第四十三話 兄弟の実力
千がこちらに向かって駆けて来る『眼』に向かって大太刀を大きく振った。その素早い一撃は少数の『眼』を消したが、リーチに入り込んだ『眼』は容易に倒せない。千は後方へ足を引き、迫る『眼』に備える。二体が一斉に千向かって刃物を振り下ろす。一週間ぶっ通しで稽古したからと云って、すぐに現れる訳ではない。大太刀で二体の重い一撃を防ぐが振動が大太刀を伝って腕へと伝わり、腕が悲鳴をあげる。千は苦痛に顔を歪めながら二体を弾くと大太刀を大きく振りかぶった。一体の腕を弾き飛ばしたようで黒い腕が宙を舞った。その時、背後で気配がした。ハッと振り返り様に大太刀を振るが、背後に迫っていた『眼』の一撃は重く、そして強く千の抵抗虚しく、彼は吹っ飛ばされてしまった。腹に来る強い衝撃。その衝撃に胃の中の物を思わず吐き出しそうになった。千は先程まで団らんを楽しんでいた居間に吹っ飛ばされた。
「……イッタァ…やっくんとゆーくんに怒られるじゃん」
ガッと大太刀を畳に突き刺し、杖代わりにして立ち上がる。千の体には吹っ飛ばされた衝撃で掠り傷ができていた。先程、千を吹っ飛ばした『眼』も他の『眼』も居間に侵入し始めている。千は大太刀の柄を握り締め、静かに息を吐く。
「…ふぅ…(すぐにやっくん達や紅葉みたいに強くなれるなんて思ってない。でも)」
大太刀を構え、足に力を籠める。『眼』と千の鋭い視線が交差する。どちらが早かったか。両者が大きく跳躍した。千は居間の中にある柱に両足をつけ、別の方へ跳躍する。来ると思っていた『眼』一体が柱に激突した。別の迫って来る『眼』に向かって大太刀を勢い良く突き刺す。それは防がれ、もう一体が千の懐に潜り込むと刃物を顔に向かって突き上げた。辛うじてかわすが、頬に一線入ったらしく、首筋に生暖かい血が蛇のように筋を作る。千は大太刀を思いきって手放した。そのまさかの行動に二体の『眼』は驚愕に目を見開いた。千は懐に潜り込んで来た『眼』の刃物を叩き落とすとその刃物を掴み、『眼』の目に向かって突き刺した。その次に手放した大太刀が畳に着く前に足で拾い上げると柄を回し蹴りする。すると大太刀が突きつけられ、目の前にいた『眼』の胴体に大太刀が突き刺さる。千は柄を掴み、再び強く突く。『眼』が痛みに呻いたのを聞き、千はニッと悪戯っ子のように笑い、大太刀を容赦なく抜き放ち、大きく振り回す。先程の刃物を刺したために目に刃物がある状態になった『眼』と大太刀を突き刺していた『眼』二体が千の攻撃を防ぐ。グッと力を入れて動かそうとするが、二体共にナイフのように鋭くなった爪で刃を掴みあげているため、動かない。どんなに強く突いても引いても動かない。千が焦ったのを見込んでいたのか、さらに別の『眼』が壁や障子を足場に跳躍しながらやって来、彼の頭上から黒い剣と同化した腕を振り下ろした。ヤバい。そう思った千だったが、唐突に大和の行動を思い出した。
「舐めんなっ!」
掴まれた大太刀を軸に千が片足を剣を振り下ろす『眼』に向かってあげる。靴の裏底で上手い具合に防ぎ、回し蹴りを放ち、その『眼』を後退させる。千の脳裏に大和の言葉が甦る。「武器に頼り過ぎるな。全てを使え」、それは今でも言える事!千は背後の襖に軽く跳躍すると襖を走り、掴まれていた大太刀を奪い取る。前のめりになった『眼』の背後に回り込み、一刀両断。だがすぐに倒れるはずもなく、背中に深い一線が刻まれたのみだった。悔しそうな表情を浮かべる千。態勢を立て直そうと後方へ足を向けた。突然、横から手が千に向かって襲いかかった。その長く影のような手は千の首に一直線に向かい、その首を躊躇なく締め上げる。いきなりの事に千は抵抗できず、体から力が抜けて行く。目の前には二体の『眼』が迫っている。この手をどうにかせねば、何も出来ない。
「千!」
京の緊迫した声が響いたと共に千の首を締め付けていた手がボトリと音をして畳の上に落下し、消える。息を吸える快感に千が思わず座り込む。そこへ『眼』が駆ける。その前方に京が滑り込み、精神統一、横に薙払った。一体が腰辺りから真っ二つに裂け、もう一体が襖まで飛んで行く。京が警戒しながら千の元まで軽く後退すると構えを解かずに片手を弟に向ける。京の体には掠り傷が多く、肩に大きな、それでも浅い傷があった。
「千、大丈夫ですか?」
「ゲホゲホ……うん。ありがと兄ちゃん」
京の手を掴んだ千を勢い良く引っ張り上げて立ち上がらせる。そして二人は手首を軽く合わせると動きが鈍っている『眼』に向かって同時に跳躍した。腰辺りから真っ二つに裂かれた『眼』が京に向かって爪を突き刺す。それを顔を横にずらしてかわし、太刀で四つの爪を一気に防ぐ。京がその態勢のまま、軽くしゃがむ。とその肩に手を置き、軸にしながらバク転しつつ千が現れる。千は動けぬ『眼』に向かって頭上から大太刀を振り下ろし、串刺しにする。あまりの痛さに『眼』が激しく痙攣し、動きを止めた。千の隣に黒い影が伸びる。襖に吹っ飛ばされた『眼』だった。鋭い爪と視線を千に向けながら態勢を低くし、かわしきれないであろう至近距離まで迫る。ブンッと振られた爪を上体を仰け反らせて回避する。
「兄ちゃん!」
「云われなくとも、そのつもりです!」
上体を仰け反らせた千が大太刀を抜きながら後転する。それと入れ違いに京が『眼』に迫る。追撃が来る前に太刀を振る。が一瞬の隙で傷があった肩に再び追撃を加えられ、顔を歪めたが太刀を振り切った。腕が一気に切られた『眼』。だが、残った部位のみでバランスを取りながら後退しようとする。そこに京が太刀を突きつける。動きを止めた『眼』。京は太刀を上へ勢い良く振り上げた。真ん中から真っ二つに裂けた『眼』。京の元に先程の手が迫るが今度はそれを千が叩き切った。切られた手は黒い剣と同化した腕を持つ『眼』の胸元辺りから伸びていた。どうなってんじゃ気持ち悪っ。と兄弟は思ったとかなんとか。京と千は並ぶ。互いの肩が触れあう。
「強くなりましたね千」
「っはは、兄ちゃんもね……此処に二人がいたら…」
兄弟よりも強い兄と千の親友。此処に彼らがいたらどうだっただろうか。誉めてくれた?助けてくれた?それとも…でも、そんな事、わかるはずもない。京と千は軽く息を吐き、深呼吸をする。敵は確実に減っている。以前の、約一週間前の自分達では到底敵わなかったであろう『眼』に自分達は、少しでも優勢になっている。真剣な表情で顔をあげる。無表情な瞳を向ける『眼』。噂が本当かどうかはわからない。けれども
「千、行きますよ」
「任せてよ兄ちゃん!」
「「私達/オレら兄弟の実力、受けてみなさい!/受けてみろや!」」
兄弟でいれば、きっと大丈夫。
二人は同時に『眼』に向かって跳躍した。
とりあえずこれも合わせてあと二つ投稿致しますー




