第四十話 実力
何処かに向かって歩く彼らの背後には人間のようでありながら、無感情で無表情の酷く人間染みて人間に見えない者達がぞろぞろとついてくる。いや、者と表現するのは誤りかもしれない。
「んっふふ~♪」
そんな者達の前を歩く彼らのうち一人が上機嫌で鼻歌を歌う。本来ならば、鼻歌を歌うような性格ではないのだが、何故だろうと云う疑問は湧き起こらなかった。
「見つけたァ~」
楽しそうにそう言う一人も、自分も、既に壊れてしまっている事にさえ気づかないほどに堕ちてしまっている。一人は酷く冷めた、それでいて愉快そうに口角を裂けた。
…*…
ハッ、と紅葉はまた気配を感じて振り返った。なんで、自分には感じ取れてみんなには分からないんだろう?やはり、自分が変なのか?それとも疲れているだけ?紅葉はうーんと両腕を組み、考え込むが分からないものは分からないので呆気なく放置した。そして中庭で行われているものに視線を移した。
「イッタ!?」
「ほら、早く立って!そんなんじゃあ一生俺には勝てないし、一生怪我だらけになるよ」
「む。んだとやっくん!?」
怒ったのか、千は大の字になって倒れていた状態から勢い良く跳ね上がると立ち上がり、鞘に収まった状態の大太刀を強く握った。そのやる気に大和はニィと歯を見せて笑うと薙刀を両肩に担ぎ、軽く片足を浮かせた。
「頑張れー!」
「大きく振りすぎるなよ。隙が出来るぞ」
「白桜、どうぞ。この間大和が振る舞っていたものとは別の自家製の炭酸ジュースです」
「嗚呼、これはどうもありがとうございます。こちらもまた美味しそうですね」
キッと余裕綽々といった大和を睨み付ける千。そんな二人を見守るように縁側には雛丸と薙が座っている。雛丸は応援係、薙は大和に頼まれ、千の弱点を探っている。雛丸の膝の上には猫の姿をした侑氷が丸まって眠っており、時折目を開けては、「どうせ大和が勝つじゃろう」と千を煽るような事を言う。逆にそれが千のやる気ーただ単に大和をひれ伏せさせたいーを上昇させている事を侑氷は計算済みでもある。彼らがいる縁側の前の部屋は居間で、京が白桜に大和特製の炭酸ジュースを振る舞いながら、この間の仕返しの如く兄弟(弟)トークで盛り上がっている。テーブルの上には全員分のグラスが置かれている。紅葉がいるのは薙の隣で柱に凭れるようにして大和と千の「特訓」とやらを観戦している。
楽しくも愉快なあの夜の後、彼らは自分達が手に入れた情報等があったため、それらを公開した。紅葉と薙からもたらされた噂は証拠がないため信憑性がなく破棄。だが、行方不明の理由にはなり得るとして微妙保留。また、白桜が大和を『勇使』に引き入れたと云う事に話を聞いていた紅葉以外の二人はあまり驚かなかった。『勇使』は『勇使』に値しそうな者をスカウトするのも仕事の一つである。『勇使』が多くいればいるほど、情報は多く帝に集まるのだから。侑氷でも良かったのではないかと思うが、白桜の判断だ。なにかあるのだろう。また先程もこの間とあったように紅葉達は既に六泊、ほぼ一週間滞在している。理由は『勇使』候補としての手続きもあったが、なにより大和からの願いからだった。大和によると彼も侑氷も『眼』を倒せるほどの実力を持ち、だがそれを隠している。兄弟二人が心配で此処に居候しているが『勇使』となるならば少しでも此処を離れる際、安心できるようにと兄弟二人を特訓したいと云う。京も千も実力は低いが鍛えれば強くなるらしい。大和はそんな兄弟のために紅葉達に教官及び特訓相手を頼んできたのだ。実力は分からないが、『勇使』ならば多少腕に自信があるはずと云う理由からだった。大和には誰が『勇使』でその相方か分からないはずだが、ほぼ一斉に白桜を見たことだけは記録しておこう。まぁ休息だと紅葉と雛丸は喜び、薙も白桜も嬉しそうだった。と、云うわけで紅葉達は兄弟二人を大和と共に特訓させつつも休息を取った訳である。ちなみに兄弟二人もいつかやらなければならないと思っていたのでちょうどよかったらしい。あと、特訓は一日中交代制の鬼畜メニューでした、はい。
