第五十四話 刺青と剣豪と機械
雨近と夜弥はこの二人の他にもあと一人紹介したい人がいると云う。その一人もこの二人も此処、『創造華』での友人であり仲間であり、三人まとめて紹介したいらしい。先程の少年の態度が緩和したのが良かったのか、紅葉達は警戒心を完全ではないが解き始めていた。楽しそうに鼻歌を歌いつつ、上機嫌で階段をあがって行く雨近。この階段を登った先は踊り場になっている。その証拠に明り取りの窓から薄暗い光が差し込んでいる。そんな雨近の後を夜弥と少年が追っている。時折、夜弥が少年にちょっかいをかけているらしく、少年の悲痛な叫びが廃ビルに響き渡った。
「あんた、動きは良いよ」
「そう?ありがと!」
突然、隣を歩いていた女性にそう声をかけられ、紅葉は嬉しそうに礼を述べた。しかし女性は紅葉を値定めするように眺め、そして少し残念そうに息を吐いた。
「でも、それじゃあ…難しいかもな」
「………え?」
まるで自分の弱さを見透かしたようなその言葉に紅葉は面食らった。瞳が大きく見開かれる。もしかしたら、この強い女性になら…
「紅葉?」
と、少し思案している間に足が止まってしまったらしく、背後から登って来ていた薙が心配そうに彼の顔を覗き込んだ。紅葉はクッと一瞬、辛そうに顔をしかめると首を傾げる薙の片手を取った。転ばないように自身の方へ引き寄せ、その耳元で囁く。
「紅葉…?」
「薙ちゃん、ありがと。僕はいつまでも、一生薙ちゃんには勝てないと思う。けど、守りたいもののために強くなるくらいは、良いよね」
「え、あ、おい!」
呆ける薙を置いて先程よりも軽やかな足取りで紅葉が階段を駆け上がり、夜弥に向かってなにかを叫ぶ。紅葉に引き寄せられ、行き場を失った薙の片手が空を掴む。その隣を雛丸が駆け上がって行く。すると、何か思い出したかのように薙を振り返った。ふわふわの髪が揺れ動く。雛丸は嬉しい、と云うのを顔いっぱいに表しながら空を掴む薙の手を引っ張った。
「だからボクたちは、背中を預けられる。そうじゃない?」
「……ハハッ。嗚呼、全くその通りだな!」
雛丸に片手を引っ張られながら薙は階段を登る。薙も雛丸もその実力は高い。けれど、その力は目的のためにあって。紅葉にもそのために強くなる理由があって。嗚呼、妾に云うくらいなんだから、期待しとくぜ?紅葉?
ニヒルに笑う薙。遠くなって行く彼女達の背を下から眺めながら、白桜は小さく息を吐いた。
「ふぅ…(決めました)」
これは、決意だ。そして、その後を追って大きく足を踏み出した。
…*…
「ねぇ夜弥さん!紹介したい人って誰?」
「んあ?嗚呼」
ちょこん、と夜弥の隣に陣取るように立ちながら言えば、彼はタバコを加えた顎でその方向を示した。踊り場に辿り着いた雛丸に雨近が抱きついていた。危ない、と薙が雛丸を支えている。
「あそこにいるじゃねぇか」
少年も夜弥と同じところを指差す。紅葉が目を凝らす。そこは光が差さない、影になっている場所だ。よーく目を凝らすとそこには一人の青年がいた。瞳が暗闇に妖艶に浮かび上がる。その青年が暗闇から姿を現す。その姿に紅葉も含め、薙、雛丸、白桜が息を呑んだ。雨近や夜弥は無理もない、と云うように笑った。
「此処まで戦闘の音が聞こえていたよ。今回のお客さんは、雨近と夜弥の友人と聞いたけれど?」
「うん!そうだよ鶯兄!」
「あんたの後方支援がないって、少し不安だな?」
「ふふ、お褒めの言葉…として受け取っておこうかな」
下の階の会話を聞いていたのか、青年はにっこりと優しく笑いながら言う。そして近くにいた少年の頭を撫でる。少年は煩わしそうに、それでいて少し恥ずかしそうに彼の手から逃れ、逃れた先で女性に捕まった。それを見て紅葉と雛丸は「あの二人はカップルかな?」と首を傾げたとかなんとか。とりあえず、光の下に出てきた事で青年の容姿がはっきりとわかった。背中の服が大きくあいており、そこに刺青がされているのだ。露出が多いところは侑氷、刺青と云えばスディを思い出す。なんの迷いもなく彼らを思い出したことに紅葉は小さく笑った。
「さって、んじゃあ全員集合したし紹介するな」
夜弥が青年の方へ少し歩み寄り、紅葉達を振り返って演説するかのように両腕を広げる。その際、タバコの灰が落ちた。雛丸に抱きついてぬくぬくとしていた雨近も一応と云うことか、夜弥の方へと移動した。夜弥がクイッと顎でどうぞと示すと彼らが言い出す。
「おれは齊藤 燈梨。んでこいつはおれの嫁♪」
女性が楽しそうに笑いながら少年を引き寄せると彼は顔を真っ赤に染めながら反論する。
「ち、違うし!やめてよそういうのぉお!……えーと、永倉 アーク……って、やめてってばぁあああ」
「ふふ。僕は土方 鶯。宜しくね」
そう言って彼らは自己紹介を終えた。
女性、齊藤 燈梨は色が少し色素が薄い金髪のベリーショートヘアーで灰色の瞳。服は白の軍服で袖が二の腕までで、少し丈も短い。下は同じく白のホットパンツ、灰色のニーハイソックスと明るめの茶色のニーハイブーツ。左右の腰には一本ずつ武器を下げている。
燈梨に背後から抱き締められている少年、永倉 アークは撫子色のショートでこめかみが少しだけ長めで瞳は浅紫色。見る限り、上半身の左側と両足の足首が金属に覆われている。機械のようだ。首に小さな球体がついたネックレスをしている。服は赤茶のノースリーブで首元まで覆われ、右腕だけ袖が異様に長く、手袋のようになっている。下は濃い青の半ズボンで革靴。
青年、土方 鶯は萌黄色の長髪で頭の中間辺りで軽くお団子のように結っており、瞳は梔子色。服は髪と同じ色の萌黄色の、背中が大きくあいた丈の長いチャイナ服、白めのズボンだ。背中には多くの種類の鳥達と美しい花が描かれている。靴は黒のヒール。
紅葉はやはり名前からして関係あるんじゃないかと思ったが、口には出さないでおいた。そして、にっこりと笑いながら名前を告げた。
こんな子達を作りかったんや




