。だから、強くなりたい…こんな理由はダメ?」


燈梨を見上げながら紅葉が言う。

最初は薙だった。何もなくなり、半ば自暴自棄だった紅葉を救った強い少女。自分の前に仁王立ちして力強く立つ薙。いつまで経っても勝てないけれど、彼女のようになりたいと思った。守りたいと思った。次は白桜だった。何もかも失ったと思っていた紅葉の手に唯一残った愛情の手。もう、二人っきりの家族になってしまっていた。彼は、強い。けれど、自分がいないところで雛丸を支えに懸命に立っていた。それは雛丸も同じだった。互いを互いに支え合い、信頼し合っていた。唯一の家族とその家族が信じた愛しき相方。次々と、次々と守りたいものは増えていく。自分が危険な目にあった事も、彼女達が危険な目にあった事もあった。常々実感するのだ、弱いと。『隻眼の双璧』の時だって、ただただ空振りな攻撃しか出来なかった。変わりたい。そう思うのは必然的だった。目的のために強くなる友人達を見て、決心がついた。

紅葉の真剣な視線を受け取り、燈梨はクスリと笑った。そして、顔を上げなと紅葉を促す。


「合格。その意志をおれは聞きたかったんだ。自分の限界を知りつつもそれ以上を求める……良いよ、稽古しよう。アークもやるよな?」

「うんまぁ…我がいないと出来ない事もあるだろうし」

「ほん、と…?ありがとうございます!」


バッと再び紅葉が勢い良く頭を下げた。自分の力が及ばない時だってあるだろう。けれど、それ以外なら出来る範囲でも良いから守りたい!


「その稽古、わたくしもご一緒させてください」

「……!?」


その声に紅葉は勢い良く顔を上げ、視線を向けた。そこにいたのは紅葉の兄・白桜。白桜も真剣な瞳を燈梨に向けている。


「兄さん?」


紅葉が怪訝そうに白桜を見上げる。そんな彼に優しい眼差しを向けながら、白桜は前を向く。すると、何かを感じ取ったのか、アークが不思議そうに首を傾げる。


「……あのよぉ、二人って、もしかして」


その言葉の先の答えに気づいたのは雨近を抜かす全員だった。けれど、そんな事、紅葉も白桜も薙も雛丸も気にしていない。白桜は「ええ」と頷く。肯定された。まるで自らが招いた事なのに誘導したように感じて、アークはその真意を確かめるべく、聞く。


わたくしと紅葉は兄弟ですが、腹違いです。母親が違います。諸事情により、わたくしの肉親は紅葉しかおりません。紅葉は、守るべき家族です。雛様は、わたくしを救ってくだった恩人であり背を預ける大切な方です。薙様は、紅葉が大切に、もっともよく慕う方です。失いたくないもののためにわたくしは、この身が行けるところまで行かせるつもりです。確かに、無謀な時もございましょう。無理な時だって、明日…いえ今日にだって起こるかもしれません。けれど、それでもわたくしは、強くなりたいのです」


スッと白桜も頭を下げた。燈梨はふっと軽く息を吐いて、嬉しそうに笑った。白桜も紅葉と同じだった。強くなりたい。目的が違えど、思いは同じ。色違いの二人、背中を合わせた兄弟。二人を見て、相方の薙と雛丸は我知らず、頬を綻ばせた。嗚呼、それでこそ背中を預けたいと願った、信頼している者だ。その意志が、思いが、何よりも信頼の絆となる。


「おれの稽古は厳しいぜ?」


決め顔で燈梨が言う。それに白桜は、一度顔を上げ、再び「ありがとうございます」と頭を下げた。


「兄さん」

「はい?なんです紅葉」

「………ありがと」

「…ふふっ」


何に対してのお礼なのか、白桜には容易にわかった。その言葉の代わりと云うように紅葉の頭を撫でた。薙と雛丸はそんな二人を見ながら嬉しく思う。自分の背を預ける色違いの強者(兄弟)。互いの背を預け合う美しき、愛しき対。嗚呼、強く、眩しい。夜弥が鶯に雨近と位置を変われとタバコを持った指で促しながら言う。


「んじゃ、『勇使』は『勇使』同士で情報交換とでもしゃれこむかぁ…沖田」

「あ、はーい!薙姉、雛姉!あっちでやろう!」


夜弥の気遣いに紅葉と白桜がハッとした。自分達は夜弥と雨近が『勇使』と云うことは知らない。まぁ薙と雛丸の友人と云う時点でどちらかがそうである可能性はあった。しかし、二人の友人達はどうだ?『勇使』と簡単に言ってしまっているが大丈夫なのだろうか?それに薙と雛丸に許可を求めずに頼み込んでしまったが良かったのだろうか。


「っあのっ」

「大丈夫大丈夫!みーんな、あたしたちが『勇使』って事も知ってるから安全だよ!」

「それに勝手に口実つけちゃったと思ってるなら、それは取り消してよね!ボクたちは()()()んだから!ねぇ薙」


「こっちこっち!」と腕を引っ張る雨近と雛丸が言う。薙は雛丸の言い分に頷きながら、男らしく微笑む。


「嗚呼、それぞれの目的だ。妾達が止める理由なんかねぇだろ?」

「っ!ありがと薙ちゃん!大好き!」

「あーはいはい、ハイハイ。んなこと知ってるっつぅの」


ニィと当たり前だろと言わんばかりに薙が微笑む。それに紅葉が嬉しそうに笑い返した。それを見ていた燈梨と鶯は「仲が良いなぁ~」と優しい眼差しを浮かべ、アークに至っては「あ、友達として、相棒としての大好…き…」と何を考えたのか顔を真っ赤に染めていた。そんで燈梨にギューとされていたが。白桜も笑う雛丸に軽く頭を下げ、登って行く彼女に向けて手を振った。互いの瞳の色のネイルが雛丸の目に入り、彼女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら上の階へ消えて行った。


絶対誰かしらは気づいてたでしょう…

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