第五十二話 その二人、絆なり
「てか良く分かったないるって」
「沖田のアンテナが薙と雛丸を受信した。んで走った」
「マジかよ」
薙の問いに男性が何故かドヤ顔で答え、少女が胸を張る。アンテナ、と云うのは少女のアホ毛の事だろう。それに紅葉は興味深げにワクワクとした様子で言う。
「良くあるやつだ!」
「紅葉ーそれ言ったらダメなやつぅ」
雛丸がシーッと人差し指を口元に置いて笑う。少女がだよねと笑い、雛丸に抱きついた。雛丸の方が少し身長が高いので少女がすっぽりと雛丸の腕の中に覆われる。だがやはり少し勢いがあったのか、雛丸が後方によろめく。白桜が運良く背後にいたため、そっと彼女を支える。雛丸が彼を振り返り、にっこりと笑った。それを見ていた男性が微笑ましそうに笑い、紅葉は優しい人なんだと感じた。
「薙も雛丸も仕事で来たのか?帝?」
「!『勇使』、なの?」
男性が何気なく問った言葉に紅葉が少し警戒気味に問う。男性はキョトン、とした後、愉快そうに笑い、タバコを吸った。
「そうだ。前はちょっとしたコネっつぅか……うん、企業秘密で別んとこ行ってたけどな」
「なるほど、そこで薙様と雛様とお知り合いになられたと」
「応。今はこの薄汚れた生まれ故郷を拠点にしてるけどな……てか、白桜?だっけ?こいつ男?女?」
男性が廃墟だろ?と自嘲気味に苦笑した後、不思議そうに雛丸の後ろにいる白桜を見る。その探るような眼差しに一瞬、呻いたように白桜が少し後退しかけた。自分の心の奥まで見透かすような、そんな瞳。少し、その瞳が怖い。白桜の心情に気づいた紅葉が白桜のところへ駆け寄る。雛丸が少女をギュッと抱き締めながら男性を見上げ、男性を睨み付ける。
「ダメだよ夜弥さん?」
眼光鋭い雛丸らしくて、らしくないその視線に男性はケラケラ笑いながら降参だと両手を上げる。その鋭さは刃物のようで、明らかに警戒していた。踏み込み過ぎた、と男性は内心反省する。
「悪い。雛丸が何思ってんのかは知らんが、性別聞いただけだぜ?」
「あーそっか、兄さん、もう一人の母さんの家の事情で女の人っぽくしてたから間違われるよねー」
「ふふ、そうですね紅葉。けれど私はこれでも満足している節があるので大丈夫ですよ。雛様と爪紅を塗り合いっこも出来ますしね」
「!!白桜大好きぃいい!!」
紅葉のその一言、その一言に男性も少女も困惑気味にえっ、と声を上げかけたが薙も雛丸も普通にしていたので触らないでおいた。紅葉も白桜も無意識に出てしまったような感じで、気づいていなかった。白桜はクスリと笑いながら自身の爪を見た。その笑みは優しく穏やかで。白桜が言った事が嬉しかったのか、雛丸は背後の白桜に向かって抱きついた。トン、と腰辺りに来た衝撃に白桜はクスクスと笑いながら雛丸を受け止める。すると紅葉が「ズルい!僕も!」と横から白桜に抱きついた。二人に抱きつかれて白桜は困惑しつつも、嬉しそうに笑っていた。紅葉も雛丸も楽しそうに嬉しそうに笑う。その光景に薙も微笑ましそうに、満足そうに頬を綻ばせる。雛丸からタイミング良く離れ、男性の方へ来ていた少女は彼を見上げ、言う。
「家族みたいっ!」
「そうだな」
短くなったタバコを落とし、足元で踏みつけて火を消した。なんとも微笑ましい。自分達と出会った時とはまた違う。それが嬉しくて男性は本日二本目のタバコに手を伸ばした。
沖田 雨近と云う少女は少し白がかかった藍色の髪でツインテール。紺色のマリンキャップをかぶり瞳はターコイズブルー。ピョコンと一本、アンテナのようにアホ毛が帽子の隙間から出ている。灰色の二の腕まで袖があるパーカーで濃い青色の長く、指先のみがない手袋ー服かもしれないーを身に付けている。チェックのミニスカートにモノクロのニーハイソックス、茶色のブーツを履いている。
近藤夜弥と云う男性は鈍色のショートで両耳に黒のピアス。髪が少しだけ、後ろになでつけられオールバック風になっている。瞳は浅蘇芳色。服は紺藍色のボードネックに銀鼠色のジャケットー少し長めーを上に着、下は黒のズボン。靴は動きやすさ重視なのかスニーカーである。黒っぽい服装だ。
夜弥は二本目のタバコを吸い始め、和やかな光景を生み出す彼らに声をかけた。
「なぁ、此処にいるのはある意味危険だ。だから、移動しないか?紹介したい奴もいるしな」
「嗚呼、そうだな。ほら、紅葉も雛丸もいい加減にしろ!」
夜弥の言葉に薙が同意し、白桜にくっついている紅葉と雛丸に言う。「ある意味危険」、その台詞に紅葉達四人の顔に警戒と緊張が一瞬走ったのを夜弥は見逃さなかった。二人は少し名残惜しそうにしながら白桜から離れる。白桜はそんな二人の頭を優しく撫でた。それに二人は満足そう。雨近が薙と雛丸の手を嬉しそうに掴み、握ると「こっち!」と引っ張る。「慌てないで!」と雛丸が笑いながら言う。その後ろを紅葉と白桜、そして夜弥が追った。
「まぁ宜しくなお二方」
夜弥が先程の無礼を詫びるように兄弟二人に言った。白桜は小さく笑い、その口元を袖口で隠した。
「ええ。どうぞお見知り置きを。怒ってませんからね」
「ねー!」
夜弥が言いたかった事を瞬時に読み取った白桜が先に言うと彼は目をぱちくりさせた。そして、弟と笑い合う白桜を見て、口角を上げた。
「煙管とか合いそうだよなぁ」
「……突然何!?兄さんに至っては同意だけど!」
「吸いませんからね」
今までチラチラ出て来た兄弟の事情がまた出て来ました。今後も出ますよー
あと、アンテナ。




