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紅華~紅ノ華、赤ノ上二咲キテ~  作者: Riviy
第一陣 始まりと終わり
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第四話 取り残された家


それに男性は嬉しそうに笑いながら、紅葉の頭を撫でた。紅葉はその者の言い分に抵抗したい様子だったが、男性にとってはどちらも愛おしく、そして微笑ましかった。


わたくしは雛様の保護者で、紅葉の兄ですよ。それに変わりはありません、ずっと、ね。ふふ、二人共、微笑ましいです」


その一言に紅葉もその者も動きを止め、嬉しそうに笑った。その者に至っては少し恥ずかしそうだし、紅葉に至っては名前の通りに両頬を真っ赤に、それこそ紅葉のようにしている。一方薙は軽く呆れた様子で「これは天然か否や…」と一人呟いていたが。


「さ、行こ!物取りに!」


その者が全員の様子に首を傾げている男性を促すように腕を引っ張った。男性は中庭の方を歩きながらゆっくりとその者に着いて行く。と紅葉も用事を思い出したらしく、薙の手を掴むと二人の後を追うように駆け出した。


「あ、おい!」

「薙ちゃんどうせ準備終わってるでしょ?だったら僕のに付き合ってよ!どうせ兄さんと雛丸の準備が終わったらすぐ出発だしー!」


紅葉の言い分は最もだったので、薙は何も言わずに彼の背中に真剣な眼差しを向けた。そして、優しく微笑んだ。繋がれた手から優しい温もりが伝わってくる。絆があると感じさせてくれる。薙は一人、紅葉に見えないように笑った。

雛丸ひなまると呼ばれていた性別不明人は黄蘗色きはだいろのふわふわとしたショートで瞳は藍色をしている。両の爪に牡丹色のネイルを塗っている。服は灰色に近い白の軍服で青色のネクタイを締めている。下も同じく軍服で膝上までの短パン。靴は室内なので脱いでいるが短いソックスに黒いローファーだ。


一方、白桜はくおうと呼ばれていた男性、彼は紅葉の兄である。()()、血の繋がりがある。彼は真っ白な長髪でハーフアップにし、結び目に名前と同じ桜の髪飾りを着けている。瞳は牡丹色で両の爪に藍色のネイルを塗っている。服は紅葉と色違いで白を基調に差し色に黄色を使った狩衣の上のみで、袖口や袖が長く大きい。下は白鼠色の長ズボン、靴は灰色のヒールが高いブーツでズボンの下だ。

ちなみにもう分かっているだろうが雛丸は薙と同じく『勇使』であり、雛丸は白桜の主人、白桜は雛丸の部下であり同時に保護者的立場も担っている。案外複雑である。


「兄さん!雛丸!待って!」

「あれぇ~?なんで薙と紅葉が?!」

「そのまま出発するからでは?」

「さすが兄さん!分かってるぅ!」

「紅葉、早い!もう少しゆっくり走れ!」


楽しそうな、それでいて少しの緊張を孕んだ声が彼らの家である屋敷に木霊していた。


…*…


ガキガキ、と何かが刻まれる音がする。その音の正体の目の前に立っていた紅葉は地面にしゃがみこみながら、何かを一心不乱に刻んでいる薙を見ていた。薙が地面に刻んでいるものは五芒星らしきものだが、地面に刻み込んでいるので歪んでおり、本当に五芒星かどうか不明だ。紅葉は寄りかかっていた屋敷の柱から体を離す。


「薙ちゃん、終わった?」


そう聞きながら紅葉は薙に近づく。ちょうど良いタイミングで薙が膝についたゴミを払いながら立ち上がった。カタン、と刀が鳴った。薙は両腰に手を当て、近づいて来た紅葉を見上げる。


「嗚呼、簡易的なものだがな。この屋敷()は妾の友人に預けようと思う。ほら、紅葉も知ってるやつだ」


そう薙に言われ、紅葉は暫しの別れとなる屋敷()を振り返って「僕も知ってるやつ…?」と首を傾げる。紅葉と薙、二人に共通する友人はたくさんいて、紅葉には誰だか分からない。と云ってもこの屋敷を預かれるだけの信頼を薙から貰っている友人だ。思い付くのは容易い…はず。うーんうーんと頭を捻っても出てこない紅葉を見て、薙は呆れたように肩を落とし、小さく笑った。


「小柄なのに態度はでかくて、それでいて銃の扱いはピカイチな頭脳明晰天才s「嗚呼!あの子か!あーなるほどなるほど!」」


薙のヒントで答えに辿り着いた紅葉は納得したように何度も頷いた。それに薙がクスクスと微笑ましそうに笑う。紅葉も笑う。


「あの子なら安心だね!」


そう明るい声で言ったのは、紅葉ではなくいつの間にかやって来た雛丸と白桜だった。雛丸はトトト、と薙が作った五芒星の陣の中に入る。そして、なにしてんの?と云わんばかりの表情で二人を振り返った。


「ほら、早く行こう?」

「そうだな。うっし、お主ら!全員、この陣の上に乗れ!」


雛丸の言葉に薙は気合いが入ったのか力強く頷いた。そして、その陣に自らも足を踏み入れる。その次に白桜が続く。残ったのは紅葉だけ。紅葉は柱に立て掛けて置いた物に近づくとパチンと指を鳴らした。途端にその物は消えてなくなってしまう。本当なら持って歩いた方が良いのだろうが、色んな意味で隠せないので万が一、だ。紅葉は慣れ親しんだ屋敷を見上げる。柱に軽く手を当てて、その木の温もりを感じる。薙も、紅葉がいない時にやっていた。まぁ紅葉は物陰から見ていたのだけれど。


「もーみーじー!置いてくよー」


雛丸のイタズラ染みた声が聞こえる。それに紅葉は慌てて振り返った。薙が作った五芒星の陣から五色の光が仄かに放たれている。発動している。そう思うよりも早く紅葉は駆け出した。光の向こう側で薙が呆れたように、可笑しそうに笑いながら手を伸ばしている。その手に向かって紅葉も手を伸ばす。その手を掴んだその瞬間、そこにいた彼らは姿を消した。残されたのは、彼らが慣れ親しんだ暖かくも優しい我が家だけ。


あー楽しい!では、今日は此処までです!

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