と云うことで今まさに京は休憩中、その代わりに千が鬼畜指導を受けているのだ。
「千は大太刀を振り回して隙が多く出来るが、攻撃を仕掛けるタイミングは良いな」
「うん、京さんは相手の隙を窺うけど。二人共、飲み込み早いよね!」
薙がうむ、と顎に手を当て考えるように言うと紅葉が云う。確かに約一週間前は京は大振りすぎたし千は大太刀に振り回されていた。けれど今はそのほとんどが改善されている。大和の云う通りだ。それに兄弟の兄と千の親友は強かったと云うし、その影響もあるのかもしれない。
「誉めてもらえて嬉しいです」
「まぁ、ボクたちには勝てないけどねぇー!」
京が笑って云うと雛丸がトドメを刺すように振り返りながら言った。京は分かっているようで頷いていたが、白桜は少し苦笑していた。紅葉達の前では大和と千が何度も何度も刃ー鞘付きーを交差させている。しかし、千の一撃は大和に軽々とかわされ、「もっとこい」と挑発されている。それに千が乗りそうになったが「「ダメ!」」と云うなにかへ駄目出しをする紅葉と雛丸の声に我に返り、一旦後退した。それに大和はハッと鼻で嘲笑う。さあ、本気を見せてみろ。
「千、そんなんで終わりなわけ?」
「は?」
「「……大和さん、煽ってく~」」
クイッと顎を使って煽る大和。その挑発に千が低い声を発した。紅葉と雛丸が「やりやがった…」と打ち合わせしたわけでもないのにハモる。千の顔から苦痛や笑顔が消え去る。スッと大太刀を構えた。その真剣な彼の表情と殺気に大和は我知らず微笑んだ。
「そう。千、俺を殺る気でかかってこい!」
「……はぁあああ!」
「「!!」」
千が大きく跳躍し、大太刀を縦に振り下ろした。その一撃は先程よりも数倍も素早い。その一撃を大和は右へかわすと薙刀の柄の部分を無防備な千の脇腹目掛けて振り回す。がそれを千はいち早く察し、大太刀を手元で滑らせ、柄の部分でその一撃を防ぐ。千が持っているのは鞘。そのまま、ブンッと大和に振る。が大和は素早く後退し、かわすと薙刀を片手首で弄ぶ。態勢を低くし、彼の足を刈るように片足を回す。大和の足を回避し、千が大太刀を振り下ろす。大和は片足を振り切った状態から足を入れ替え、迫る大太刀に向かって足を振り上げた。途端に上へと衝撃を受けて飛ぶ大太刀と千の手。大和は素早く立ち上がり千の横を通り過ぎ、その背中に向かって踵落としを食らわす。前のめりになった千の背後から容赦なく薙刀の切っ先を向ける。と、千も負けじと痛む背中を庇いながら鞘に収まった大太刀をクルリと回転させ、本来ならばあるであろう切っ先を背後にいる大和の首筋に向けた。がそれは大和の素早い薙刀回しで簡単に弾かれてしまった。少しでも動いたら自分が殺される。そんな殺気が背後から漂って来る。自分で挑発に乗ったのに、背後を見れない。チラリと前方に視線を移せば、仲良くなった紅葉が「おー」と感心したと云わんばかりに目をキラキラさせ、雛丸は膝の上の猫状態の侑氷を撫でながらこちらも目をキラキラさせている。薙はいつの間にか手にしたグラスを飲みながらこちらを納得したように見ているし、白桜もこちらを見ており、京は嬉しそうに手を軽く叩いている。
「五十点!」
「プラス十!」
「最初よりは良くなったんじゃねぇの?」
「以前よりは動きが素早くなったように思います」
「千、成長しましたねー」
「いや、やっくんから殺気きてるのに誉められるのはなんか違う気がする!」
口々に言い出す彼らに千がそう言う。そんな風景になんか安心してしまったのか、ドバッと汗が吹き出して来た。ポン、と背後から頭を優しく叩かれたかと思うと殺気を消した大和が千の横を通り過ぎながら云う。
「良かったと思うよ。休憩入れよ」
大和と千は二人の分のグラスを持った紅葉の元へ駆け寄りながら、大和は笑った。
「ねぇ紅葉、どうだった?」
「ん~誉めてしんぜよう!」
「何処のお偉いさんだよ!?」
「ハハハハ!」
暫くの休憩時間に笑顔が弾けた。
さあ、さあさあさあさあさあ!!やるよ!




